帝国の闇 20
アラヒダであった悪魔との攻防の翌日、ベルリデルン宮殿にやって来た僕たちは、皇族と一部の許可された者だけが立ち入る事を許された宮殿、奥の間へと皆でやってきていた。
「レンティエンス様、先ずは帝国の危機を救ってくださいました事、心から感謝いたします」
ルーシーの母、レティシア皇妃から何度目かのお礼の言葉を受けていた。
「それなのですけど、何度も言ってますように現況のアラヒダ皇子を名乗っていた悪魔は取り逃がしておりますし、ゲルフィネス様は助けられませんでした。その様な状況で僕がお礼のお言葉をいただくのは問題かと思いますが?」
僕は、アラヒダを取り逃がした事は悔いの残る結果だったのでお礼を言われるのは受け入れがたいものだった。
せめて、ゲルフィネス妃様をお救い出来ればまだ良かったのだけど。
それを皇妃に話したのだけれど、首を横に振られてニッコリと笑ってくれた。
「レンティエンス様が悔いる事はございません。本来なら帝国内の者で解決すべきだったところを助けていただいたのです。感謝する事はあっても非難する事はありえません。それに今回悪魔が介入していた事は予想外の事でしたので、レンティエンス様以外に対処出来るものはいませんでした」
皇妃様の言葉をそのまま受け入れる内容ではないけど、確かに悪魔が関与していた事を考えれば、この結果は全く悪い結果とは言えないのかもしれないな。
ここは素直に皇妃のお言葉を受け取ろう。
「分かりました。皇妃がそう言っていただけるなら、素直に感謝の気持ちを受け取らせていただきます」
僕はお礼を述べる。
「それでレンティエンス様、本当なら帝国の危機を救って下さった皆様に対しての労いを兼ねて宴を開催したいところなのですが・・」
そう言って少し思案顔になる皇妃。
それはそうだろう、帝国の中枢に悪魔が存在し、それが皇太子本人でありゲルフィネス妃を操り、皇帝までも操っていたのだ。
こんな事、対外的に公にすることは帝国の威信の失墜に繋がりかねない出来事だ。
そんな中、公に宴等を催したらどんな情報が流れ出すか分かったものじゃない。
だから簡単には開催できないだろう。
ただ、今回の事は僕を通じ内々にフォレスタール王国やグローデン王国、エルフの里のクウェンディ様に情報を共有していただいた。
今後の悪魔対策に生かす事為には致し方無いかった。
「そのようなお気遣い、お気になさらずにお願いします。だいたい僕達の中には、この場に居たらちょっとまずい人もいますので」
そう言って僕はシアの方を見る。
シアもウンウン頷いている。
一応シアはフォレスタール王国の姫君でしかも次期女王陛下なのだ。
そんな人がホイホイ他国の内政に首を突っ込んでいる事がばれたら、他国から何言われるか分かったもんじゃないからね。
「それは、レン様も同じですよ?」
リーシェンが僕の耳元でボソっと呟く。
心を読みましたか? リーシェンさん。
「はっきり言ってレン様はその次期女王の旦那様なんですよ? つまり次期国王、それどころか人でありながら神に一番近い現人神なのですから」
僕に人差し指を立て、先生の様に注意してくる。
ああ、そういえばそうでした。
その現人神に意見するリーシェンも大概なんだけどな。
「でもそれ言ったら、リーシェン達だってそういう僕のお嫁さんなんだから、立場はそんなに変わらないよ?」
「それはそうですけど、レン様はもう少しご自分のお立場というものを考えていただかないと困ります、という事です」
ちょっと怒った感じでリーシェンが言ってくれる。
でも僕を思っての言葉に僕は思わず笑顔になってしまう。
「ありがとう、リーシェン。気をつけるよ」
リーシェンの顔が赤くなってモジモジとし始めた。
「あ~! レン様またリーシェン先輩とイチャイチャしてますね?!」
「え? そんな事してないよ?」
「じゃあ、なんでリーシェン先輩は顔が赤いんですか!」
「さ、さあ?」
カーナが何故か怒ってきた。
別にイチャイチャしてるつもりは無いのだけど?
「カーナさん、あまりレン様を虐めるのは可哀相ですよ?」
「シア様、そんな事を言って点数を稼ぐつもりですね?!」
「な、何を言うのです! 私はそんな下心なんかありません!」
どうしたんだろう? モジモジするリーシェンの横で、カーナとシアの言い争いが始まってしまった。
でも、本気じゃなさそうだしいつものスキンシップだから別にいいよね?
「主様、抱っこ」
「「「アクア様! 横から突然の大胆な発言はお辞め下さい!」」」
三人揃ってのダメ出しに、アクアが頬を、ぷ~と膨らまして恨めしそうに三人を睨む。
その表情も可愛いから放っておこう。
そんな光景を、皇妃様の後ろに控えていたルーシーが羨ましそうにして見ている姿が僕の視界に入った。
「ルーシー、どうしたの?」
「え? 先輩、いえレンティエンス様・・・・・・」
僕が声を掛けると、少し俯いて顔を伏せてしまった。
「どうかしたの? お腹でも痛い?」
「レンティエンス様って、馬鹿ですか?」
あれ? ルーシーが何か怒ってる? 顔が見えないから分かりづらいけど。
僕何かしたのかな?
「レン様! ルーレシア様に何をしたのですか?!」
シアが、ルーシーの異変が僕のせいだと思って怒鳴り込んでくる。
「いや! べ、別に何もしてないよ?! ほんとだよ?」
「本当ですか?」
そう言ってじいいいいいと僕の事を睨むシアに、皇妃様が話し掛けられた。
「ファルシア姫、少し宜しいでしょうか?」
「! は、はい、皇妃様?」
「それとルーシーも一緒に来てもらえる?」
「は、はい。」
皇妃は、二人の姫様を隣の部屋へ連れて行かれた。
「ねえ、リーシェン。皇妃様達どうしたんだろうね?」
「はあ~」
あれ? 何故かリーシェンが大きく溜め息をついてるよ?
その向こうではカーナまで溜め息している。
「レン様、もう少し女心を分かって下さい。ただでさえレン様は無意識に女心を掴んでしまうんですから。」
「え? そうなの?」
「自覚が無いところが余計にたちが悪いですよ?」
何故かリーシェンにお小言を言われ続ける事になってしまった。
それから暫くお小言を聞き続けていたら、三人が部屋から出てきて僕のところへと来られた。
「レンティエンス様、これからルーシーが貴方様にお話があるそうですので聞いてやってもらえますか?」
「え? えっと?」
僕は良く判らなかったので、シアに視線で確認すると、怒った表情のシアがブンブンと首を振って早くしろ!って、促している?
「わ、判りました。お聞きします!」
改めてルーシーに向き直る。
そしてルーシーも少し伏し目がちながら僕を真っ直ぐに見て来た。
「せ、先輩!! わ、わわ、わ、わた、わた! 私を! お! お嫁さんにして下さい!!」
言いきったルーシーが頭が膝に付く程に勢いよく下げて右手だけを差し出してきた。
「え? えええええええええ!!??」
僕は全く予期していなかった言葉を聞いて戸惑ってしまう。
「その? え? ルーシーって帝国の皇女様だよね? 良いの? 皇太子も誰も後継ぎがいないんですよ? 皇女が次期皇帝の最有力なんですよね!?」
「分かっておりますけど?」
「いや! 皇妃様! そんな簡単な事じゃないですよ? それにシアの事もあるのですよ? 二つの国の次期王になる姫様達をお嫁にするなんて無理じゃないですか?!」
「そんな些細な事、我が娘の為ならなんとでもなりますので、どうかもらってやって下さいな」
嬉しそうに話される皇妃様の顔は本気だ。
「シア! 良いの?」
「レン様はどうなんですか? ルーレシア様の事、お嫌いなんですか?」
「いや! 嫌いなわけないよ! 国の為にこれだけ一生懸命に出来る姫様だよ? 尊敬もするし女性としても素晴らしいと思っているよ?」
「だ、そうです。なんの問題もありませんね?」
「はい! ありがとうございます! 一生懸命に先輩の良い奥さんになれるように頑張ります!」
「ええええええ?!? もう決定事項なんですか?」
「はい、決定事項です!」
シアが、言いきってしまった。
「と、言うことですので、リーシェンさん、カーナさん、アクア様、これからルーレシア様の事姉妹と思ってよろしくしてあげて下さいね。」
突然言われても、リーシェンやカーナだって戸惑うだろうに?
「はい、よろしくお願いします。」
「レン様の事、色々教えてあげますからね」
「ルーシー、頑張れ」
なんで、皆、普通に受け入れているんだ?
「レン様、そんな不思議そうな顔しなくても、私たちはこうなることはほぼ確実だと思っていましたから」
「そうだよ。レン様だよ? 女の子がほっとくわけないじゃん!」
「でも、主様が認める子はそんなにいない。ルーシーは主様が認める女の子」
はあ~、皆の意見を聞いてルーシーが嬉しそうにしている。
皇妃様も問題ないみたいだし、
「ここで僕が駄目、なんて言えるわけないよ」
ルーシーは右手を上げてガッツポーズしてるよ。
皆もルーシーのところに集まって祝福しているし、また家族が増えちゃったな。
ああ、そうだフル姉にも報告しとかなきゃ。
「あ、レン様、フルエル様には私が先程使いの者を送りましたので問題ありませんよ?」
手回しの良いこと。
それから僕達は一度、フォレスタール王国に戻りこれからの事を話し合う事にしました。
案の定、母様には褒められて、シアの母君、ルナエ王妃様には怒られました。
確かに、フォレスタール王国を出た時には、シアとリーシェン、カーナの三人の奥さんだったのに、いまではルーシーにフル姉、アクアの三人が加わったのだからね。
でも? アクアとフル姉って奥さんなのかな?
それを二人に聞いたら、アクアには氷漬けにされ、フル姉には、当たり前だろ! と笑いながら泣かれました。
女心は神の加護でも判らないようです。
「レン」
「はい母様、なんでしょう?」
「悪魔の事、どうする?」
「やはり、僕が逃がしたわけですから、なんとかすべきでしょうね」
「そうか。なら探しに出るのでしょ?」
「はい。今度はもっと過酷な旅になるかもしれません」
「そうか、じゃあ、お嫁さんはどうするの? まさか一緒に行くの?」
僕は、考える。
悪魔との戦いにお嫁さんを連れて行く事が良いのか?
「そんなの当然付いて行くに決まってますわ」
シアが当然の様に言い、
「レン様に行くところに私が行かなくてどうするんですか?」
シアが冷静に語る、
「私はレン様の専属ですよ。」
カーナが自信満々に言い切り、
「主様、ずっと一緒」
アクアが僕に抱き着き、
「仕方ねえな。情報収集はあたいに任せな!」
フル姉が歯を見せて笑ってくれ、
「私はルル様のところで一度修練を積み直します。でも直ぐに追いつきますから強くなった私を楽しみにしていて下さいね。」
ルーシーが決意を新たに僕を送り出してくれる。
そんな彼女達となら。
「母様、これからもずっと皆と一緒に進んで行くことにします」
「そうね。彼女達が全員で来られたら私でも勝てそうにないもの。レンの加護を受けた彼女達、最強のお嫁さんだものね」
僕もそう思います。
「でも、あんまりお嫁さんを増やさないでよ?」
「はは、肝に命じます」
こうして僕は新たな旅へと皆で進んで行くことになった。
先ずは情報収集だ。
悪魔の事に関する文献や伝記を探そう。
「それなら、スセリア共和国の首都リヒテルが良いかも。あそこは港もありますし、交易も盛んで情報収集にはうってつけだ」
フル姉の提案に僕も頷く。
うん、港町、新鮮な魚介類! 良いね!
「よし、先ずはそのスセリア共和国の首都リヒテルに向かうとしようか?」
「「「「賛成~!」」」」
満場一致で次の目的地が決まった。
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