カーナ
「見られてしまいました・・・」
私は、今までレン様に専属メイドとして仕えて来ました。
レン様がお生まれになった時、私はレン様の虜になり、この子の為に私の全てを捧げると誓ったのです。
当初、あの変態システィーヌ様から生まれてくるお子様にお仕えする為に、このブロスフォード家に連れて来られたんです。
でもあの変態システィーヌ様に良いようにあしらわれ、辱めを受け屈辱を味わってしまった、当時5才の私でしたがそれなりに戦闘は自信があったのにです。
不覚でした。
それからは、お子様の事はどうでもよく、変態システィーヌ様に勝つ事だけを考え、嫌々ですが変態システィーヌ様の元で修業を重ねました。
それから数年後、あれだけ結婚なんかしないと言っていた変態システィーヌ様が突然結婚され、しかも自分より弱いお方を選ばれた事に当時は驚いてしまいました。
それから程なくして身篭られました。
それはそれでおめでたい事なんでしょうが、私にとっては屈辱を上乗せされた苦い思いでです。だって身重のシスティーヌ様に挑んで全く勝てなかったんですよ。
これだけのハンデがあってですよ。数ヶ月落ち込みました。
悔しくて何度か対戦挑みましたが、臨月近くの時はさすがにリーシェンメイド長に怒られました。
それから暫くして変態システィーヌ様のお子様が誕生されたのです。
これが私の人生を決定づけた出来事だったのかもしれません。
「カーナ、私の子、レンティエンスを見てあげて」
この時私は、変態システィーヌ様があんな表情をされるのが信じられませんでした。
あれが母親の顔という事なんでしょうか?
とても神々しく穏やかな表情に私は始めて感動を覚えました。
まさかあの変態システィーヌ様を見てそんな感情になるなんて人生何が起こるか判らないものです。
私は、言われるままに変態システィーヌ様の横で動く小さな生き物を覗き込みました。
それはとてもとても小さくて、白くて、髪も薄く、とても同じ人種だとは思えませんでした。
でもその生き物はしっかりと呼吸をし、胸の上で本当に小さな拳を力いっぱいに握っていました。
私は、この時その日二度目の感動を味わったのです。
「こんなに小さいのに、一生懸命生きていますね」
自分で言っていてとても変だとは思ったのですが、本当にそう思ったのですから仕方ないじゃないですか。
「ふふ、そうね、本当に生きているわ。それも力強くね」
私は頷きました。
今までどんな鍛練を受けても素直に頷いた事なんか無かったのに不思議と素直になっていました。
それからもずーっと赤ん坊に見入っていたんですけ、あまりに可愛らしかったので女の子だと思っていたんです。
「とても可愛らしい女の子ですね」
「え?違うわよ。男の子よ、この子」
今日は一体どれくらい驚く事が起こるんでしょうか? てっきり女の子だとばっかり思っていたのに、まさか男の子だとは!
「本当よ、ほら?」
変態システィーヌ様は赤子の着物の前をちょっと開け、とっても小さい男の子を見せてくれました。
「とても可愛い」
私は自分でいった言葉が恥ずかしくて顔を赤くしているのが分かりました。
男といってもこれだけ可愛いければ愛おしいと思うんでしょうか?
このままこの赤子が大きくならなければ良いのに。
そんな風に思いながら赤子に近づいていたら、う、うん、とか言いながら体を動かし始めたんです。
私はじっとその動作を観察していたんですが、いきなり目を開けられたんです。
その小さくも力強い瞳の中に私が写っているのが見えました。
私はその瞳から目を離せなくなったんです。
とても深いブルーの瞳は私の何かを捕らえて離さないんです。
「何だろうこの気持ち」
私の言葉に合わせるように、レンティエンス様が小さな手を私に向けて伸ばして来たんです!
私はその手を取るか取らないか迷いました。
だって取ったら私の力で押し潰してしまいそうだったんです。
こんなに怖いと思った事は、変態システィーヌ様に叩きのめされていた時にも感じませんでした。
「カーナ、手を取ってあげて。この子があなたを見ているのよ」
何かズーンと胸に来たんです。
何かって言われても判らないですが、物凄くズーンと響くものを感じたんです。
私は恐る恐る手を伸ばし、そうっと、本当にそうっと腫れ物を触るようにして小さな手を私の手に乗せました。
「え? ええ? あ?! ん?!」
その時、私は今までに感じた事が無い程の温かなものが、私の中に入って来るのを感じたんです!
何とも言い表せない気持ち良いもので、そのまま私は自分の意識をそれに委ねていました。
『君は誰?』
「え? 今誰か喋りましたか?」
『君は誰?』
「え?その、私は、カーナ・・です」
『そう、じゃあ僕の大切な人だ』
何ですか、これは!?私は今、誰と話しているんですか!?
私は一生懸命に周囲を見回し誰か居るのか探しましたが結局判りませんでした。
「・・・・・・・・カ・・カーナ、カーナ!」
「!! え!?」
「どうしたの?急に動かなくなったから心配したわよ」
変態システィーヌ様が私の手を取り、心配そうな顔を向けていました。
私は片方の手をシスティーヌ様に、もう片方をレンティエンス様に握られ、呆然と立ち尽くしていたようです。
まだ頭がボーッとした感じが残りますがさっきの体験は明確に頭の中に残っています。
「いえ、申し訳ありません。何か、誰かに呼ばれた気がしたので」
「そう? それより、レンがね貴女のこと相当気にいったみたいよ。手を離そうとしないもの」
私は、握る手を見てから改めてレンティエンス様の顔を見ました。
どうしたんだろう、先ほど見た時と同じ赤子のはずが、こんなにも愛おしく感じるのはどうしてなんですか!
私は自分の感情に驚き、でも凄く嬉しいとも感じていたのです。
なんでしょうこれは! この胸の高鳴りは! 顔が熱くなる。
レンティエンス様の顔がまともに見られないです。
「どうしたの? カーナ、顔が真っ赤よ?」
「そ、そうですか?、べ、別に普通だと思いますけど!」
「ほら、よく見てご覧なさい」
そう言って手鏡を私に渡してくれたので自分の顔を写してみたら、とんでもなく赤くなった私がそこにいた。
「シ! システィーヌ様! 一体これはどしたんでしょう! 私、病気になったんですか!?」
「貴女、本気でいっているの? それは恋した女の子の顔よ。さてはレンに恋したわね?」
今、変態システィーヌ様が何を言ったんでしょうか? 私が恋ですって? 何それです。恋なんて私がするはずが・・・・
「あ、あ、だあ、だ」
レンティエンス様が私に向かって喋って下さった! なんて愛おしい声なの!
「あーあ、カーナったら完全にレンの虜になってしまったようね。いつも私の事、変態、変態って言うわりに、自分も赤ん坊に恋する変態だったんじゃないの。私と同類だったわね」
なんて事! まさか私が変態だったなんて! でも今なら分かります! 可愛いものは可愛いいんです! それを愛でて何が悪いっていうのですか!
「システィーヌ様! 今まで変態、変態と言って申し訳ありませんでした! これからは同じ変態として尊敬を込めて変態システィーヌ様とお呼びいたします」
「全然変わってないじゃない」
変態システィーヌ様は何故か憮然としておられるが取り敢えず問題ないでしょう。
「とにかく決めました! 私はレンティエンス様の恋の奴隷となりましょう! 必ずこの身を盾にお守りいたします!」
この時から私のレン様への片思いが始まったのです。
だから私の・・・を見られたのは嬉しいこそあれ嫌なわけがありません!
しかもレン様自ら私のスカートを斬ってですからその喜びは至上の極みです!
ん? これって変態なのでしょうか?
いや! 気にしたら負けです!
普段、レンの前では見せないテンションで拳を振り上げるカーナは、とても嬉しそうでしたとさ。
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