この時から始まった 4
「まず、今、この世界は色々問題はあるとしても安定期であるのは解るかの?」
「はい」
「ふむ、ちなみにリーシェン、分かるか?」
システィーヌの側に控え、先程、正気に戻っていた、戦闘メイドのリーシェンに、いきなりルル師匠が尋ねて来た。
リーシェンは、システィーヌの方に目線を送る。それに気づいたシスティーヌが了承の意味で小さく頷く。
「はい・・・魔王軍の復活の兆しが今のところ無いということでしょうか?」
「うむ、その通りじゃ」
満面の笑顔で肯定するルル師匠に、ホッと安心するリーシェンだった。
「それが一体どんな問題になりえるのでしょうか?」
システィーヌの問いにフムと少し考えるルル師匠。
「魔王が復活するのであれば、この世界にとって厄災であるのは間違いないが、復活しないならしないで問題が起こるという事じゃ。つまり、平和な世界に浸る数多の国の中に突然、神にも等しい子が誕生すると、どうなる?」
ルル師匠は質問すると、少し考え込むがハッとなるシスティーヌ。
「! 周辺諸国にとって、このバーレフォレスト王国が脅威になるという事ですね」
ルル師匠の言葉にシスティーヌが答える。
人というのは、ある同じ目標に向かった時の団結力はすごいが、その目標が無くなった時、その持て余す力を他国への侵略等に向ける輩が出てしまうのだ。
実際、魔王が倒されてから数十年は平和だったが、ある国が突如侵略を開始し、多くの国通しが争う戦国の時代がその後数年続く事となってしまった。
その後、幾つかの国は合併吸収され現在に至っている。
ここ50年程は大きな戦争は起こっていないが、それは各国の力が均衡している為である。
そこに、神にも等しい子が一国の子爵家に、生まれるとなると、その子を狙い争いが起こる事は、誰にでも予想がつく事であった。
「そこでじゃ、神の加護受ける10才までは、お嬢の手で鍛え上げ心身共に強い子に育ててほしいのじゃ。その後来る、幾多の試練に耐えられる様にじゃ。それと、神の加護の受命儀式の時に細工をして、その子の神の加護を、システィーヌとほぼ同じであると公表するのじゃ。」
ルル師匠の言葉に前半は納得するシスティーヌだが、後半の言葉には小首を傾げた。
「そんな事が出来るのですか?」
「そこはそれ、お前さんの苦手な巫女がなんとかするじゃろ」
ルル師匠の言葉に嫌な顔を隠しもしない。
「そんな嫌そうな顔をするもんじゃないぞ。とにかくお嬢の子が成人するまでは隠し通す。その間にその子を利用しようと出来なくなるくらい、地位と仲間を増やすんじゃ。そして、最終的にはその子を中心に各国をまとめあげ、戦争を回避する!」
熱弁するルル師匠に、眉間にシワを寄せるシスティーヌ。
「本当にそんな事になるんですか? だいたい実感湧きませんよ、私に子供が出来るなんて。結婚もしてないんですから」
「それを言われても、わしかて困るわ。巫女が神の啓示を受けた事をそのまま伝えただけじゃからの。それと、もう一つ!」
「えーまだあるんですか?」
今ひとつ現実味が無いシスティーヌにとって、他に何かあっても特にどうでもいいように思えてきた。
「その子は男の子じゃ」
「あら、男の子ですか? 可愛い子が良いなあ」
「それなら安心せい。他の男から妬まれる程、可愛らしい子らしいぞ。啓示では、男の子、美少女と出たそうじゃからの。それに合わせて、冒険、仲間、女難、英雄、とも出ておったと言っておったぞ」
「何ですか、それは?」
「まあ、物凄く凄まじい人生を歩む事は確かじゃの」
「はあ~、なんか自分の子と云うだけで現実味が無いのに、なんですかその啓示は。私の子はそんな大変な人生を歩まなけりゃ、いけないんですか?」
システィーヌも自分の子というのには現実味を感じないが、師匠の話しを聞いているとその子が不憫な気がしてきていた。
「そんな顔せんでも大丈夫じゃよ。その子を助ける者は必ずおるはずじゃ。その助ける者の一人を我等エルフの里から選ばせてもらった」
ルル師匠がそう言ってシスティーヌに確認する。
「選ばせてって、もうですか?!」
「カーナ、入っといで!」
ルル師匠の呼び声にシスティーヌとリーシェンは驚く。
入っておいでと普通にルル師匠は言っているが、この屋敷に入るのに正門や各門には警備兵が常駐しているし、屋敷内も魔法感知の術が至るところに仕掛けられており、そう簡単に入って来られるものではないのだ。
システィーヌは、最初こそ驚いたものの、今はルール師匠の方を見てやれやれといった感じで見ているが、リーシェンは未だにその存在を感知できないで焦っていた。
「何処! 何処に居るというのですか?」
「ほれ、そこリーシェンの後ろじゃて」
慌てて振り返るリーシェン。すると今までずっと居たかのように佇む一人の少女がそこに居た。
エルフの特徴的な耳が見え隠れする赤みを帯びた長い髪に、大きなグリーンの瞳を持つとても可愛らしい女の子だった。
その女の子はただ、ただじっとシスティーヌを見つめ動かなかった。
「あなた!いつからそこに居たのですか?!」
リーシェンが自分の目の前にいる5才くらいの女の子に、焦り問いただした。
それはリーシェンにとっては先ほどのルル師匠の時よりもショックだったのだろう。
たかが5才くらいの女の子に背後を取られたからだ。
「この子はエルフ族でもこの150年で最も高い資質を持っている子じゃ。この子をお嬢に預けるから、好きに鍛えてやってくれ」
「好きにって、良いんですか?!」
システィーヌは、品定めをする業者の様な目つきでカーナを観察しまくり始めた。
「ほお、お嬢のお目に叶ったようじゃの。お前さんがそんな鋭い顔するの何年ぶりかで見たわ」
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