帝国へ 4

「ただいま~。」

「あ、お帰りなさい。レン様」


転移術で、フォレスタールの王都シールタールから、このグローデン王国の国境最大の街グロアへと飛び、前もって拠点として利用させてもらっている宿、鈴の音亭にやっと戻る事ができた。


「リーシェン、しんどかったよ~」

「どうされました?」


僕は王都での出来事をリーシェンに少し愚痴るように話す。

それを、優しい笑顔で聞いてくれて、時々ウンウンと頷いてくれる。

やっぱりこの辺りの僕の扱いはリーシェンが一番上手いよな。

だから色んな愚痴や相談毎は、まずリーシェンに聞いてもらう事が多いかもしれない。


「まあ、それではシスティーヌ様もレン様の眷属と成られていたのですね?」

「そうなんだよ。そしてその効果が、魔術や精霊術の向上や身体能力の向上に合わせて自分が全盛期と思う頃の身体に成るって言うんだからビックリだよ」

「そうなんですか? それで、」

「え? ま、まさかリーシェンも? ん? そういえば顔つきが少し幼くなった?」


よく見たら、リーシェンの顔が少し丸みが出て来たように見える。それに目元も少し柔らかくなった? 身長は差ほど変わらないけど、確かに15、6才くらいと言われれば・・・に見えるぞ?


「あれ? でもカーナはそのままだよね?」

「当たり前です! 私は今が全盛ですから! リーシェン先輩とは違います!」


キラーン!


今、リーシェンの目が光った様な?


「カーナさん、ちょっと宜しいかしら?」

「ヒッ! せ、先輩! 顔、こ、怖い、す、すみません!! ごめんなさい!!」


バタン


僕に優しい笑顔でちょっと出て来ます、と言ってカーナの首根っこを掴み引きずる様にリーシェンが部屋を出て行った。


「主様、ほっといて良いのか?」


アクアが心配しているのかな? 気にかけてくれたけど、ここは僕が介入する余地は無いと云うより下手に首を出すと大怪我しそうなのでスルーする事に決めた、それに。


「大丈夫、あの二人のあれは、じゃれ合ってるだけだから。あの二人は僕が生まれる前からの付き合いだからね」

「そうか」

「心配してくれてありがとうね」


僕がお礼を言うと、ほんの僅かだが頬が赤くなった様に見えて、ちょっと嬉しくなったので、アクアの頭を撫でてあげた。


「ん」


別に嫌がらないので、このまま撫で続けてもいいのかな?


「レン様、何ニコニコしながらアクア様の頭を撫でておられるのですか?」


突然、シアが目の前に立って僕のことを睨みつけていたのでビックリした。


「お! シ、シア! いつの間に帰っていたの?」

「今、クウェンディ様に転移術で送ってもらったところです」

「そ、そうなんだ。」

「それより、アクア様と二人っきりで、楽しい事するのはずるいです! 私も頑張ってるのですから、あ、頭、撫でて欲しい、です・・・・」


僕の目の前に立って、少し屈み込んで頭をそれとなく近づけるシア。

はあ、君達あまり可愛い仕種をしないで、抱きしめたくなるから。

僕は、シアの頭も優しく撫でてあげる。

本当に嬉しそうにするなあ、あ、今度はアクアがふて腐れて? いるように見える。


「あー! レン様ずるい! 私達がいない間にシア様やアクア様ばかり!」

「わ、私はその・・・う、羨ましい。」


カーナとリーシェンの乱入により、頭を撫でてあげるよ期間が始まりました。

どれくらい撫で続けただろうか? て、手が怠い・・・




一方、フルエルの方では。


「もう一度聞く、本当にまた帝国に乗り込むと言うのだな?」


フルエルとソファーに相対すう形で座るこの男性。

紺のスラックスに白いワイシャツを着、如何にも出来る男を演出しているのだが、そのあまりにも大柄な体躯と鍛えあげられた筋肉は、彼が事務系では無く、実戦派であることを証明している。

彼こそ、グローデン王国の冒険者ギルド支部長のブルムラングである。


「当たり前じゃない! 可愛い弟が帝国相手に喧嘩売ろうって言うんだぜ。この私が一緒に行かなくてどうすんだよ!」


フルエルの傍らに立つダルガンはヤレヤレといった感じでため息をつき、ライアスは目に涙を浮かべまだ未練たらしくフルエルを見ていた。


「お前がそこまで言う男か。良し! この俺がお前の旦那に相応しい男か見極めてやる! 連れて来い!」

「はあ? なんでそうなるんだよ! 私はただ色々と手伝いたいんだよ! あいつと一緒にいたいだけなんだよ!」

「それを、恋とか愛とか言うんじゃねえのか?」


ブルムラングに端的な言葉で言われて、見る見る真っ赤になっていくフルエルだった。


「それで、その男ってのは、え~と確かあのフォレスタール王国の剣聖システィーヌ様の息子だっけ? でもそんなに大きな子が居たんだな? で、どんな男なんだ? 昔、ルル様からフルエルの事を一人前の冒険者に育てるよう預かったからな父親代わりとしては、どんな男かやっぱり気になるってもんだ」


ニコニコしながらダルガンの向けてブルムラングが聞いてきた。

今、フルエルに聞いてもまともに答えてくれそうにないからだ。


「そうですね。剣も魔術も無茶苦茶強いですよ? ありゃAかSクラスですよ?」

「はあ? おいおいいくらなんでもそりゃないだろ? あの剣聖の子とは言ってもそう簡単にSって事は?」

「でも、確かですぜ。しかもまだ若い、これからドンドン強くなりますよ」


自信満々に言い切るダルガンに困惑するブルムラング。


「若いって? どれくらい若いんだよ? 18か? 16か?」

「いえ、たしかまだ10才だったかな?」


ガタ、


突然座っているソファーを後ろに跳ね退け立ち上がるブルムラングがフルエルの方を下に見てガタガタと震え出す。


「お、お前、そ、そんな趣味があったのか?」

「!!!!」


一瞬だった。

左足でテーブル毎踏み付け腰に力を入れ、足の踏み込みから来る反動をそのまま右腕の乗せたフルエルの今までで最高の拳がブルムラングの顔に炸裂した。

3階にあるギルド支部長の執務室の壁を、かつてブルムラングだった固まりが打ち破り、多くの人で行き交う大通りを飛び越え向かいにある、ギルドの第2棟である建物に激突し大破した。


この惨状を見た街の警護隊から、ギルド支部が大掛かりなテロに襲撃され、建物が壊滅的な被害を出したと、周辺各国に一報が入ったとか、入らなかったとか・・・


その後、入院しているブルムラングにグロアを管理運営する最高議会と周辺住民から、見舞いの言葉があったそうだ。


「親子喧嘩も大概にしろ!!」

「また、ですか? 鬱陶しい。街の者の事も考えろ!」


あまり、住民からは良く思われていない二人のようだ。

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