帝国へ 3

「分かりました。ご苦労様でしたね、レンティエンス様」


僕は今、フォレスタールの王城にある一室にて、王妃様、母様、そして宰相のブルディウス様の三人の女性に囲まれ、クウェンディ様からの情報を報告している。


「それにしても、ジルデバルの件もそうですが、スバイメル帝国の不穏な行動に、まさか悪魔族が関係しているとは思いませんでした」


王妃様が額に手を当てながら心痛な面持ちで頭を悩ませておられる。


「いえ、まだ可能性ですから決まった訳ではありません」

「しかし、その話は、クウェンディ様の神託からなのでしょう?」

「はい。」

「なら、先ず間違い無いかと思うのですが?」

「いえ、あの女神様なら、案外、間違っちゃった! てへ! とかありえますよ?」


僕がオーディ様の事で真面目に応えると。

この国の重鎮3女傑が目を見開き驚いておられた。


「レンティエンス殿! オーディ様の悪口なんか言ったら天罰が下りますよ!」


この3女傑の中で、一番の年長者で、色んな意味での常識人である、宰相のブルディウス様が血相を変えて注意して来られた。

う~んとは言ってもね。


「大丈夫ですよ。一応直接会って色々お話させてもらってますので。それに悪口ではなく、本当の事ですから」

「ちょ、直接お会いした?! それ本当なのですか?」


別に隠し立てする必要も無いのでオーディ様と会った事を話したら、相当驚かれた。


「さ、さすがシスティーヌ様のご子息ですね。私の遥か斜め上をいかれています」

「ふふ、レンちゃんなら当然よ」

「システィは本当にレンちゃんのこと愛してるわよね。それこそ結婚しそうな程だものね?」

「・・・・・・・・・・・・・」

「母様、本気で悩まないで下さい。王妃様も迂闊な言葉は極力控えて下さい」

「「はい」」


意気消沈する二人の母君達。

このお二人、本当に仲が良いよね。


「レンティエンス殿、それでお話を元に戻しますが、クウェンディ様の依頼通りにスバイメルに行かれるのですか?」


ブルディウス宰相が、真剣な面持ちで聞いてくる。

それは、このフォレスタール王国が、スバイメル帝国に対して強制介入しようとするのと同義だからだ。

下手すると、戦争開戦の良い口実になり大義名分を与える事に成りかねない。


「危うい状況でしょうから、本当なら静観したいところなのですけどね。クウェンディ様の話ではその王女様は帝国の暴走を食い止めたいと考えておられようです。その王女様に上手く助力出来れば、我が国と帝国の衝突が回避出来る可能性が高いと思っています。それに賭けても良いと思うのですがどうでしょう?」


御三方は、黙って考えておられる。

難しい判断ではあるけど、ここは僕達を行かせてもらいたい。


「良いでしょう。悪魔が関係するとなると、人類存亡の危機にもつながります。それに地上界の事を神様に丸投げする訳にもいけません。これは人類が悪魔に対抗出来るかの試金石にもなります。そういう意味でもレンティエンス様にお願いするべきでしょう。なんと言っても最高神オーディ様が認めクウェンディ様がお願いされた方ですからね。」

「そこまで言われると少し恥ずかしいですけど、良い結果になるよう頑張ります」


握り拳を小さくあげて決意を見せると、何故か母様が今にも飛びつきそうな程に僕を見つめて来ています。

飛んで抱き着きにこないで下さいね。


「それでは、私どもはグローデン王国とエルフの里と連絡を密にして、スバイメル帝国の動きに注意をいたしましょう」


ブルディウス宰相の言葉で、母様も落ち着いたようですね。

でも、以前の母様より何か子供っぽくなったというか若くなられたというか、それに内に有る力も以前より増しているような? そんな訳ないとは思うのですが?


「母様、何か前より、御若くなられました?」

「あ! やっぱりそう思うわよね? 最近システィ、綺麗になっちゃて、悔しいのよ!」


プンプンって腕を振って、可愛らしく怒っておられる王妃様。あなたも十分に若くて可愛らしいです。


「今、何か物凄く癇に触る事を考えてませんでした?」

「い、いえ! 決して!」


どうしてこう女性は感が鋭いのだろう?


「そう? あまり気にしてないから判らないけど、一番強かった頃より体が動く感じは有るのよね?」

「最近何かありました?」

「う~ん? あ! そういえばこの間、お風呂に入っていた時に、急に体が光ったような気がしたのよね? あれからかしら、体が軽くなって力が溢れ始めたのって?」


今、円形のテーブルに着いている、3重鎮の女傑に相対して僕も椅子に座っているのだけど、その横にベッタリと椅子をくっつけて座るアクアの方を咄嗟に向くと、何食わぬ顔をしてお茶を啜っていた。


「ねえ、これって?」

「そうね。そうだと思う」


何時も通りの無表情に返事をするアクア。


「それはそうと、ねえレンちゃん? いつ聴こうかと思ってたんだけど、その子はどなたかな? できたらお母様にちゃんと紹介して欲しいな。怒らないから」

「何故、怒られるのですか?」

「え? 私はシスティーヌの隠し子かと思ってたわよ。違うの?」

「ルナエ、誰の隠し子ですって?」

「あら、違うの? じゃあ誰なのかしら? シアの事をほっといて別の女の子を侍らすなんて、レンちゃんってそんな子だったの?」

「こら! ルナエ! 私のレンちゃんを悪く言うのは許さないわよ!?」


何故、僕の隣に座ってるだけで、そう言う話になるんだろ?


「母様、王妃様、何を勘違いされているのかしりませんけど、彼女は違いますからね。ちゃんと自己紹介しますから!」


そう言って僕は、無表情のまま静かにお茶を啜っているアクアに事の説明と自己紹介をするようにお願いする。


「判った。じゃあ自己紹介する。私はアクレリア。レン様の忠実なるしもべ。この身も心も全てをレン様に捧げたいたいけな少女」


うわぁああ~、母様と王妃様に加えて、ブルディウス様まで、鬼の形相で迫って来てます!


「なんてこと言っているんですか!? それじゃ誤解を招きます! ってカーナ後ろから斬りかかろうとしない! 目がすわってる!」

「レン様、私にはまだ添い寝と一緒にお風呂に入ってくれるくらいなのに、いつの間にアクア様とは・・・何をされているのですか!?」


迫りくる女性軍に後ずさる僕を、そんな微笑ましそうに眺めないの! アクア! ちゃんと答えてくれ!

その後生きた心地がしませんでした。

その後、アクアが上位精霊だという事をちゃんと説明してくれたので、事なきを得ました。

最初っから、そうして下さい。

ただ、お三人方がアクアに対して土下座をしてしまい、収拾するのに多少時間が掛かかり疲れました。


「あ、そうそう、レンちゃん。」

「どうしました? 母様。」

「さっき聞き忘れたけど、なんで私の力が上がったのかな?」

「それは、レン様が母君を愛しておられているから、必然と眷属となっていたみたい。そこへ私の皆同じ宣言で、母君にも上位精霊の力が宿ったという事かしら?」

「レ、レンちゃんが、私を愛している・・・・ぐふ、ふふふふふ」


母様が僕を抱きしめたくてしょうがない状態になって、変な笑みをしている・・・ちょっと怖いです。


「これで母君も準神域の片足突っ込んだから、歳も取りにくくなったはず」


アクアの言葉を聞いて空腹の熊が人を襲うが如くに突進してきた母様に抱きしめられ頬刷りされまくってしまった。

どうも、愛しているという言葉と、若返って歳をとりにくくなったという言葉に相当反応したみたい。


「レンティエンス様! 私も愛して下さい!」


王妃様、それはここだけの言葉で、僕は聞かなかった事にしましょう。

あの宰相様、あなたも僕に期待の目を向けないで下さいね。

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