目覚め 2

復習するようにゆっくりと現状を確認していると、目の前に母である、システィーの顔が間近に迫っていることにようやくと気づく。


「レンちゃんさっきから黙っているけど何か気になることでもあった?」


心配そうに見つめて来る母に、ドキリとしてしまう。

日本人の大学生としての意識がハッキリとした今、前世では絶対に巡り会えないであろう美しい女性が心配そうな顔しながら息のかかるほど近くにいるのだ。ちょっとくらい変な気持ちになっても仕方ないじゃないか! と、心の中で叫んで理性を保つ事に成功!


「お母様が美しすぎてちょっとドキッとしただけです」


少し赤い顔になりながら正直に答える。すると母は大きく瞳を見開き、目にも止まらない早さで抱き締めて来た。


「レンちゃん、あなたの将来が心配だわ!」


そう叫びながら、でも顔は嬉しさ一杯のお母様、顔に出ていますよ。


「はは、レンは女の子みたいに可愛いからな。将来ものすごい美男子になるんじゃないかな?」


ニコニコしながら二人の所にやって来たのは僕の父親であるレイナードだ。


「貴方!レンが可愛いなんて表現、陳腐過ぎるのよ! まさしくこの世に舞い降りた天使と言って欲しいわね!」


ふん!という感じで、形の良い胸をさらに突き出す。


「君と僕の子だからね。天使の可愛らしさと云うのも間違いではないと思うよ。ほら、こんなに目元が僕に似ているんだよ」


「聞き捨てなりませんわね。レンは私に似てるんですのよ!」

「はは、君が美しいのは知ってるよ。でもそんな綺麗な君が選んだ僕の顔が悪いわけないじゃないか」

「あら、私はあなたの優しい心と剣技に惚れたのよ。顔なんて二の次だわ!」


等と言い争っているように見えるけど実際は、お互いを誉め合っている様にしか聞こない。


「レンちゃん、ちょっと待っててもらっていいかしら? ちょっとお母さん達、白黒つけてくるから」


そう言って二人で部屋を出ていった。その腰には剣を携えて。


「は~、またですか?」


つい、溜め息が出てしまった。

この二人、相当の脳筋なのだ。

じつはこのブロスフォード家、先祖代々に渡り王国に仕える武人の家柄で近衛師団を代々引き継いで来た名門である。特に母、システィーヌは幼少の頃からその才能を開花させ、若干16歳で近衛師団の師団長になり、狂飆きょうひょうの姫神の通り名を持つ程の王国随一の騎士であった。

その後、近衛師団のナンバー2だった父、レイナードと結婚をし、僕を授かった事を期に引退したらしい。結婚した当時、その美貌と剣技で絶大な人気を誇った母、システィーヌを娶ったとして、物凄いバッシングを受けた父、レイナードは円形脱毛症になったと言う話は有名らしい。


「ちょうど良いや。これで落ち着いて考え事が出来る」


部屋の隅で控えるメイドに冷たい水を持ってきて貰うようお願いを出し、改めて現状を確認する事にした。

まず、お父様、お母様だけど、このバーレフォレスト王国ではかなりの有名人だ。

特にお母様は二つ名を持つ程で実質この家はお母様が実権を握っていると言っても良い。ただ、先ほどの絡み合いからも推測出来るように二人の仲はとても良いようだ。

そして、自分はと言うと、髪は父親に似て太陽の陽に透かすと燃えるように見えるほどの明るい赤髪に、母親によく似たコバルトブルーの大きな瞳と可愛らしい口や鼻が女の子と間違われる程の男の子らしい。

そして今日は自分の10才の誕生日。貴族社会での10才とは社交界へのデビューの年齢でありそして、自分の守護神の加護が判明する年でもある。守護神の加護とは、その人の人生に大きな役割を課す重要なものだ。

例えば、母、システィーヌは速神エルアネス様と剛神アトゥナ様、剣神バトラウス様の複数神様の加護を持つ、世界でも最強の剣士の一人である。はっきり言って神の加護を授かること自体少ないのに、複数の神様が加護を与えるというのは、まずあり得ない事らしい。つまり神の寵愛を受けた英雄というべき存在なのだ。


まあ、母様の加護は異質として、普通は、加護というものは誰でも与えられるものでは無く、主に貴族に与えられ平民には極たまに授けられるものらしい。

これは貴族贔屓ひいきと云うわけでは無く、国の政に加護持ちは重要な存在であり、加護を持つものは必然的に国に囲われ貴族となるからだ。

その為、加護持ち=貴族となり、そして加護を持つ人の子供は同じように加護を持つ確率が高い為である。たぶん遺伝的なものなのかな?

ただ貴族といえども全員が授かるものでもないのだけどね。


そんな神の加護を、10才の時、貴族、平民関係なく全ての子供が天啓を聞き、自分の加護を知ることが出来るわけだ。

で、僕は、その加護が判明する儀式と会わせて社交界へのデビューが一週間後に迫っているという状況だ。


「ふー、どうして自分なんだろうな」


小さく呟き前世の日本人だった頃の事を思い出す。


「みんな、どうしているのかな? 僕が死んで悲しんでいるだろうか? そう言えば、死んだ後、管理神とか云う神様に会ったんだっけ? そこで、何か質問にあって色々と答えたような気がするのだけど・・・」


はっきり思い出せないが、何か重要な事を決めたような?


「しょうがない。いつか思い出すかもしれないから、今は考えない事にしよう」


せっかくの転生だし、社交界なんて前世では経験出来るものじゃないし、このファンタジー溢れる世界を精一杯生きてみよう。と、前向きに考えることにした。

幸い、こっちで生きていく為の条件としては、最高の状況だしね。これも管理神様のおかげかな?


そんな事を考えていると、母様が清々しい笑顔で部屋に戻ってこられた。


「あー、あの笑顔。また、父様は勝てませんでしたか」

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