ファルシアの決意 2
「その辺りは大丈夫でしょう。まず王家での身分証発行は全く除外ね。すぐばれるとか以前の問題だから。それから市民登録証明というのがあるわ。これは各都市に税金を納めている時に発行される物だけど、これは税金を王家が払っているわけないから無理、後は、これが一番だけど冒険者ギルドでの身分証発行ね」
確かに冒険者ギルドに組合員登録すると身分証にもなるし、ランクが上がると国越えも楽になるメリットはあるけど。
「システィーヌ様、それは無理でしょう。ギルドでの登録時に必要提出書類があり未記入では受け取ってもらえません。名前や身分を偽って書いたとして提出しても、鑑定水晶でその書面の内容が事実なのかどうかのチェックがあるので解ってしまうはずですよ?」
カーナが僕の変わりに母様にギルド登録での基礎知識を語ってくれた。
カーナは現役の冒険者でもあり、たしかランクはB
その辺りの事情は良く知っているのだ。
ちなみに、冒険者ランクは、それぞれS、A、B、C、D、E、F、Gの8段階に別れていて、13才の成人した者で登録した場合、Fランクからのスタートになる。
それではGはと云うと、12才以下の子供が登録するクラスになる。
これはいくら仕事の達成率が高く、数をこなしても成人しないかぎりFにはなれない様になっている。
貧しい子供等が賃金を安全にかつ安定的に稼ぐ為のギルドの配慮なのだ。
ただ、たまに天才的な少年少女で剣や武術、魔法といった分野で既に一定以上の実力や有力冒険者の推薦があればFからスタートできるのだけどね。
話を戻して、ギルド組合員はそういった面からも子供でも登録できるのだが、素性や犯罪歴に問題のある者を登録させる事はさすがにギルドとしても厄介事を安易に抱え込んでしまうリスクがあるので、名前なんかの虚偽とかは厳しいはずなのだけど。
「ぜんぜん! 大丈夫! 王都のギルド本部の本部長は私の弟子だったレオグス・パラディオだから」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから! なんですか?」
「だから? え? レオグスは私の言った事なら、なんだって聞いてくれるのよ?」
どや顔のお母様。
「まあ! さすがシスティーヌ様ですわ! お顔がひろうございますね」
そのどや顔の母様を尊敬の眼差しで見つめるお妃様。
確かこの二人幼なじみだったよね? なんとなく力関係が判った様な気がする。
「レン私に任せておきなさい。必ずパラディオに言っていい聞かせておくから」
自信満々に答える母様。
それって限りなくパワハラだと思う。
今からパラディオさんに同情しておこう。
「わかりました。それで冒険者に登録して旅に出ると言っても何処へ行くのです? まさか当てもない修業の旅をしろとか言わないですよね?」
僕が不安そうに聞いてみると、何馬鹿な事言っているの? みたいな顔をしていた。
「まずは、エルフの奥里、ファンデールにいる巫女のクウェンディを尋ねなさい。あいつなら魔法や精霊術に長けているからね。ファルシア姫様にとっては良い師匠になるはずよ」
クウェンディ様か、ならシアにとっては色々教えて貰えそうだな。
母様さすがです。
ん?
「あれ、そういえば加護の儀式に巫女としておられませんでした?」
「ああ、あいつにファルシア姫様の事を頼もうとしたら、私の里まで来い!と言って先にとっとと帰られてしまったそうだ。クウェンディ曰く、冒険は旅から始まるのよ! らしい」
母様ってクウェンディ様と昔何かあったのかな?
それはさておき、クウェンディ様もう帰られたのか。
もっと色々お話したかったのに・・・
よし! それならこっちから出向いて色々聞かせて貰う事にしょう。
「シア、これで良いの?」
「はい! 私がレン様と一緒に冒険の旅が出来るなんて夢みたいですわ!」
物凄くシアが喜んでいるので僕もつられて嬉しくなった。
加護の儀式からもう10日経とうとしていた。
僕と、カーナ、リーシェン、そしてシアの四人は、王都の中心より少し離れた東地区の一角にある冒険者ギルドのフォレスタール本部の前にいた。
この王都は大きく分けて5地区に分類されている。中心地区は王城があり王都の5分の1の面積を絞めていた。
それを取り囲む様にそれぞれ低所得者や貧民街、それに駆け出しの冒険者が利用する安宿等が多く集まる北地区、多くの商店や観光を目的とした宿泊客が泊まる高級宿、それらを経営する富裕層が住む西地区、多くの貴族が居住する南地区、そして一般的な庶民や雑多な店や露店が並び市場等で人が一番賑わう東地区に大きく別れていた。
そして目的の冒険者ギルド本部は東地区に建っていた。
「結構大きいですね。なんか教会みたいな建物ですね」
シアが見上げる建物は3階建ての白い石造りで二つの塔が立ち並び壁面に彫刻等で装飾されたその姿は、本当に教会のようだ。
「これ、元々教会だったのをギルドが買い取って本部にしたからね。当時の本部長が派手好きだったらしいよ」
さすが、カーナ。冒険者の先輩だけの事はあるね。
ギルドの小ネタをいっぱい持っていそうだ。
僕達は、なるべく普通の冒険者に見える様な服装にしているのだけど、それでも駆け出しの冒険者としては良い装備なのは仕方ないところだろう。
リーシェンとカーナは色は赤系と黒系で違うけど、ミニのスカートに防御力の高い魔獣の皮で作られた服に軽装のプレートアーマーを装着し、その上から長めのジャケット着込んだ、ほぼ同じデザインだ。
この長めのジャケットの中に刀とか武器を隠して端から見ると武装している様には見えなくしてある。
僕とシアもほぼ同じデザインなのだけど、僕は丈の短めのズボンでジャケットも白を基調としてラインや袖口の要所をブルーで装飾しているのに対して、シアはピンクと薄い緑色となっていた。
ちなみに、女性はミニスカートだけど下には革製の防御力高めのスパッツになっているので期待する人には残念な事になっている。
別に僕の意見ではないからね。
「さて、登録受付してしまおう。ここで立ってるだけで何か注目されてる様な気がするしね」
ギルドに出入りが多い時間帯をわざと外した昼前に来たにも係わらず、結構な人が出入りしていてその殆どの人が僕達をちらりと見て行っていた。
まあ、三人ともそれぞれ違う魅力のある美女、美少女だからなあ、気になるのも仕方ないのかな?
そんな事は気にしていないのか、カーナが先頭に立ってギルド本部の中に向かっていったので僕達がそれに続くように入っていった。
元教会だけあって入り口は高さも大きく扉も開放されたままになっていたので入り易かった。
まず入ると綺麗に磨かれた石板が敷き詰められた50人位の人がいっぺんに入っても余裕のある大きなホールに圧倒される。
天井も高いし、所々に飾られたステンドグラスに彩られ、屈強な冒険者が出入りしている建物には思えない雰囲気を作っていた。
そのホールを奥へと進むと、役所のカウンターの様な所に人の背丈程ある仕切りで区切られ、そこに受付であろう女性職員が数人、区画毎に座って業務をこなしていた。
「レン様、まずは受付で登録致しますので、こちらへどうぞ」
そう言ってカーナの誘導で一人の受付嬢の所に4人で向かった。
その受付嬢は、僕達が近づいて来たのが判ったのか、事務処理の手を休め視線をあげる。
「あれ? カーナさん今日はお一人じゃないのですね?」
カーナに気軽にかける受付嬢はカーナが一人でないことに相当驚いているようだった。
「まあね、今日は私の知り合いが冒険者に成りたいって言うので連れてきたのだ。で合わせてパーティーを組むからその登録もしたくてね」
「えーーーー!!! あのカーナさんがパーティーを組むのですか!?」
受付嬢のあまりの大声に、周辺にいた冒険者やそうでない者まで一斉にこちらに注目する事になった。
あんまり目立ちたくないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます