旅の前に 14
時間は少し遡る。
「レン様、お連れしました。」
リーシェンが二人の女性を連れてきた。
僕は今、ワルダーク男爵の別邸近くに、王国の騎士団を連れ解放されてきた奴隷の女性や、屋敷で働いていたメイドや使用人を保護し屋敷への突入の準備をしていた。
「助けていただきありがとうございます。レンティエンス・ブロスフォード騎士爵様。」
丁寧の頭を下げ礼をとるのは、このワルダーク男爵の屋敷にいたメイドの様だ。
「君はワルダーク男爵のメイドさんなのかな?」
「いえ、私はダルナン商会に勤める者です。」
「そう、今回は僕の従者であるカーナの言葉を聞いて奴隷解放に尽力してくれてありがとう。」
「そんな、勿体ないお言葉。私どもは悪いことと知っていながら主人に付き添って悪事の手助けをしていたのです。叱責されるならいざしらず、お礼などいただける者ではありません。」
彼女はさらに頭を下げる。
でも僕はやっぱり感謝する言葉しか思いつかない。
「それでも僕はお礼を言うよ。ありがとう。後は僕たちに任せて休んでいなさい。」
僕は彼女を安心させようと肩を軽くポンポンと叩いく。
そして同じように隣で傅く女性と言うよりはまだ少女と言っていいのかな?
それくらい幼い感じが残る女性の前に僕は立つ。
僕が前に立ったのが判ったのか、肩を少し奮わせていた。
緊張しているのが判る。
「お初にお目にかかります、リデリアと申します。この度は奴隷として売られるところを救いいただきありがとうございます。」
「うん、取り敢えずは良かったよ。これでシアも喜ぶよ。」
「シア、様ですか?」
「そう、また機会があったら紹介するよ。それよりリデリア、今君が着ているのはカーナの服だよね?」
彼女はカーナが潜入用に用いる黒装束を着ていた。
「はい、カーナ様には随分とお世話になりました。私の不勉強なところを指摘していただき感謝しております。」
そうか、カーナって見た目母様ににて考えるより行動の方が先のように思えるけど結構頭も良いんだよね。
なんかカーナが褒められると嬉しいね。
「それで、カーナ様は私と服を交換し今でも屋敷の中におられます。どうかご無事に戻られるようご尽力下さい。」
この子も良い子だね。
カーナの事を気にかけてくれる。
「ああ、カーナは僕にとって、とても大事な女性だからね。無事に連れて帰るから心配しないで。」
リデリアは僕の言葉を聞いて、安心したのか肩の力が抜けた様だ。
「あのブロスフォード騎士爵様。」
ダルナン紹介のメイドが僕に声をかけてきた。
「何? どうかした?」
「いえ、その、もしお手間でなければ、私の上司セルバ執事長と、ダルナン様をお救い願えませんでしょか?」
「セルバさんって、カーナの報告にあった協力して貰えそうな執事長さんだったよね。」
リーシェンに確認してみると、首を縦に振って肯定してくれた。
でも、ダルナンって商会の頭で今回の闇奴隷の元締めみたいな人だよね。
「セルバさんは始めから助けるつもりだけど、ダルナンもですか?」
「はい! ダルナン様は昔はあんな悪事を働ける様な人ではなかったと、執事長のセルバが常日頃から言っておりましたので、更正の機会があれば必ず正気に戻ると信じておりますので。」
まだこのメイドさんそんなに歳でもないのに昔の事を事実だと確信している。
これは相当そのセルバさんって人を信頼しているのだね。
「解りました。どういう結果になるかは解りませんが、努力いたしますね。」
「はい! ありがとうございます!」
「それにしても、貴女はそのセルバさんを相当信頼しているのですね?」
僕は何気なく聞いたつもりだったんだけど、彼女の頬がほんのり赤く染まったように見えた。
そういう事か。
「レン様、奴隷であった彼女達を無事全員保護致しました。いつでも突入出来ます。」
「よし! それじゃあ最後の詰めに行くよリーシェン。」
「はい!」
「それで・・」
ドオオオオン!!!
その時、屋敷から大きな音が聞こえてきた。
ここから屋敷は見えるものの走ってもまだ時間が多少かかる程の距離にあるはずなのに、何かの破壊音が届くなんて。
「報告!! ワルダーク男爵の屋敷から複数回の戦闘音が発生! 交戦中の模様!」
騎士団の一人で斥候に出していた者が走り込んで、屋敷での異常を伝えてきた。
「交戦? カーナとアヒム殿下だろうか?」
「いえ、複数の音が同時に発生いているようで、少なくとも3人以上は居るとの報告です!」
ちょっと想定外だな。
嫌な感じがする。
「リーシェン! 僕が先行して正面から入る! 君は外からお願い!」
「はい! ご無理はなさらないで下さい。」
リーシェンは僕の力量を知っているから、駄目とは言わないが、本当は僕の側に居て護衛をしたいのだろう。
顔に解りやすく不満の表情が浮き出ているんだもん。
それはともかく、今は早くカーナの所に。
何だろう胸騒ぎがする。
僕は胸を押さえながら、屋敷の中へと飛び込んで行った。
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