帝国の闇 7

「叔母様、叔父様の様子はどうです?」


ルーシーがベッド脇に座り、ローエンベルク将軍を看病している御婦人に小さな声で尋ねていた。


「おかげさまで、今は安定して寝ておられますよ。気がついたら教えますね」


物腰の柔らかそうな言葉で優しく言葉を返す御婦人。

ローエンベルク将軍の奥さんで、サリア様だ。

歳は33才らしいけど、とても品のある落ち着いた美人さんで55才の将軍と20才以上差の若い奥さんだ。

ご主人が一命を取り留めた事で、物凄く感謝されました。

特にアクアは上位精霊と云うこともあって、ほとんど土下座状態で感謝され、それがとても恥ずかしくて僕の背中に隠れてしまったほどだ。

とにかく、ルーシーには、アクアも含めて、僕達を普通の人として接してほしいと一応お願いしておいた。

だいたい僕は人をやめるつもりも無いし、神になりたいとも思っていない。

カーナやシア、リーシェンとアクアの皆で幸せに暮らしたいだけだから。

あ、フル姉もだよ。


それでも最初は拒まれたが、これから帝国に巣くう悪魔を出来たら退治しなけりゃいけない。その為にも僕達の情報は少ない方が良いのでと、理由をつけたら渋々了解してもらえた。

これからも加護の事やアクアが上位精霊だと云うのはなるべく秘密にする必要があるな。


「え~と、そのレン様、でよろしいのですか?」

「え? 良いよ? 本当なら様も要らないんだけど、それはリーシェンやカーナが怒るから仕方なしなのだけどね。」


僕の呼び方にまだぎこちないルーシーは、何度かこんな感じで確認して来るんだよね。

別に気にする様な事でもないのに。


「はあ、やっぱりレン様はリーシェンさんとカーナさん、なんですね?」

「ん? どういう事?」

「いいえ、いいです。気にしないで下さい。それでは隣の部屋でこれからの事をお話しますのでこちらへ」


ルーシー、何か言いたかったのかな? 何だったのだろう?

少し疑問に思いながら、僕はルーシーの後を追い、隣の部屋へと入っていく。

将軍が寝ておられるのは、司教や大司教の高位の者が、神からの天啓や御言を聞く祭礼の部屋で一般人は入れない場所なのだそうだ。

その分、神々に近い神の恩恵を受ける神聖な場所で、清らかな状態に保てている場所であり、今回の様な毒素の進行を遅らせるのには最適な場所なのだとアクアが話していた。

その効果は将軍の状況が物語っている。

それにここならさすがの皇帝であろうと簡単には入る事が出来ないので、この場所を選んだそうだ。


僕が部屋に入ると、ルーシーのお母上、皇妃レティシア様が、椅子から立ち上がりお辞儀をされるので、両手を前に出してブンブン振ってそんな事しないで! と訴えかけるけど、ニッコリと微笑むだけで無言で立ったまま僕の次の言葉を待っておられた。

わざとだよね? これ以上言っても駄目だろうと諦めて、右手を前に出す。

それが合図になって、皇妃様とルーシーが部屋に儲けられた簡素な木製のテーブルに腰掛ける。

その状況に苦笑いの僕を、クスクスと顔を背けながらリーシェンが後ろの方で笑っているのが判って、なんとも恥ずかしさが倍増してしまう。

ともかく気を取り直して、僕は、アクアが座る横へと腰掛けた。

本当はリーシェンも座るように、皇妃様から言われたのだが、僕の護衛に差し支えると言って断固譲らなかったらしい。

警護と言えば、ルーシーの後ろにはラバスさんが、皇妃様の後ろは修道女のシシリアさんが付いている。

ただ、シシリアさんの僕を見る目がちょと変質者の域に達していそうなのでちょっと怖いです。


「まず、改めてお礼申し上げます。レンティエンス様、アクレリア様。」


皇妃が改めて頭を下げ、ルーシーもそれに習って一緒に頭を下げられる。


「いえ、僕は何もしていません。アクアの力のおかげですから」

「いいえ、レンティエンス様が言って下さらなければ、アクレリア様は、兄ローエンベルクの治療はしていただけなかったでしょう。ですからお二人にお礼を申し上げるのです」


まあ理屈でわね。

といってこれ以上話しても平行線なので、ここは素直にお礼を受ける事にした。


「分かりました。ここは素直に受け入れさせていただきます。それで、この状況を説明していただけるのですか?」

「はい、是非知っていただき、その上でお力添えをお考え願えればと思っております」

「そうですか。ではお願いします」


はい、と頷いて皇妃様が帝国の現状を簡潔に教えてくれた。

その話によると、現在帝国は改革派と保守派とで大きく意見が割れているようだ。


保守派の考えでは、もともと帝国は戦いの中で勝利を掴み続け今の領土を得た事を誇りに思う連中で、今の平和ぼけした世界を相手に侵略すべきと唱える連中らしい。


一方改革派の方は、軍事国家としてでは無く、この軍事力を世界の安寧の為に魔獣討伐や災害復旧等に各国連携して使用すべきと共存共栄を唱える者達らしい。


しかしこれは、あくまでも皇妃様の見解であり、他の人から確認する事も出来ないので信用するしかない。

でも、この皇妃様に裏表が有るとは思えないし、ルーシーを見ていると人を騙そうとする様な子には見えないもの。

これはリーシェン達も同じ意見だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る