旅の前に 12
カーナは咄嗟に振り向きながら、後方へ飛びのく。
「ふ、やはりあの糞ガキの護衛だけあって腕は確かだな。」
余裕な口調で話すのは、剣を構えたアヒム殿下だった。
「アヒム殿下。どうされたのです? このままじっとしていれば怪我をぜずに済みますよ?」
カーナは話ながら、後方を取られた自分を反省し、二度と油断しないようにと考え、少しの間合いをとった。
「いや、何、最初はあのまま刺し殺してやろうかとも思ったが、君、変装する前より綺麗だったから僕の玩具にしようと思ってね、こうして話している訳だが、今、僕の魅了の瞳を受け入れるならあまり痛い思いをしなくて済むよ?」
「何を馬鹿な事を、そんな事になるくらいなら死んだ方がましです。」
カーナは話ながらも、アヒム殿下の余裕の構えに注意し相対を続ける。
もし何か策があったとしても、もう直ぐリーシェンやレン様が来れば、アヒム殿下とて何も出来なくなるはず。
ここは無理せず、時間を稼げば。
そう考えているのが判ったのか、突然何も言わずにアヒム殿下が強化魔法を巡らし戦闘体制をとった。
それを感じたカーナも即座に自分の身体の強化を終える。
双方とも最大限の強化を展開、筋肉が一回り膨れ上がり着ている服が密着する。
「行くぞ!!」
アヒム殿下の突然の声に、無意識で身体が反応し攻撃に備えるカーナ。
「え?」
カーナは一瞬自分の身体を伝う何かを感じた。
その感覚にほんの少し注意が自分の身体に向いてしまった。
そしてカーナは自分が着ていた奴隷服がいくつかに別れ落ちていくのを見てしまった。
もともと、主要人物が集うこの場に潜入するため、リデリアの奴隷服を借りて着ていたカーナ。
当然怪しまれる事をさけ下着は一枚も着けていなかった。
戦闘もあるとは思っていたが、それを気にするほどの手間は掛からないと思っていた。
「良い眺めじゃないか。」
何が起こったのか判らなかったカーナは、殿下の言葉につい反応してしまい、顔を真っ正面に見てしまった。
「あ?!」
殿下の瞳の奥に明滅する光が見えた。
カーナは、瞬時にこれが何なのか判ったが、その時にはもうその光から目が離せなくなっていた。
「だ、だ、め。い、いや、ああ、」
それがカーナの最後の言葉だった。
カーナの瞳の奥では殿下と同じ光の明滅が続き、抗う事を許さない。
身体全体から力が抜け、持っていた刀を鞘ごと床に落とす。
「フ、フ! フハハハハハハ!!」
高らかに笑い声を上げるアヒム殿下!
「そんな奴隷服で大暴れすれば、そうなるのは必然というものだ。」
アヒム殿下は、奴隷服が全て破れ全裸になり、無表情で力無く立ち尽くすカーナの姿をなめ回すように眺めてニタリと笑う。
「何が、ブロスフォードだ! 何が剣聖の息子だ! これで勝てる! こいつを利用して恥をかかせたあいつらに復習してやる! ついでにこの国も乗っ取てしまおう! そうだ! それが良い!!」
力無くうなだれる全裸のカーナを前に、笑い続けるアヒム殿下。
「おい! ダルナン!」
成り行きを見ていた、ダルナンとセルバは殿下の声に気付き、最初に動き出したのはダルナンだった。
「で、殿下! お見事にございます!」
「ふん! 当たり前だ! この私がこんな小娘に負けるはずが無い! それをジルデバル共は形勢が悪いと思ったら、簡単に私を裏切りよった。あいつらにも痛い目を見てもらわないと気が済まぬ!」
「はい、この私も、もうあの様な貴族に忠誠を誓うのは止めまする!」
「そうか、ならこの私の為に働け。そしてこの国を私とお前で食いつぶすぞ!」
「は!! アヒム殿下の為にこの命尽くさせていただきます!」
ダルナンは殿下の前に傅き頭を深々と下げた。
「お止め下さい! 旦那様!」
「うるさい! この裏切り者! お前も後で処分してやるからな!」
二人の狂喜の満ちた顔をセルバは見詰め、せっかくの更正のチャンスを逃した事を悔やみ、カーナを助けられない自分の力の無さに自分をけなすしか無かった。
「だが、私に進む道を示してくれた彼女は、この命を賭しても守らねば。」
セルバは小さく呟くと、拳を強く握りしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます