冒険者ギルド 1

「お嬢さん、あまり大声出さないで下さいね」


僕はあくまでも穏やかな表情のまま、受付嬢へ注意をする。

すると、受付嬢は顔を真っ赤にしながら大きく何度も繰り返しお辞儀をして謝りだした。


「すみません! すみません! すみません! すみません!」

「いや、そこまで謝らなくても良いですよ!」


僕が慌てて手を顔の前で何度も交差させながら、大丈夫ですよってゼスチャーすると相手の受付嬢も少しホッとした表情に変わり落ち着いたようだ。


「取り乱して申し訳ありませんでした。私、冒険者ギルドの受付を担当しております、パルワと申します」


パルワと名乗った受付嬢は、先ほどの慌てぶりと違って丁寧な挨拶を僕に返してくれた。

さすが冒険者相手に受付をするだけの事はあるのかな?

普通は椅子に座ってカウンター越しに対応するのだろうが、先ほどの謝罪もあって椅子の横に立って挨拶をしてくれている。

紺色のタイト目のスカートにジャケットを白いシャツの上に着込み首周りには新緑の様な色のスカーフを巻き、如何にも事務員の基本っていう感じに大きめの目がねをかけたどちらかというと可愛らしい容姿の女性だった。

カーナより年下っぽい?


「パルワ、もう良いかな? 登録とか済ませたいのだけど?」


カーナの言葉にパルワさんが、あ!と口を手で押さえながら言って素早く事務机に座り直した。

おお!今の凄い移動だったぞ!冒険者でもやって行けそうな気がする。


「すみませんでした! それではこれより登録手続きを致しますのでまずはこの用紙にそれぞれ必要事項をお書き下さい。あと、紹介者の欄にカーナさんの直筆のサインをお願いします」


そう言ってカーナ以外の三人はそれぞれ用紙を受け取ると、一旦ホールの中ほどにある書類等を書く為のテーブルへと移動した。

そこで、氏名、年齢、得意分野とか特技とかを列記する。


「あ、加護名とかは書かなくて良いのだ?」

「はい、加護名は冒険者登録には関係ありません。冒険者は依頼内容をどれだけ忠実に完遂する事が出来るかが評価になりますので、加護が平凡でも他に秀でた技術があれば上を目指す事も可能ですので」


なるほど、加護はあくまでも人生の付属品みたいなもので、それを優劣には考えないという事か。

貴族もそういう考えの人が多くなると良いのだけどな。

僕がカーナと話ながら一通り記入が終わったので、皆を見渡すと全員が同じく終わっているようだった。


「それでは、この登録申請書をパルワに持って行きましょう」


カーナの誘導で先ほどの受付に戻り、僕を含め三人は申請書をパルワさんに手渡した。


「ありがとうございました。それでは書類の内容を確認致しますので、もう暫くここでお待ち下さい」


パルワさんは手渡された僕達の書類に目を通し始める。

暫くするとパルワさんの眉間に皺を寄せ始める。


「あのう、このレンさんとシアさんは、名字か家名は無いのですか?」


お、そこを聞いてくるか。


「どうしてです? もちろん家名なんて無いですけど?」


僕は極普通に返すと、でも? と言っていそうな目で僕たちの事を見つめている。

ああ、そうか服装か。

確かに新人冒険者にしては生地や作りは良いものなのだけど、それが気になるのか?


「解りました。それは了承致します。では次に、そのお二人はまだ13才になっておられないようですが、F以上のクラスをご希望と書かれておりますが、問題無いのですか? カーナさん。特にレンさんはまだ10才という事ですが?」


訝しそうにカーナを見るパルワさん。


「問題ありません。シア様は来月13才になられますし、レン様はこの私より強いですからね」


カーナの言葉を聞いたと思ったら物凄い勢いで僕を見つめてくるパルワさん!


「えぇえぇえぇええ!!!! あの、絶炎ぜつえんの異名を持つカーナさんよりもですかぁ?!」


ああ、また振り出しに戻った感じだ。


パルワさんの今日、二度目の驚く大声に、再びホールに居た数人の冒険者達が反応している。

うっわぁ~睨んでる、睨んでる。


「おい、あの赤い服の女、絶炎のカーナじゃないか?」

「本当だ、あの冒険者クラスAの実力がありながら、Bに留まって強制依頼を受け取らず、自由気ままに暴れまくる恐怖の女王。」

「と、いうことはあそこで一緒にいる連中はカーナの知り合いか?」

「新人らしいな。おい! この事を他の奴らにも伝えるんだ!」

「新人の超絶美女とガキ二人にちょっかい出すと、即死するってな!」

「わ、判った! 探索に出てる連中に言っとくぜ!」


そんな会話が小声なのに良く聞こえ、それを聞いていた他の冒険者と、話をしていた連中の何人かが大慌てでギルドの建物から出て行った。

残った2~3人の男達は、息を潜めじーっと僕らの事を監視しているようだ。


「カーナ、ちょっと聞いていい?」

「は! はい! レン様!」

「カーナ、今の冒険者達の話って?」

「な、な、な、なんの、事だか全然わかりましぇんぜ!」


思いっきり動揺しているな。しかもその言葉使いはなんなんだ?


「レン君! それはそうですよ。カーナさんって美人だし性格も明るいし普通に喋っているだけだったら人気者なんですけど、下心見え見えで近づく男共には情け容赦無いと言いますか、その仕打ちが地獄の有様だったと伝えられているんですよ!」

「な!? パルワ!! なにレン様の前で言ってくれてるの!」


慌ててパルワさんを怒鳴り付けるカーナだけど、いつのまにかリーシェンが後ろから羽交い絞めにして拘束していたのでパルワさんに近づけないカーナ。


「リーシェン先輩! 離して!!」

「静かにしなさい! ここで騒ぎ出すとレン様とシア様に迷惑がかかります!」


いや、もう十分目立っているから良いんだけどね。


「まあ、良いじゃないの? カーナを怖がってくれて、勝手に僕たちに手を出さないようにしてくれるのなら都合がいいじゃない、ね?」


羽交い絞めにされながら目に涙を浮かべるカーナ。

あれ?別に気にしてないと言ったのにどうして泣くんだ?

リーシェンもやれやれって顔してるし、シアも何か怒った顔で僕を睨んでる。


「レン様! 女の子に対して怖い、なんて言ったらいけません! しかもそれをレン様から言われたらカーナさん落ち込みますよ?」

「え? そうなの?」


僕の言葉でカーナが悲しい思いをしたのか?


「その、カーナ? 僕、嫌な事言っちゃたのかな? ゴメンね。そんなつもりは無かったんだけど、僕の言葉が足らなかったせいで傷付けたね。本当にゴメン!」


僕はカーナの直ぐ前で深くお辞儀をして誤る。


「レ、レン様! そんな頭を上げて下さい! 別に傷ついたとかそんなんじゃ無くて、私が世間から狂暴な女みたいに言われていると思われているのが恥ずかしかっただけですから」

「え? カーナが狂暴? 誰だ? そんな事言ってるお馬鹿は? カーナはとっても優しい女の子なんだぞ! そんな事言う奴はこの僕が許さん!」

「レン様、あなたまで一緒になって騒いでたら駄目じゃないですか?」


リーシェンが拳を握り締めて突き上げている僕を非難してきた。

お!つい熱くなってしまった。

そんな僕を見て、リーシェンはあきれ顔でシアはウンウン頷いてる。

カーナの涙目は変わらないけど、顔を赤くして僕に視線を固定している。


ガバ!!


「うお!」

「レン様! レン様! 嬉しいです! 一生着いて行きます!! 私を好きにして下さい!!」


僕が全く対応出来ずに、カーナに思いっきり抱き着かれてしまった。


「カーナさん! 何してるんですか! どさくさに紛れてレン様に一人だけで抱き着かないでください!」

「そうです! カーナさん! 一人で狡いです! こういう時は一緒にと約束したじゃないですか!」


二人ともカーナを止めようともせず、一緒になって抱き着こうとしてくる。

やめませんか?

どんどん目立ってるような気がするんだけど?


「あのー、登録作業、進めても良いですか?」


パルワさんがおずおずと聞いてくる。

もう少し待ってて下さい。

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