この時から始まった 3
システィーヌとルル婆様は、屋敷の中の応接室から見えるテラスに置いてあるテーブルを挟み向かい合っていた。
リーシェンが煎れてくれたハーブの香るお茶を飲み、ようやく落ち着いたシスティーヌがルル様を鋭い目つきで睨んでいる。
「いったいどう云う事です? 私はまだ結婚する気は無いですよ? それなのにいきなり私の子供だなんて言われても訳が解りません!」
システィーヌは本気で怒っていた。
自分は今、このブロスフォード家の若くして亡くした父の変わりに、当主として切り盛りしていかなければならない立場なのに、結婚とか子供とか考えてる暇など無かったのだ。
その上、このブロスフォード家が代々その役職を担ってきた近衛師団長になんとか実力を認められ、役職に就くことが出来たばかりなのである。
今、結婚だのなんだのと言ったらその役職も無くしてしまう可能性だってあったからだ。
「まあ、落ち着けお嬢。何も今すぐというわけじゃ無いみたいなんだが、そう遠くない頃にお前さんは子供を授かると啓示があったんじゃ。怒るなら、その啓示を受けたエルフの里の巫女に言えばよい」
「うっ、そ、それはちょっと・・・・」
巫女と云う言葉が出た途端、今までの勢いが無くなるシスティーヌ。
「お師匠、人が悪いですよ。私があの人を苦手にしているのをご存知でしょ?」
「はて? そうじゃったかの?」
わざとらしく呆けてみせるルル婆様。
「ま、まあ良いでしょう。私もいつまでも結婚しないとは思ってませんから、いずれは子供も授かるでしょうし、欲しいとも思っていますよ。しかし、その子が啓示で示されるなんて一体何があるんです?」
システィーヌは落ち着き取り戻すと、いずれ出来るであろう自分の子が神の啓示で知らされる理由が今度は知りたくなってきていた。
もしそれが、不幸に見舞われる様なことなら、なんとか回避出来る方法を考えないといけないと思ったからだ。
成人したばかりとはいえ、女性である。
自分の子が不幸に会うなんて考えたくないのだろう。
「では、今から言う事をしっかり聞いておくのじゃ。始めに言っておくが、冗談ではないからの?」
「は、はい?」
少し不信に思ったシスティーヌだが、ルル師匠の顔はいたって真面目だったのでつっこむのは止めることにした。
「お嬢様、私は下がっていた方がよろしいのでは?」
リーシェンが気を利かせてシスティーヌの耳元で小声で話しかける。
「あぁ、大丈夫じゃ。いずれお前さんも係わる者の一人じゃろうからな?」
「はい?」
ルール師匠の言っている意味が分からないリーシェンだったが、居ても良いという事だったので、システィーヌに今一度確認すると、頷かれたのでその場に止まる事にした。
「では改めて、まずお前さんの子は3年後に授かる。その子は天界に祝福された神の加護を持つ子ということじゃ」
「ま、まあ、私の子ですからね。神の加護を授かるのも不思議じゃないですよね?」
「確かにの。お前の子なら神様の二柱や三柱、加護を授けても不思議じゃなかろう」
そう、神の加護を持つ者の子は、遺伝ともいえるほど、同じく神の加護を授かりやすいのは、世間一般的な話である。
「じゃがの、その子は少々違う意味のようなのじゃ」
「少し、違うのですか?」
「うむ、ここからが本題なのじゃが、お嬢、気を確かに持つんじゃぞ?」
「お師匠、こ、怖がらせないでくださいよ」
ルル婆様の顔は真剣そのものだった。ここで冗談を言う雰囲気も無いので、さすがのシスティーヌも若干、腰が引ける。
「実はの、啓示の内容は、先程も言ったようにお前の出産とその子が神に祝福されているという事以外に、もう一つ啓示があったそうじゃ」
「ゴク、」
システィーヌの喉が鳴るのが、リーシェンにも分かった。普段焦る様な事が全く無い主のシスティーヌが緊張しているのだ。
「そのもう一つと言うのが、この世界の全ての神にとってかけがえのない子となるので、その子を大切に育てる事を望む。加護の授け親はオーディン。神名は、神の対応者レンと・・・」
飲みかけのティーカップを片手に持ち、口に運ぼうとしたままの形で固まってしまったシスティーヌを見て、ルル婆様は、まあ仕方ない反応じゃろうと思った。
「このわしでさえ、聞いた事の無い加護じゃし、その授け親がオーディン様じゃ。この世界の絶対神であり全ての神の頂点である尊きお方。その頂上神オーディン様が加護を授けるなど、有史以来聞いた事がない。」
「・・・・・・師匠・・・」
「なんじゃ?」
「つまり、どういう事でしょう? 私の子って? 神名ですか?」
「そうじゃの、神名などという言葉は聞いた事がないが、そのままを考えれば、神の名、つまりその子は神の名をいただいた事になる」
「つまり・・・・・」
「つまりじゃ・・・・その子は、もしかしたら神になる子かもしれん」
口を開けたまま、固まるシスティーヌとリーシェン。
「まあ、そうなるわな。ただ、そうじゃなかろうか、と言うだけで確証がある訳じゃないからの?」
ルール師匠の言葉に、システィーヌが正気に戻る。
「か、可能性ですか・・そうですよね・・ってまさか・・」
「まぁ、唯事ではすまんじゃろう事は、確かじゃがな・・」
システィーヌは、さすがにあまりにも突拍子もない話に、思考はついて行かなくなっていた。
「はは、私の子が・・神ですか?」
「わしも、未だにピンと来ぬが、それはそれで仕方ないとして、もしそれに近い存在の子が誕生するとなると問題がある」
「問題、ですか?」
システィーヌは不安になる。
一体自分の子に何が起こるのか、不安になりながらもしっかり聞かなくてはと思うシスティーヌだった。
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