旅の前に 8
時間は少し遡る。
セルバ執事長は、リデリア以外の魔工師の女性達が、収容されている地下の部屋へとやってきていた。
そこには、リデリアと同じ様に一枚の布のみで身を隠す女性達が、手枷と口を封じられ鎖で繋がれていた。
そんな彼女達の顔を、一人ずつ確認しながら薄く化粧を施されたものがおかしくないか確認おしていた。
「すみません。私にはどうすることもかないません。無力な私を恨んで構いませんので、どうか命だけは捨てる事がないように頑張って下さい。」
独り言の様に、消え入る様な小さな声で、彼女達に謝罪しているセルバ執事長。
「そんなに、苦しいなら辞めてしまえばいいのに?」
「!!!! 誰です!!」
セルバは急いで後ろを振り向き、突然自分の耳に聞こえてきた声の主を探した。
薄暗い部屋の中、扉の前にそれを見つけた。
「あなたは誰です!」
「誰と言って名前を出す侵入者などいないでしょ?」
皮肉めいた言葉に顔をしかめる執事長。
「盗賊ですか? 見たところ女性のようですが、まさか!」
「そのまさかが何を意味しているのか解らないけど、盗賊で無いことだけは言っておくわ。」
この侵入者こそカーナだ。
カーナは、執事長のセルバに正面に立つ。
そして座らされている9人程の女性達を見回して確認する。
「あら、もう一人の方はどうしたのかしら?」
その問いが誰を指しているのかセルバには判っていた。
「さて、もう一人と言うのはどなたのことでしょう?」
白々しいとはセルバも思ってはいるが、それこそ、はいそうですかと言う訳にもいかない。
「まあ、別に居場所も判っているし、今更、問題ないけどね。」
カーナの言葉を聞いて少し、顔を引き攣らせたかと思ったが、それほど驚くこともなく、布で覆われ隙間から覗く瞳から視線を晒さなかった。
「旦那様も、ここまでのようですね。」
「あなた王国の騎士様ですか?」
カーナはセルバの言葉に肯定も否定もせず、ただ黙って立っている。
ただ、セルバにはそれで十分だったようだ。
セルバは両手を前にさし出し、抵抗する意思が無いことをしめした。
「その手は何? 私に捕まえられたいの?」
「は?」
「私は貴方を捕まえに来た訳では無くて、協力を申しで来たんだけどね。」
顔をしかめるセルバは、考えてもいなかった言葉に同様する。
「貴女は、私に旦那様を裏切れと仰るのか?」
「そうです。それがセルバさんの罪の償いだと私は思うのですけどね。」
セルバは、長年ダルナンの元で働いて来た。
昔のダルナンを知る、数少ない人物だ。
そのセルバだから、ダルナンを裏切る様な事はしたくないとカーナを睨んだのだが、その彼女の言葉で考えさせられてしまう。
(確かに、旦那様を裏切りたくない。それは本当だ。でもそれは、売られていった人にとって何の意味も無い事なのだ。私が罪を受け入れるなら、それぐらい被れなくて何が贖罪か。)
「私は、旦那様に昔の様に聡明で商売に対して嘘で誤魔化さない実直な旦那様に戻って欲しい。その為には私も、旦那様も罪を償う必要がある。」
セルバはじっとカーナを見つめ大きく頷く。
「旦那様を裏切れないとか、それは逃げでしかないのですね。」
口元を布で覆われていたけど、彼女の口元が微笑んでいるようにセルバは思えた。
「はい、それで良いのですよ。私の主も言っていました。罪を憎んで人を憎まずってね。でも中にはどうしようも無い人もいるのでそういう輩は徹底的に潰しますとも言っておられますけどね。」
「はは、怖いお方だ。」
セルバはこの女性のご主人とは一体どんな人物なのか? 興味が湧いてきていた。
「セルバさん、ではお願いを聞いてくださいますか?」
「はい、この老いぼれ、少しでも罪を償う為、そしてダルナン様を罪深き行為からお救いする為、ご協力いたします。」
執事ぜんとした筋の通った姿勢で深々とお辞儀をする。
「それでは、私の言う通りにしてください。」
そう言うと、カーナは顔を覆っていた布をとり、素顔をセルバに見せた。
「なんと!?」
セルバはその素顔を見て、自分が少し恥ずかしく思えてしまった。
(こんな子が、あれほどしっかりした考えを持っているとは、年齢を重ねただけでは威張れませんね。)
そして、二人は行動を開始する。
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