この時から始まった 5

「どうやら気にいったようじゃの?」


システィーヌはいつの間にかカーナの側に立ち、体中のあちこちをまさぐり始めていた。


「ん!? アン! あ? だめ!」


カーナはシスティーヌの容赦ない、まさぐりに抗おうとしたがどうしてか体に力が入らず動けないでいた。


「ルル様! なんですかこの方は?!」


あまりの必要以上のまさぐりに、つい変な声を出してしまい恥ずかしくなったカーナはルル師匠に大声で抗議する。


「すまんのぉ、こやつは良い素質を持つ子を見るとつい触って筋肉の質や内蔵している魔力を見たがるんじゃよ。もう少しそのままでいてやってくれ」


「そ、そんなぁー!!」


その光景を見ていたリーシェンも顔を赤めながら、うん、うん、と頷いて昔の事を思い出していた。


ルル様のお願いを蹴る訳にはいかないのでカーナはそのまま動かずにシスティーヌのやりたいようにやらせていたが、どんどんエスカレートしてスカートの中にまで手を入れられ、太股の内側を触り始めてきたのでさすがに我慢の限界だった。


「この! 変態女!!」


カーナは自分の内にある魔力を制限なく噴出させた!


「こりゃまずい、これ、お嬢なんとかおし」

「これは凄いですね、お師匠様! この歳でこれだけの魔力量を持っているなんて、リーシェンより多いかも」


ルル師匠は言葉ほど焦っているようには見えず、システィーヌにいたっては逆に嬉しそうに笑いながら、カーナの放出される魔力を眺めていた。

すると今まで外に出つづけていた魔力が、カーナの両足、両手にそれぞれ急速に集まりだした。


「お嬢様!危険です! お下がり下さい!」


その異様な光景と体を圧迫させるほどの威圧感にリーシェンは身の危険を感じ、システィーヌの前に出て防御の体制をとる。


「私が彼女の実力を確かめたいから、リーシェン! あなたは下がってなさい」


システィーヌの言葉に反論しようとしたが、その顔は恍惚として恋い焦がれ待ち侘びている恋人の顔の様になっているのに気づき、深い溜め息と共に、前を開けるのだった。


「こうなったお嬢様は誰も止められない。逆に止めに入ったらこちらがただじゃすまないわ」

「お主も判っておるじゃないか」


二人は、カーナとシスティーヌの攻防を静観することに決めた。


一方カーナは集中してきた魔力を巧に操り、自分の両手両足に纏わせると徐々にそれは形作られ、鋼鉄の鎧の様に見えはじめる。

しかも両手の先は鋭利な刃物の様な長い爪が飛び出ており、魔物のそれと似ているように思え異様な雰囲気を作り出していた。


「この、変態!!覚悟しなさい!!」


その声と同時にカーナが、地を蹴り突進する! そのスピードは一瞬で最高速に到達し、システィーヌに迫る!


「え?!」


カーナがまとう魔力の爪がシスティーヌの顔に届く寸前、今まで居たはずのシスティーヌが忽然と消え、魔力の爪は空を斬るだけに終わった。

完全に外されたカーナはその勢いを無理矢理殺しその場に留まると、何も見ないで真後ろに向かって右腕を横なぎする。


ガッキンン!!


もの凄い金属同士が打ち合った音がしたと思ったら、カーナの右腕とシスティーヌの長剣が重なり合っていた。


「凄い! 今の動きを見切ったの? 初見で見切られたの始めてよ!」


興奮した様子のシスティーヌはカーナの動きに感動していた。

一方、カーナは今の動きは、はっきり言って勘に近いもので完全に見えてた訳ではなかった。


「ルル様、私今の動き全く見えませんでした。」


驚きと共に口惜しそうに喋るリーシェンに、ルル師匠はにこやかに答えた。


「あんなの、見える方が可笑しいんじゃよ。このわしでも、やっと追いつけるかどうかじゃ。あの二人は本当の天才なんじゃよ。」


リーシェンは、普通のように語るルル師匠に納得してしまいそうになったが、それで片付けられる問題ではないと改める。


「天才って、そんな優しいものでは無いですよ。だってあの子まだ5才なんですよね」


リーシェンは改めて二人に見入る。二人の戦いはカーナが仕掛け、システィーヌが捌くと云う動作が続いていた。しかし、その拮抗している攻防も徐々にカーナが押して来ているように感じられた。


「まさか、お嬢様が負ける?」


リーシェンは自分の考えを疑った。

そんなはずは無い! あの、狂飆きょうひょうの姫神と呼ばれる、システィーヌ様が押し負けるなんて考えたくもなかった。

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