帝国の闇 4
城門へ向かう途中走りながら、リーシェンとカーナが必要以上に僕に近づいて、無言で頬を突き出すポーズを代わる、代わるに来るので、南門に着く前にカーナと同じようにほっぺにしてあげた。
これで士気が上がるならこれぐらいは問題ないよね?
これをシアが見たら怒るかな? フル姉は別に大丈夫だろうけど?
シアはクウェンディ様の所で、ルル婆様とも研鑽を積み重ねていて、1週間くらい後で合流予定。
フル姉には、その隠密技術で、先行して帝国に侵入していた。
上機嫌な皆と一緒にルーレシアさんと城門へと急ぎ、ブーブー周りから言われながら入官監査員に事情を説明すると案外簡単に通してくれた。
どうも、ラバスさんが取り出した証明書の様な物が効果を発揮したようだ。
監査員がそれを見た途端、直立不動の姿勢になって冷や汗をダラダラ流していたからね。
やっぱりルーレシアってそうなのだろうな。
それから僕らは、急いである施設へと向かっていた。
「リーシェン先生、あと少しですのでご辛抱下さい。」
何故か、先ほどからリーシェンの事を先生と呼ぶルーレシアだ。
確かに10才だと言うルーレシアに20才のリーシェンならそういう関係でも見えなくもないが、どうも先程の人としての重要な事を説かれた事で尊敬されたようだ。
なので、僕の立ち位置も少し変わっていた。
「レン先輩、あれが目的の場所、オーディン神教のゲンベルン支教会です。」
ルーレシアさんが指差した方向を見るとまだ全貌は見えないが、鋭く天に向かって聳える円形の塔が二つ並んでいるのが見えた。
その塔を目印に進むとその姿の全貌が少しずつ見えてきた。
建物の正面中央に巨大な木製の正門があり、その門自体にも多種多様な文様や彫刻が施され入る者を圧倒している。建物自体もその重厚さと、彫刻や石の精密な加工で装飾された外壁に、色とりどりのステンドグラスが夕日に照らし出されて美しさを演出するその設計は作り手の神への信仰心を如実に現していた。
ただ、あの神の教会と考えると、ちょっとやり過ぎ感が否めない。
「失礼ね。」
あ、聞かれた? オーディン神を奉る教会に近いからかな?
「ごめんなさい。」
僕はオーディン神に素直に謝っておく。
後で色々と言われそうな気がしたからだ。
「・・・・・」
それ以上怒って来ないようだな? 大丈夫かな?
取り合えすオーディン神の事は置いとくとして。
「ルーレシアさん、先輩ってなんですか?」
「え?先輩は先輩ですよ。リーシェン先生の教えを忠実に実践している貴方は私に取っては先輩以外の何者でもないです。」
「一応僕は10才ですよ。ルーレシアさんも10才じゃないですか?」
「歳は関係ありません! それと先輩がさん付けはおかしいですよ? 私のことはルーシーと呼んで下さい。」
「いや、そういう訳には、」
「ルーシーです!」
「は、はあ、じゃあ、ルーシーさん」
「さんは、 ばつ、 です」
「ル、ルーシー」
「はい!」
何故か疲れる。
「ひ、ひめ、お嬢様、そんな下賎な者と馴れ合うのはおよし下さい!」
ラバスさんが小声でルーシーに何かを言っているようだ。
ここは聞かない事にしておこう。
「ラバス、お前、本当にそう思っておるのか?」
「は?」
「まあ、良い。とにかくこの方々はお前が思っている様な方達では無いよ。どちらも素性を隠しているという事だ」
「はあ、そうなのですか? それはまあ良いとしてですが、本当に叔父上様の所へこの者達を通されるのですか?」
「別に良かろう? 叔父様の容態は悪くなる一方で、帝国治癒魔導士でもお手上げだったのだろう?」
「ええ、まあ」
「だったら、このまま何もせず死を受け入れるよりいくらかマシというものではないか?」
「はあ、まあ」
「私は何としても、この帝国を守りたいのだ。皇帝陛下や兄上達の良いようにはさせない。そして黒幕を引きずり出してやりたい。そのためにも叔父様を今亡くす訳にはいかない!」
「解りました。でももし彼らに不穏な動きが少しでもあったら私は躊躇なく殺しますよ?」
「そうならん、と思うがお前の好きにするがいいさ。」
「はい」
教会へ向かう最中、何やら、ルーシーとラバスさんが色々と小声で話し合っていたが、まあ予想はつくので内容は聞かないことにしておこう。
「リーシェン先生、着きました」
ルーシーは正門の前まで走って来ると、そのまま素通りして、東側の職員専用の入り口の前で立ち止まった。
コンコン
ラバスさんが普通の大きさの木戸をノックすると、ギイ、という金属の擦れ合う音と共に扉が開けられた。
暗がりの中から姿を現したのは、一人の修道姿の女性だった。
「ラバス様、姫様、お待ちしておりました」
丁寧にお辞儀をする修道女に、ルーシーが、ゼスチャーで人差し指を口の先に当てて、シー! シー! とかやりながら視線を僕らに向けている。
その変な行動に修道女が気付いて、その視線の先にある僕達を確認すると、驚愕の表情になって急に慌てだした。
「す、すみません!! あ、あの! ひ、じゃないお、お嬢様! お、お待ちしておりました!!」
街中の喧騒とは真逆の教会内に、修道女の叫びに似た言葉が響き渡った。
ん~、ルーシーの周辺の人って残念な人が多いような?
まあ、好感は持てるし、嫌いじゃないけどね。
僕は、必死に隠そうとするルーシーの肩をポンポンと叩くと、情けなさそうな顔を僕に向けて来る。
「大丈夫、追求しないから。」
「う、うう、あ、ありがとう~、グス」
とにかく、入り口で立ったままでは目立つので、僕が中へと促すと、ハッ! とか言ってそそくさと中に入って行くルーシー。
そのまま、修道女の案内で教会の奥へと向かって行く。
職員用の通用口から続く細い廊下を薄明かりの中をひたすら奥に進み続けると、階段が現れ僕たちはそこを上がっていく。
円筒状の壁に設けられた階段を螺旋の様に周りながら上って行く。壁に設けられた明かり取り用のステンドグラス窓から色とりどりの光が入り込み、まるで万華鏡の中を歩いているようだ。
何故か、体も軽く感じるし、凄く気持ちが落ち着く。
アクアなんか、いつも無表情なのに、少し微笑んでいる様だ。
その後も幾つかの階を上った僕達は、修道女が示した階にたどり着くとその階にある何カ所かの内の一つの扉の前で止まらさられる。
「リーシェン先生、ここで少し皆さんと待っていて下さい」
「レン様?」
リーシェンが僕に判断を求めてきたので小さく頷く。
それを確認したリーシェンがルーシーに頷き返す。
「判りました。ここで待ちます」
「すみません」
ルーシーはリーシェンの言葉を確認すると、修道女を促し扉を開けさせると、二人で中へと入って行った。
「あれ?ラバスさんは行かれないのですか?」
「ああ、俺はお前らの監視だ。いくらお嬢様がお前らを信用しても、ついさっき会ったばかりの人間を全面的に信用出来る程、俺は出来た人間じゃないんでね」
ぶっきらぼうな言い方だけど、主人に守るという立場の人間なら当たり前の事なので、返って信用出来ると僕は思えた。
「ラバスさん、姫様の事本当に大事に思っているんですね」
「な! ば、馬鹿な事を! 姫を守るのは騎士として当然の事であろう!?」
やっぱりラバスさんも良い人なんだ。
「騎士ですか? どうりで身のこなし方が素人じゃない気がしたんですよ」
僕は少しだけカマをかけてみようと、したんだけど思った以上に食いついてしまった。
「あ?! しまった!! い、今の無しだぞ! 聞かなかった事にしろ!」
無茶苦茶な。
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