稽古

時は戻り、今。


「そんな事があったんだ」

「はい、ですので私は、システィーヌ様を倒す事が目標なのです」


僕は今、朝の鍛練をカーナに指導してもらいながら、カーナがこの家に来た頃の話を聞いていた。


「それでカーナは、もし母様に勝つことが出来たら、その後はどうするの?」

「その後ですか?」

「うん、だってもしカーナが母様に勝ったらこの家にいる理由が無くなるんじゃないかと思ったんだ。そしたら、この家を出て行くんだろうかって心配になってね」


僕は、素直に聞いてみた。

だって、カーナは僕が生まれてからずっと一緒に居てくれていた訳だし、今更他の人に専属になってもらうのは何か嫌だなって思ったからだ。

これは前世の僕と云うより、このレンティエンスの意思の方が強く働いている気がする。

それに覚醒してから思うんだけど、前世の自分の考えより、レンティエンスとしての意思が優先されているようで、感情の表現なんかが、時々自分が思っているよりも激しく出ることがあるように思える。


「レン様、もし私がこの家を出て行くと言ったらどうします?」

「!!!!! うっ、ぐす」


あれ?僕、今泣いている?確かに今のカーナの言葉にはショックだったけど泣く程ではないはずなんだが。


「あ! あの、レ、レン様! す、すみません!! まさか泣かれるとは思いませんでした」

「ご、ごめんね。自分でもびっくりなんだけどね。カーナが居なくなるって想像したら、もの凄く辛いだろうなって思っちゃった、へへ」


僕はカーナに、これ以上心配掛けたくなくて、少しばかり無理に笑顔を作って大丈夫アピールをしてみた。


「そ、そうですか。あ、ありがとうございます」


『キュン!! ああ!駄目! レン様!! そんな天使の様な顔で見られたら私、どうにかなってしまいます!!』


「あれ?カーナ顔が少し赤い気がするけ大丈夫?」

「な、なんでもありません!さあ、稽古の続きを始めますよ!」


カーナがそそくさと模擬刀を持って修練場の真ん中へ向かって行った。

僕もその後を追って行く。


ここはブロスフォード家の施設修練場だ。

屋敷に併設して造られていて、100メートル四方の外部修練場と、50メートル四方の内部修練場の、二つの施設があった。

僕たちは今、その内部修練場にいた。

と、云うより、僕の修練の時はいつも内部で行う事になっている。

外で修練していた時、万が一屋敷の住人以外に僕の鍛練が見られないようにとの配慮らしい。

それと、これは母様との約束なのだけど、僕が成人する10才までは人前で自分の力を見せちゃいけないんだ。

どうしてかは判らないけど、母様がそう言うなら守った方が多分僕の為になるのだろう。

ちなみに、成人は貴族が10才で、平民は15才と別れている。


「これから、今まで戦闘で教えました基本を駆使して私に一太刀入れてみてください。それでは、始めます」

「判った! いっくよー!」


僕は、身体強化の魔法を掛けると、模擬刀を霞の型で構え腰を低くする。

カーナは正眼の型の構えで特に力を入れず自然体のままで僕を待っている


「ヒュッ!!」


僕はなるべく予備動作を作らず、足の指だけで前へ突進をかける! 

前方を向く刀をそのままの勢いでカーナに向かって突くが、カーナはその間合いを見切ってバックステップで距離を取る。

だけど僕は霞の構えの右手を外し、左腕を伸ばして刀の間合いを瞬時に伸ばしカーナに詰め寄る。

しかし、予想していたのか、カーナは少し体を左横に向け、その突進する刀を避けた。

けど、僕だって負けない!

伸ばしきった左腕に体を左へ回転させながら巻き込み、さらにカーナを追い立てる。ここでカーナが始めて刀を僕の刀に合わせ軽く弾くと、そのまま前傾姿勢になり僕目掛けて突進してきた!カーナの刀は僕の刀を撫でるように近づき、僕の腕に斬りかかろうとする。

僕はそれをかわす為、左で持っていた柄を離す。

右手を切っ先に近い峰に当て、左も手の平に柄を当てそのまま押し込んだ。


「!!」


ちょっと変則な動きにカーナが一瞬体のバランスを崩した!


「チャンス!」


僕は思いきって左手柄から完全に離し、瞬時に右に持ち替えると、切っ先を下に向けて手首のスナップだけで上に切っ先を振り上げカーナを下から襲った。

決まったと思った瞬間、カーナはバランスを崩した体勢を利用してそのままのけ反り手を床に付け、足を思いっ切り蹴り上げ僕の刀を大きく弾いてしまう。


「くっ!」


僕の腕は刀ごと上に跳ね上げられ、今度は僕がバランスを崩されてしまった。

だけど僕も真似してバランスを崩された勢いでバク転をして、体勢を整えようとしたが、それが愚作だった。僕が着地し前方を確認した時には、先に体勢を直したカーナがもう僕の目の前にいたのだ。


「勝負ありました。レン様の負けです」


カーナの刀の切っ先が僕の喉元を捕らえ突きつけられて、身動き出来ない状態にさせられていた。


「ま、まいりました! はあー、やっぱりカーナにはまだ勝てないや」


僕は降参し、模擬刀を腰の鞘に戻した。

カーナも模擬刀を鞘に戻し、僕たちは相対する。直立した後互いが声を出さず、礼をする。


「レン様、凄いです! 基本だけでなく自分で工夫して私を崩したのは、たいしたものですよ!」


いつもの冷静なカーナにしては少し興奮気味に話しているようだ。


「でも結局一太刀も入れることが出来なかったよ」

「いえ、私も身体強化を全開でやっていますから、この歳でここまで付いて来られる人は私は知りません」

「カーナにそう言ってもらえると自信がつくなぁ」


自分でも結構良い線になって来たと思えたから良かったよ。


「それでは、体を拭いて朝食にいたしましょう。」

「うん、カーナ行こう。」


そう言ってカーナが僕を先導してくれる為に先に屋敷へ向かって振り返った。


「! カ、カーナ!」

「どうしました?」

「カーナ、その、ス、スカートが切れて、パ、パンツが見え・・・」

「え?」


僕は見てしまった。メイド服の膝上くらい長さがあるスカートがお尻の上辺りから綺麗に切られ、見事にカーナの純白のパンツを僕は見てしまった。恥ずかしかった僕は顔を下に向け視線から外すが顔が赤くなっているのが判る。


「・・・・・・・・・・・・・・」


あれ?反応がないぞ?僕は、カーナが悲鳴なり、騒ぐなりするかと思って身構えていたけど、いっこうにその気配がない事を不思議に思い、視線を上げてみた。


「!」


視線を上げた僕の目の前に、カーナが腰を屈め僕の視線に自分の視線を合わせる様にして佇んでいた。


「レン様、見ました、よね?」


う!これは正直に答えた方が良いんだろうな、そうだよね?


「う、うん」

「レン様のエッチ」


顔を少し赤らめて、僕を見つめながらそんな事言うもんだから、ただでさえ赤くなっているはずの僕の顔がとんでもない事になっているのは間違いなかった。


「これがレン様だったから良かったですが、他の男の人に見られていたら、その人は即効で死んでいますね。」


うわ~!カーナ、サラっと怖いこと言っているよ。本当にやりそうかもしれないから余計に怖いぞ。


「・・・・・あれ?」

「どうしました?」

「いや、何でもないよ!」


僕の声にカーナお尻の辺りを手で押さえながら聞き返してきたので、何事も無かったように取り繕う。

僕はちょっと思った。

他の男は殺されて、僕はなんにもお咎めないのかな? と云うより、僕なら見られても良いって言っているのだろうか?


僕はもう一度カーナの顔をまじまじと見ると、カーナもニッコリとして笑顔を返してきた。

その笑顔に僕の胸がちょっと跳ねた気がした。

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