エルフの里へ 6
「貴様等! 抵抗せずに武装を解除しろ! 命令に従わなければ直ぐに拘束するぞ!」
僕達が身構えているところを意に返さずヅカヅカとやって来た3人の内のリーダー格と思われる大柄の男が、いきなり上目線で圧力を掛けてきた。
3人は同じ上級騎士の使用する甲冑を着込み、しかも王宮から認められた者が羽織る事を許される、白地のマントをそのリーダー格の男性が装着していた。
あれは、フォレスタール王国の紋章。
それも国境警備隊の紋章も入った物だ。
僕達はフォレスタール王国の王都シールタールを出発し、隣国のグローデンの国境最大の街グロアに向かっていた。
そこまでには、いくつかの町や村を通り、国境越えをするのだけど、そこには国境警備の為の城塞が存在する。
フォレスタール側をレンダール城塞、グローデン側をグロア城塞だ。
そしてあの騎士達が着ている甲冑とあのマントの紋章は、フォレスタール王国の物だ。
と、云うことはあの騎士はレンダール城塞の騎士達か?
確かに国境にはかなり近付いてはいるけど、何故わざわざこんな所まで出張って来ている?
それにシアが感じた悪意はいったい?
「これは騎士様、一体どうしたと言うのですかな? 私共はディクス商会の者で何も怪しい者ではございませんぞ?」
ディクスさんが、威圧的な騎士に対して、へつらう事無く堂々と対応している。
この人、結構肝が座っているなあ。
やっぱりこれぐらいの商隊を持つ商人ともなれば、それぐらいの度胸は必要なのだろう。
「そんな事はどうでも良い! 私の言葉が聞けぬという者は即刻、首を刎ねるぞ!」
「その理由を、お教え下さいと申し上げております。私共は何も盾突こうと思ってる訳ではございませんが、このような場所で武装の解除をすれば、魔獣や野盗が襲って来たときに対処できません。一隊を預かる代表者としてここは、簡単に承諾するわけにはいきません!」
おお、ディクスさん格好良い!!
いい歳の普通のおじさんに見えるけど、堂々として騎士であろうと商隊の安全を最優先するリーダー気質は、惚れる女性も多いんじゃないかな?
フルエルさんは、あれ? 険しい顔してる。
どうしたんだろう?
「貴様! この騎士である俺を愚弄するか!」
軍馬から降りた騎士は、ディクスさんに向かって腰に挿している剣を抜き振りかざす。
「我等は、ある人物を捜している! そいつは冒険者に身に扮しているらしいのだ! 武装を解除し調査するのは何もおかしな話ではない! さあ武装を外せ。そして全員を調べるまでそのままでいろ。何も無ければ直ぐに解放してやる!」
一方的なもの言いだな。
それに何か、おかしい気がする。本当にフォレスタール王国の騎士なのか?
「おかしいですね」
「なんだ貴様は?」
「あなた、本当にフォレスタール王国の騎士なのですか?」
「は? 何を言っている! お前みたいなガキが大人の話しに口を出すな!」
その男は、僕を一度見ると、鼻で笑って直ぐにディクスさんの方に向き直る。
やっぱり僕の事を知らないか。
「おかしいですね。あなた偽物でしょ? その紋章、国境警備隊の紋章の様ですが、あなた達に要人捜査の命令など出ていないはずですよ? 一体誰の命令で動いているのです?」
「な! 何を馬鹿な事を! お前みたいなガキが何を知ったような事を! 即刻首を刎ねるぞ!」
騎士らしくない言葉使いだな。
「誰が、そんな命令を出しているのです?」
少し口調を強くして問いただすと、その男は一瞬たじろぎ腰が引けた様にみえた。
あ、ちょっと気を出し過ぎたか?
ただ、ダルガンさんや他の人まで少し顔が青ざめてしまっているのはまずかったかな?
つい、威圧の方向を定めず全方位に出してしまったようだ。
当然、シアやカーナ、リーシェンは全然問題無い・・・あれ? 顔が赤くなって目がトロンとしているような? どうしてそんな目で僕を見るの? 今は考えないでおこう。
「わ、我々にご命令されておられるのは、レ、レンダール城塞の、ゴルディウス・グルバリエル指揮官様だ!」
グルバリエル? そうか。
「そうですか。しかしグルバリエル様は、今、王宮で剣聖と国境警備の件で話し合いをされているはずですが、どうやって命令されたのでしょうね? それに僕は、そんな捜索の事は聞いてませんよ?」
「な、何を出まかせを! それに子供のお前が、グルバリエル指揮官を知っている? 何を馬鹿な事を。これは遊びじゃないのだ!」
「それは、僕もそうですよ? グルバリエルおじさんの名を騙る輩と遊ぶつもりはありません」
「は! 何を言って・・ん? おじさん? グルバリエルを、おじさん? お、お前! 誰だ!?」
顔がだんだん青ざめてくる男達。
うん、やっぱり偽物だな。指揮官を呼び捨てにするなんて、騎士にあるまじき暴言だ。
でも、誰を捜しているんだ?
「あなた達、自分の上司を呼び捨てにするなんて、教育がなっていませんね。僕の母様なら即刻、千本乱打の刑ですよ? あ、ちなみに僕の母様、システィーヌ・ブロスフォードと言います。母様の千本の拳の打ち込みは、地獄ですよ?」
「システィーヌ・・剣聖・・お! お前まさか!!」
「一応は知っているのですか?」
「レンティエンス・ブロスフォード、剣聖の子、あのアヒム殿下を倒した、天才騎士・・」
ん? アヒム殿下?
「あなた達、スバイメル帝国の者か?」
僕の言葉が終わらないうちに、後方で待機していた二人の男が、一瞬で僕に詰めより剣を突き立て、足元に魔術式のサークルを仕掛けて来た。
一瞬で爆炎が上り僕を飲み込むと、同時にもう一人の剣が僕の首を狙って一直線に進んできた。
「レンティエンス君!!」
フルエルさんが悲壮な顔で叫ぶ。
炎は対象を燃え付くし霧散した様に見えたが、実際は僕を左右に挟む様にカーナとリーシェンが魔術防壁を展開しながら炎を防御していた。
カーナとリーシェンはそのまま、刀を抜き3人の男に向かって突き出していた。
「あなた達では、僕達に、到底勝てませんよ? それともあなた達は、アヒムより強いのかな?」
「何をふざけた事! アヒム殿下がそう簡単に負けるわけがない! 何か卑怯な事をお前がしたのだろう?!」
卑怯? それはアヒムの方が、よっぽど卑怯だと思うぞ。
さて、これは色々と聞く必要があるようだ。
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