加護の儀式 2
「今の話の中で、カーナ達を雇いたい? というより物みたいに言っていた人がいたね」
「はい、私共を、どうにか出来るとでも思っているのでしょうか?」
「レン様以外の貴族が私達の御主人になるくらいなら、この場で首斬って死んでやるわ!」
え? 死んじゃうの?
「あ、わ! わ! レ、レン様! う、嘘ですからね! 死んだりしませんから! 泣かないで下さい!」
駄目だ、カーナがあんな事、言うと冗談だって判っているのに涙が出てしまう。カーナ依存が半端じゃないぞ、レンティエンス!
「それにしても、おの貴族、少し気味が悪いですね」
リーシェンが不機嫌に顔を歪ませ、先ほどの計画を立てている少し小肥りの中年男性を睨んでいた。
僕と、カーナのやり取りはスルーのようだ。
でも確かに、あの貴族の目つきは気に入らない。
多分、自分の家の子でも加護の儀式に参加している貴族なんだろうけど、カーナ達をいやらしい目つきで見ている事が不快だった。
僕はその小太りおやじ貴族の視線を邪魔してやろうとリーシェン達の前に立ってやった。
「レン様、どうしました?」
「え?あぁ、あのおやじ貴族がカーナやリーシェンをいやらしい目つきで見ていたから我慢出来なくて、女の子に対してちょっと失礼だよね? だからちょと邪魔してやろうと思ってね」
ガバ!
「え?」
突然、カーナが僕の腕に抱き着いて来た。
「レン様、格好いい!
「か、カーナ! ど、どうしたの?」
「嬉しくってつい。戦闘メイドを道具にしか見ない貴族も多いのに、レン様は私達をちゃんと女の子として見てくれるから!」
カーナ、嬉しそうだな。
ギュウ。
え? 今度は反対の手をリーシェンが握りしめて来た。
「レ、レン様。わ、私も女性として見て下さるのですか?」
「そんなの当たり前だよ。リーシェンもカーナも僕の大切な身内だと思っているし、こんなに綺麗な女性を毒牙から守れないでは男として情けないからね」
ぎゅうぅうぅう!
え?! 二人の僕を抱きしめる力がまた強くなったような?
あ、でもこれって、二人のむ、胸が、僕の腕を押さえつけてきて、み、身動きが出来ない。案外二人とも着痩せするタイプ何だろうか? これは嬉しいけど一体どうしたんだろう?
「カ、カーナ、リーシェン、ど、どうしたの?」
「レン様、私もレン様の事、絶対守るからね」
カーナ? 少し顔赤くなってない?
「私も、レン様の為なら、この体を張って守りとうございます」
リーシェン?君も顔赤いよ?
「うん、ありがとう。二人ともこれからもよろしくね」
僕は、とっておきの笑顔を、下から見つめ上げる様に二人を見つめる。
「「う!!!」」
二人が今度は僕を握っていた手を離し、バッ! と数メートル程離れていった。
一体、どうしたんだろう?
一方、カーナ、リーシェンは、ヒソヒソ話し中・・・
『カ、カーナさん! 鼻! 鼻血出ていますよ!』
『えー!リーシェンメイド長も出ているじゃないですか! それに耳まで真っ赤ですよ!』
『つい、勢いで抱き着いてしまったけどレン様、嫌じゃなかったかしら?』
『大丈夫ですよ、リーシェンメイド長。いつもメイド長の事、褒めておられますから』
『そ?そうなの?』
『尊敬されていますよ。私が嫉妬するくらいに』
『ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふ』
『・・・メイド長、怖いですよその笑い』
『でも、でも、わ、私はカーナさんほどこういう事態に免疫が少ないのですよ』
『私だって、面と向かって、大切な人、なんて言われるのそんなに慣れていませんよ』
『うー、はっきり言ってカーナさんが羨ましいです。私だってレン様が生まれてからずっと一緒に過ごしていますけど、専属じゃないですからどうしても接点が少ないと云うか、関わりが少ないといいますか』
『年の割に可愛いですよね、リーシェンメイド長って』
『う! 年の割には、余計です!』
『解りました。システィーヌ様にお願いして、メイド長も専属にしていただきましょう』
『え? ええ?!!』
『実は、今回の加護の儀式を機会に社交界にも出られるレン様の身を確実に守る為にと、もう一人専属をと、お考えだったんです。どうしても、私が冒険者組合の仕事で抜ける事もありますから。それで信頼のおける方で、戦闘能力も高い方が必要だったんですが、そういう意味ではメイド長がピッタリですから。歳以外は』
『最後、余計です! でもそれ本当ですの?』
『はい、事実です』
『いっ! よっし! よし! よし! カーナさん! 私頑張るから!』
『はい、頑張って下さい』
『そ、それでは、ここは冷静にいきましょう。レン様より年上の私達が慌ててはいけません。メイドとしてちゃんとお礼を言って平然と構えましょう』
『はい』
あ、二人が振り向いてくれた。話は終わったのかな?
「レ、レン様、あ、ありがとう、ご、ございます。メイドとして、これ以上ない、お言葉、でしゅ!」
「私も、レン、様の専属メイドと、し、してこの上なく、か、感謝、し! しちょしましゅ!」
「リーシェン、カーナ、何か、もの凄い緊張感が漂っているし、かみかみだけど、大丈夫?」
「「だ!大丈夫です!!」」
まあ良いか。悪い事じゃなさそうだしね。
「ありがとう、二人とも、これからもよろしくね」
そう言って僕は満面の笑顔を二人に向けてあげた。
「「!!!」」
あ!二人ともだらし無い笑顔になっちゃった?
「あー、そこのレディー、少しお話しても宜しいかな?」
カーナ達とやり取りしていると、後ろから男性の声がしたので振り返る。レディーではないけどね。
僕はちょっと驚いてしまった。
その声の主がさっきカーナ達を厭らしい目つきで見ていたおやじ貴族だったからだ。
「申し訳ありません、レディーとはこの二人のメイドの事を言っておられるのですか?」
僕は素直にそのおやじ貴族に聞いてみた。だって僕は男だし、レディーと言われればカーナ達だろうなって思ったからだ。でもそのおやじ貴族、お前何言っているんだ? みたいな怪訝そうな顔を僕に向けてきた。
「何を言っておられるのだ? あなたの事ですぞ?」
あ、ちょっと口調が悪者感が出ているよこの人。
あんまり関わりたくないなあ。
「申し訳ありません。僕は女の子ではなく、男ですよ」
深くお辞儀をしながら無礼のないように注意して対応する。
こういう人はこっちが不遜な態度とると倍返しされるからな。
しかしその顔はさっきよりの悪くなったような気がする。
「はあ? 男だと? そんななりでか? 私を馬鹿にしているのか?」
「よく女の子に間違われてしまいますが、男であることは事実です。なんでしたらこの二人のメイドにお聞きになりますか?」
僕は、相手の言葉にムッときたけど、ここで喧嘩ごしで話してもややこしくなるだけだから冷静に対応するよう努めた。けど相手の態度は悪くなる一方だった。
「私を馬鹿にしたな! こんなナヨッとした男が居てたまるか! 正直に女だって言っておればわしの第八夫人にでもしてやろうかと思ったんだが、もう怒ったぞ!」
え?!何それ! 僕をナンパしに来たのか? それに第八夫人ってなんだよ。あのおやじ貴族一体何歳だ? 10才の僕を嫁さんにって、どんだけロリコンおやじなんだ? 気持ち悪っ!!
僕が気持ち悪くて身震いしていると、カーナとリーシェンが僕の前に立ってくれて、あのおやじ貴族からの視線を遮ってくれた。
「申し訳ありませんが、我が主人に無礼を働くのは止めて頂けませんでしょうか」
リーシェンがおやじ貴族の前に出て深々とお辞儀をし、今の行為を止めてくれるようお願いをした。
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