この時から始まった 6
「お嬢様!!」
徐々に押されるシスティーヌを見てリーシェンは思わず叫んでいた。
「リーシェンよ、良く見るんじゃ。カーナは、強化魔法も全力で使って攻撃しとる。あれが、全開じゃよ。しかしシスティーヌを見て見ろ。強化魔法はそれ程使用しておらんじゃろ? 良く見てみることじゃ」
リーシェンの動揺が解ったのか、ルル師匠がシスティーヌをよく見るように促す。ルル師匠の言われた通りにリーシェンがシスティーヌの動きをつぶさに追う。
「あ?!」
「分かったかの? システィーヌのやつまだ半分くらいの力しか出しておらんよ。カーナもその事が分かっておるようじゃ」
リーシェンはルル様の言葉を聞いて今度はカーナの顔に注視する。その顔は涙に濡れ、思いっ切り唇を噛み締め何かに耐える屈辱の表情だった。
「そろそろ頃合いかの」
そう言ったが早いか、突然リーシェンの横に居たルル師匠が忽然と消えた。
「え?」
ガッ! ガシ!!
リーシェンが今まで居たルル師匠の場所に目を落としていると、大きな音がした。
「いつの間に」
リーシェンは何か気づき、攻防を繰り返していた二人の方に目を向けると、二人の間に入って両の手でそれぞれの首根っこを鷲掴みしているルル師匠の姿が目に写った。
ルル師匠も天才じゃないですか。
心の中でリーシェンは呟く。
「これ、お嬢、あんまり楽しむんじゃないよ。カーナ、むきになっても今は、お嬢に勝てんのは分かったじゃっろ?」
必死の形相のカーナに対して、嬉しそうにしているシスティーヌ。
「お師匠様、この子、もの凄い素質の塊じゃないですか! 大切に育てますから、私にください!!」
開口一番、玩具をねだる子供の様にカーナが欲しいとルル師匠にお願いするシスティーヌ。
「そう言うと思っておったよ。どのみち、この子をお嬢の子供に宛がうつもりじゃったからの」
「私の子に、ですか?」
「そうじゃ、さっきも話した通り、お嬢の子は、神の加護を受ける。それもかなり強力なものである事は間違いない。その力を巡って必ず争いが起こるはずじゃ。本人の意思を無視してじゃ。その時少しでも力の強い仲間が一人でも多くいる事にこしたことはないからの」
「それで、この子ですか」
「そうじゃ、それに巫女の話では、この子とお嬢の子の相性はバッチリじゃと言っておったぞ」
「あの巫女の話ですか」
ちょっとうんざりとした表情のシスティーヌ。
「でも彼女がそう言うならそうなんでしょう」
嫌々と言いながらもその巫女の事は信用はしている様だ。
「と、言う事で、カーナよ。このシスティーヌの所にお前をやるので、とことん鍛えられて来い!」
ルル師匠に肩を押され、システィーヌの方に一歩前に出させられるカーナ。
「私は! ・・・・こんな変態のおばさんの所なんか本当は行きたくありません!」
「お、おばさんですって! こう見えても私はまだ15才です! おばさんじゃありません!!」
「え? もう25才くらいかと・・・」
カーナの言葉を聞いた瞬間、さっきまでの攻防とは桁違いの全力強化魔法で一瞬でカーナの後ろに回った。
「え? えぇ?! 見えな・・・ヒッ!」
まったく対処できなかったカーナはただ、呆然とそこに突っ立ているしかなかった。動けないカーナにシスティーヌの手が伸びてくる。
「い、いはい! いはい!! た、たふけふぇ!!」
その手は、口の両端を両手の人差し指で、ニィっと引っ張り上げた。カーナは必死にその手を振り解こうともがくが、びくともしなかった。
「助けてあげますから、私の家に来なさい!!」
「!!・・・・・・・・」
「もっと引っ張りますよ!!」
「!!!! ひ、ひふまふ! わわひまひは! ひひまふはら!」
「何言ってるか解りませんよ!」
「!!ひぃいいいいいいい! ほへんひゃふぁい!!」
「ふむ、丸く収まってよかったの!」
「どこがですか!?」
ニコニコ顔のルル師匠に対して、先の事を考えると頭の痛い事が増えたような気がするリーシェンだった。
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