エルフの里へ 15
「ねえ、この人は人間だよ? まあ神様見たいに可愛いくて強いかもしれないけどね」
フル姉が、腰を落とし少女と目線を合わせ、説明してくれている。
けれど、少女は首を傾げて納得していないみたいだ。
確かに、僕はオーディ神から神様に成る為に対応力っていう加護を貰っているけど、まだ神様になった訳じゃ無いはず? どうして彼女はそう感じたんだろう?
「君、僕の事どう見えてるの?」
僕も膝を折り、彼女と目線を合わせて聞いてみた。
すると彼女は僕の瞳をじっと見て微笑んでくれた様に見えた。
「神様なのに見えないの?」
「いや、僕まだ神様になってないから。」
この子には、僕がもう神様に見えるんだろうか?
「こんなに低位の精霊が、貴方の力に触れようと、集まっているのに?」
あまり抑揚の無い口調で話す彼女。
その雰囲気が少し人とは違うようには僕も感じるんだけど、一体この子何なんだ?
「ねえフル姉、エルフ族って精霊とか見えるの?」
「え? 上位精霊ならエルフ族でも見えるってくらいで、それは人族と殆ど変わらないわよ?」
「でも、この子低位の精霊も見えてる見たいだよ?」
う~ん、とか言ってフル姉も考え込んでしまった。
ただ、確かにエルフ族にしては、こう存在の感じが違うというか、もっと精神というか心に圧力を感じるというか?
「君、エルフ族じゃないの?」
「え?」
僕の言葉に不思議そうな顔をしている。
違うんだろうか?
「みんな、私の事、エルフって言う。でも私、一度もエルフだなんて言ってない。私は水の精霊だよ?」
「え?!」
「はあ?!」
フル姉と僕は顔を見合わせて驚く。
「あ、あなた、様は、精霊様なのですか?」
「そうですよ?」
当たり前の様に言われるけど、これだけ姿がハッキリ見えるという事は上位精霊?!
「でも、どうして上位精霊様がエルフの姿をして奴隷になっておられるのですか?!」
フル姉の質問は僕も聞きたい事だ。
だいたい上位精霊が、人に簡単に捕まるわけがない。
魔力操作にしても、精神的な耐性にしても桁違いに強いのが上位精霊のはずなんだ。
すると、水の精霊様は少し考える素振りをしてから話だされた。
「別に難しい話じゃない。精霊は上位の存在に成ると、地上に固体と精霊体を併せ持つ者になる。その時の固体型がエルフ族に似た特徴になるだけ」
「と言うことはあなた様は、上位精霊になられたばかりなのですか?」
フル姉が引き続いて質問をしていく。
「そうです。そして上位精霊になると、主となる神様を見つけなくてはいけない。それは神の眷属と成ることで力の開放ができるから。そこで世界各地を転々として私の主を探していた」
何か精霊様も色々大変そうだな。
でもあちこち回っていたのなら、もう神様にも会っているのでは?
「それなら、一度くらい神様と遭遇してないのですか?」
「会いましたよ。3柱神くらい。その中にはオーディ様もおられました」
「え?! じゃあオーディ様の眷属には?」
「お断りしました。力はこの世界の管理神だけあって桁違いに強いですけど、ちょっと天然馬鹿なところが有るので」
実質この世界の最高神を天然馬鹿呼ばわりとは、まあ納得はしますが。
「それで他の神を探している途中で、人族の奴隷を扱う集団に出くわして、捕まってあげたのです」
「なんで捕まるんですか!!」
「いえ、このままこいつらに捕まっていけば、私の理想の神様に会えそうな予感がしたもので」
「そんな曖昧な事で、捕まったんですか? 奴隷になられて辛い事も多かったはずなのに」
また、小首を傾げて考え込んでしまった精霊様。
「さして辛い事は無かったですけど? たかだか人族が私に何か出来るはずがありません。何かされそうな時は幻惑を見せて楽しませてあげました。ただ、この奴隷の首輪さすがに断罪の神の力で作られた物です。私では解除出来ず、水の精霊力を取り込む事が難しくて、この身体を保つのにほぼ全ての精霊力を使っていた事は誤算でした」
そう言いながら自分の身体を見回す精霊様。確かに同じような年の子供に比べて、痩せている。
「そうまでして神様の眷属に成りたいのですか?」
「当然! 理想の神様に仕える事は、精霊の最終目標!」
無表情のまま片手を挙げて、遠くを見つめる精霊様。
「ただ、お姉ちゃんにはもう一度謝っておく。ごめんなさい。私がいるせいで捕まって恥ずかしい思いさせて」
挙げてた手を下ろすと、精霊様はフル姉に向かって頭をさげて謝罪の言葉を言われた。
「と、とんでも無いですよ! 精霊様、しかも水の上位精霊といったらエルフ族でも崇拝する者も多い存在なお方に謝っていただくなんて恐れ多いいです!」
フル姉は上位の存在である精霊様に突然謝られて、焦っているようだ。
「それはおかしい? だってお姉ちゃんは、このお方、あ! お名前はなんと言われます?」
今度は僕に突然名前を聞かれて来た。
「えっと、レン、レンティエンス・ブロスフォードと申します。水の上位精霊様。」
急ではあったが、片手を胸に当てご挨拶をさせてもらう。
う~ん、咄嗟にこんな事が出来る様になるとは、だいぶん貴族として慣れてきたのかな?
精霊様が深々と頭を下げられ僕に向かって片膝を付けられてしまった。
「初めてお目にかかります。わたくし水の上位精霊となった者です。どうか御身に連なる眷属の末席に我をお入れ頂く事をお許し願いたい」
あまりにも自然に言われたので、面食らってしまって言葉が出なかった。
「ちょっと! レンちゃんどういう事よ!」
「さ、さあ?」
「さあ? って、こら! 顔を背けるんじゃない!」
フル姉、この状況が受け入れられないのか無茶苦茶、怒鳴って来た。
「お姉ちゃん、何を怒ってる? さっきも言いかけたけど私には敬語で、この方にはタメ口なのはどうして? この方は今はまだ人族に甘んじておれられるが、そう遠くない未来に神として存在されるお方なのだ? その方とタメ口をきく仲なら、私にもタメで願いたい」
「!? あ、何がなんだ、か・・・・」
ドサッ!
「わああああ! フル姉!」
「どうした? お姉ちゃんが倒れたぞ?」
この状況に思考が追いつけなかったのか、気絶してしまったフル姉の頭を抱え、様子をみるけど、ただ気絶してるだけで他には怪我とかはしていないみたい。
「ほ、取り敢えずここに寝かせておこう。」
僕は魔法迷彩のマントを脱いで、枕代わりにしてフル姉を寝かしておいた。
「精霊様、僕が神様になるかもしれないって事はあまり人には言ってないので、簡単に言われるとこうやってびっくりする人もいますから」
「そうか、それはすみません。それで我を眷属にしていただけるのでしょうか?」
ぶれない精霊様だ。
上位精霊ともなると、こんな事では一々慌てないのだろうか?
「僕自信、まだ神様に成れるなんてまだ判らないのですよ? それで眷属にしてくれと言われても責任が持てませんし。」
「それは大丈夫! レンティエンス殿は良い神になられる。あの天然馬鹿のオーディ神よりよっぽど良い神に成られる! これは私が保障しよう!」
オーディ神様、聞いてないと良いけどな。
「ちなみに聞いてみるけど、僕が断ったらどうするの?」
「そんな事、許してもらえるまで、側にいさせてもらいます」
無表情で淡々と言われるとちょっと怖いけど、それって断っても受け入れても同じ状況にしかならないのでは?
「それじゃあ、取り敢えず受け入れるけど神様に成らなくても文句言わないでね?」
「大丈夫です」
その表情で言われてもいま一つ説得力が無いよ。
「まあ、わかりました。じゃあ眷属にするけどその前にその首輪なんとかしないといけないんじゃ」
「でしたら、レン殿、あなたの手をこの首輪に沿えていただけますか?」
「良いけど、解除するには、最初に付けた者に暗証鍵となる紋章を打ち込まないといけないんじゃ」
「とにかくやってみてください」
良く判らないけど、精霊様が言うからとにかく首輪に手を当て、出来るとは思えないけど解除と念じてみた。
ポロ
「あれ? 取れたね」
「はい、取れました」
「なんで?」
「それは、現時点でレン殿が断罪神より格が上だからでしょう。」
う~ん、神に近づいているっていうのはまだいいとして、今の時点で現存神より格が上? って冗談でしょ?
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