帝国の闇 5
「大丈夫ですよ。その辺もまた教えてくれるのでしょう? それまで待ちますよ」
「くっ! だいたいお前達はいったい何者なんだ?」
「それはお互い様ですよ」
僕とラバスさんと押し問答を続けていると、部屋の扉が開く音がした。
「皆さんお入り下さい。ルーレシア様がお待ちです」
修道女の方の言葉を聞いた僕達は頷き確認すると、リーシェンを先頭に入って行った。
もちろん警戒のためにリーシェンが前に出てくれている。
本当なら男の僕が前に出て皆を守るものだと思うんだけど、それを言ったらリーシェンやカーナに酷く怒られたので、先頭に立つのは辞めて、せめてどんな事が起こっても対応も出来るように僕は準備をしておく事にしている。
そして部屋に入った僕達は、少し驚いた。
最初に目に入ったのが、部屋の奥に設けられた祭壇の様な所の中央、その上に人の倍以上はある、オーディン神の像が奉られていたからだ。
良く似ている。
けど、胸の当たりが実際とは少し? いや結構大きさが違う様な気がするんだけど?
『余計なお世話です!』
今、頭の中に声が響いたぞ?
オーディン様か? やっぱり教会とかだと、神様と繋がりやすいのか?
それにしても良く見ているよな?
迂闊な事は考えないようにしよう。
それはさておき、部屋の中に入った時、像にも驚いたのだけどこの空間の肌や鼻、口に感じる物が普通と違う事にも驚いた。
「何だろう、この感じは?」
「レン様、何か部屋の空気が透き通っていませんか?」
リーシェンもこの感じに気付いたようだ。
「主様、この部屋、オーディン神の神術結界が施されてる。そのせいでここの部屋の空気が常に清浄化されている。」
アクアの説明で僕達も理解できた。
「あのう? ここの結界が分かるのですか?」
修道女の方が結界の事を言い当てたアクアに、驚きながら聞いてきた。
「それは分かる。それにこれだけ清浄化への速度が早ければ、毒素に犯された者も多少は延命できるはずです。」
アクアは、オーディン神像の足元におかれたベッドに横たわる男性に目をやりながら答える。
「彼がその叔父さんなのですか?」
修道女の方に小声で尋ねると、小さく頷きながら答えてくれた。
僕は、アクアの手を引きそのベッドへと近づいて行く。
そこには、ルーシーともう二人、女性の方がベッド脇に腰掛け、一方の女性が横たわる男性の手を取り祈りを捧げていた。
「ルーレシア様、お連れしました」
修道女の方が、ルーシーに伝える。
するとルーシーはベッドの傍らに座っているもう一人の女性と一緒に僕の方へと静かに歩み来られた。
「お母様、このお方がレンティエンス様、そしてこちらがアクア様でいらっしゃいます」
丁寧なルーシーの紹介に僕も習い、胸に手を当て片膝を着き最上の礼をとった。
「レンティエンスと申します。レティシア皇妃様にお目にかかり恐悦至極に存じます」
僕の挨拶に反応して、ラバスさんと修道女の方が皇妃様の前に一瞬で立ち、僕に剣を突きつけようとしたようだが、それよりも早くリーシェンが僕の前に立ち、構えはしないがその手には刀を握り、直ぐに斬りかかれる体勢を作った。
まだ素性を明かしていないのに僕が皇妃様と言ったのだから、この反応は予想通りだ。
でもラバスさんもこの修道女さんも只者ではなかったけど、リーシェン達には敵わないだろう。
「く!」
ラバスさんは、剣を抜いていた。その剣に額が触れそうなぐらいの位置にリーシェンが立つ。
普通なら、ラバスさんの方が優位のはずなのに、全く動こうとしない。
いや、動けないのだろう。
ほんの爪の先程の隙間しかない剣とリーシェンの額。
だけどその隙間の距離がラバスさんにはとてつもなく遠く感じたのだろう。
それほどリーシェンに対してどうしようもない力の差を感じて動けなくなったようだ。
アクアも、僕に向けられた危険を防ごうとして皇妃の正面、二人の間にいつの間にか立っていて、皇妃を睨みながら、二人の脇腹に魔術紋を構築した手をピタッと付けていたのだ。
ラバスと修道女は、それで動けなくなってしまい顔が真っ青に変わっていた。
「あらあら、まあまあ。やっぱり分かってらっしゃったのね」
「はい。姫君様とラバス殿の言動からおおよそ予想はしておりましたが、まさかここで、レティシア皇妃様とお会い出来るとは思いませんでした」
「私も嬉しい誤算で喜んでおりますの。それも良くも悪くも素直で真面目過ぎな我が娘のおかげかと」
「はい、とても嘘がお苦手のようで」
それにしても僕が皇妃様だと言い当てても別段驚く様子もなく自然に対応されているのには少し驚いた。
たぶん、僕達がここに来ることは直前まで知らなかったはず。
それなのにこの対応は、ルーシーがさっきしたばかりの報告と、フォレスタール王国やグローデン王国の動き、それに多分だけど、クウェディ様と皇妃様は繋がりがあるのかも知れない。
実際、クウェディ様を頼っていた訳だからね。
その当たりから、僕達の事は予想されていたのかも知れない。
見た目はおっとりとした癒し系の美人なんだけど、侮れない人のようだ。
「ちょ、ちょっとお母様! これはどういう事ですか?! お二人はお知り合いなのですか?」
ルーシーは、皇妃様と僕の会話の内容の意味が判っていないようだ。
「ルーシー、まだわからないのですか? だいたいこのタイミングで現れる英雄なんて夢物語でしかないのですよ? 現実はちゃんと理由があって現れるものです」
「はあ?」
まだ困った様な顔をされている。
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