加護の儀式 1

僕とカーナとリーシェンは、今、神殿の前に立っていた。


「レン様、いよいよ加護の儀式の日がやって参りましたね」


カーナが僕より嬉しそうにしている横でリーシェンが静かに佇んでいる。

普段外に出るときは、僕専属のカーナだけが護衛の任に付くのだけど、今日に限ってはリーシェンも同行していた。

母様が言うには、今日の儀式の様なイベントには、貴族が多く集まるので必然的にお互いの見栄の張り合いの場となるとの事。

それが特に解りやすいのが専属の戦闘メイドの競い合いらしい。


「ごめんね、リーシェン。はっきり言って君達の評価競争なんか僕は嫌なんだけど、ブロスフォード家の為に我慢してね」

「そんな! 私はレン様の同行が出来て大変嬉しく思っていますから気にしないで下さい」


リーシェンは浅くお辞儀をしながら気にしないように言ってくれる。でもこの二人が付いてくれるならドラゴンが襲って来ても大丈夫のような気がする。


「取り敢えず、神殿に入りませんか?」


カーナの言葉に僕も賛同し三人で神殿の中へと入って行く。

僕は神殿と言うので最初イメージしたのは、ギリシャとかローマの石造りの建築物を思い出した。

けどこのフォレスタール王国の神殿は、どちらかというと中世ヨーロッパで多く建てられたルネッサンス様式の教会に近い雰囲気を持っていた。

石や木を巧に使い、アーチやドーム状の屋根を取り入れた、とても美しい神殿である。

建造はこの王国がまだ一つの都市国家だった500年前から存在し王城はその300年後に建てられていた。

その間も増築や改築をそれぞれが進め今の様な形に落ち着いたのはほんの50年前くらいらしい。

僕たちは、神殿の3メートル位ある大扉をくぐり、奥の大聖堂へと向かって歩いて入って行く。


「す、凄い!」


僕は思わず声を出していた。

大聖堂に入るとその大きさに圧倒される。

幅は25mで奥行きが70mくらいで天井までも15mくらいありそうな大空間がそこにあり、正面にステンドグラスが壁面いっぱいに施されていて、これが300年も前の建物とは到底信じられなかった。

何より驚いたのが天井から吊り下げられた直径が3mはあるであろうクリスタルで装飾されたシャンデリアが3基、奥へ向かって並べられているのは圧倒される光景だ。


「あんな重そうなシャンデリア、よく落ちないよなあ」


僕は天井に吊られるシャンデリアを口を開けながらポカーンと見上げていた。


「ふふ、レン様は神殿内部は初めてなんですよね?」


リーシェンが僕の直ぐ右斜め後ろを付いて歩きながら話しかけてきた。

ちなみにカーナはその反対側ね。


「そうだね。加護の名を受けるまでは例え貴族でも立ち入ることが許されていないからね。ようやく入れて嬉しいよ」

「レン様、儀式が始まるまでもう少し時間がありますがどういたしましょう?」


リーシェンが僕の横に来て小声で耳打ちしてきた。


「そうだね、あまり目立つのも嫌だから、あそこの柱の影の下にでも行こう」

「はい、その方が宜しいかと。どうも、かなり目立っているようですので」


リーシェンは周囲に目配せしながら小声で話してくる。

僕は、それとなく周囲を見回して見た。確かにこの大聖堂内は、結構な数の貴族や商人、そして平民と多くの人が集まっていた。

ただ平民は流石に貴族とは集合する場所が別れているようで、大聖堂の横に隣接する幾つかの会議室のような場所に誘導されているようだ。

そしてそれ以外の者がこの大聖堂内に残っているのだが、その者達の多くが僕達に視線を向けているようだった。


「本当だね。でもどうして目立つんだろうか?」


僕はそう言って、自分が着る服を再度見直してみた。

今日は重要な儀式と云う事で、母様がブロスフォード家の正装に手を加えさせ僕専用の衣装を作って下さったものなんだ。

元々ブロスフォード家の正装のシンボルは白を基調にしたシンプルなデザインが特徴で、あまり装飾を施す事はしないのが伝統だ。

僕のもそれにならって白を基調として青のラインが縦に入り一部銀細工の留め金が使用される程度で、青のショートパンツに白のシャツを着、その上から白と青でデザインされたロングジャケットを羽織っているだけだ。後は帯刀している刀も少しばかりの金細工が施された鞘が見えるだけでそんなに目立つ物ではないはずなんだけどなあ。

ちなみに、メイドの二人も正装様でいつもと違い僕の服と同じデザインの色調で白のスカートにショート丈のジャケットで決めていた。もちろん帯刀もしている。


「そんなに目立つ、この衣装?」


僕は自分の着ている服を見回しながらカーナやリーシェンに尋ねた。


「レン様、衣装ではないと思いますよ」

「そうですね、周りの声を聞いてみると良く解ると思います」


カーナとリーシェンがそえぞれ衣装でないと言ってくる。僕はリーシェンの言う通り、周囲の人達に向けて注意深く聞き耳を立ててみることにした。


「あの、可愛らしい女の子は一体何処の貴族の者なんだ?」

「あの女の子、帯刀しているわよ? システィーヌ様に憧れている子なのかな?可愛い!」

「美しい赤い髪に白い正装が映えて物凄く目立っているぞ」

「あんなに美しい女の子、何故今まで知らなんだ!」

「お前、あの子の素性を調べろ!」

「あの子の後ろに居るメイド、派手な衣装着てるけどまだ若そうだし大して強そうに見えないな」

「しかしあんな子供には勿体ないメイド達じゃないか。わしの処に来るよう手筈を整えろ。」


僕は母様との鍛練の成果か、2、30メートル位の範囲内なら、人の声なんかを聞き取る事が出来るようになっているし、読心術もマスターしているから人のヒソヒソ話も良く聞こえるんだ。

最初はあまり目立たないようにって話してたはずだけど、充分に僕たちは、目立っていました。

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