帝国の闇 3

「すまない。この者も私のためを思っての事で決して悪気があるわけではないのだ。どうか許してやって欲しい。」


謝る少女の顔は真剣そのものだ。

決して上辺だけで話している訳では無いのがわかる。


「はあ、良いですよ。そのラバスさんでしたか? その人が怪我をした子にちゃんと謝ってくれるなら何も問題ありません。」

「あ! ありがとう!! ラバス! ちゃんと謝るのです! いいですね?!」

「し、しかし・・・」

「い・い・で・す・ね!!」

「は、はいいい!!」


少女の優しい言葉の影に隠れる殺気にも似た圧力に、ビビりまくったラバスさんが、びし!と背筋を伸ばし少女に敬礼すると、一瞬で怪我の子供のところへ向かい頭を下げ始めた。

この少女、姫とか言われてなかったか?

・・・・今の迫力といい・・・まさかね?



「あ、あの~、お話を進めても宜しいか?」

「え? ええ構いませんよ?」


今は、僕を含めた4人と、ルーレシアとの5人で、例の黒い馬車の中に相対して座り、話し合いをしている最中だ。

先程、ラバスさんが怪我をした子供やその親御さん、それから入街審査待ちをして並んでいる方々に謝罪を済ませたのだが、その後ラバスさんの主人、美少女が自分の名をルーレシアと自己紹介してくれた。

その後、僕達が普通の旅人でないと思ったルーレシアから、突然相談を持ち掛けられ、今に至っている。

本当はこういう面倒毎は避けた方が良いのだろうけど、このルーレシアさんの真剣さに押し切られた感じだ。

で、今はこうしてみんなで馬車に招いてもらっていた。

ただ、彼女は自分を貴族で有ることは認めているのだが、詳しい身分とかはそれでも伏せて欲しいと言うので敢えてその辺りの事は聞かなかった。

そのおかげか、先程までの固い感じの表情が幾分か柔らかくなった気がした。

まあ、ルーレシアという名前が本名であり、さっきまでのラバスさんとのやり取りからも考えれば、だいたい予想はつくんですけどね。


「その~、私の横が空いておりますから、お一人くらいこちらに移っていただいてかまいませんが?」

「「「いえ、お構いなく!」」」


3人の声がハモって、ルーレシアの誘いを断っていた。

やっぱり気になるよね?

僕の両サイドにカーナとリーシェンが少し狭めの馬車の椅子にギュウッといった感じで座り、アクアは僕の膝の上にチョコンと乗っかっている。

そのおかげで僕は前が良く見えないのでアクアの肩越しから、ルーレシアを見ていたから不思議に思ったのだろう。


「ごめんなさい。失礼とは思いますがこのままで、お話進めていただけますか?」

「は、はい、べ、別に構いませんが、大変そうですね?」

「え? ああ、もう慣れていますから」


少し飽きれ気味な表情をされたけど、気にしないように伝え、気持ちを切り替えてもらい話しを始めてもらう。


「はい、実は皆さんにお願いがございます」


急に神妙な面持ちになったルーレシア。

その感じからはあまり、良い話ではないのかもしれない。


「先程の治癒の力を、私に、お貸し願えないでしょうか?」


う~ん、やっぱりそういうお話か。


「それは、どなたかを治療して欲しいという事でしょうか?」

「はい、私の母方の兄妹で叔父にあたる人物が、毒を盛られ瀕死の状態との一報があり急いでおりました。ただ、ケンベルンの城塞都市に常駐している治癒魔導士や、薬剤師では手の施しようがないらしく、諦めるしかないと思っておりましたが、先ほどのアクア様の治癒術なればもしやと思いまして、ご相談させていただきました」


なるほど。それでこんな無茶な行動を起こしたのか。

でもね。


「事情は解ります。それはご心配でしょうね。」

「はい、こうしている間にも、叔父の命が蝕まれ死が近づいていると思うと居ても立っても居られません。」


膝の上に置かれた手は握りしめられフルフルと震えている。

それは、ただ心配するだけではなく、悔しさも見て取れる。


「さて、皆はどうしたい?」


僕はカーナ達に意見を聞くことにした。

特にリーシェンには確認しておく必要があるだろう。


「私は、レン様の考えた事に反対は無いよ」


カーナはニコニコしながら答えてくれる。


「私も問題無し。主様の考える通りに」


アクアは、相変わらず表情をださずに淡々と答える。


「私は・・・」


リーシェンは少し思うところがあるのかな?


「私は、傲慢な貴族は嫌いです。ルーレシア様はそうでは無いと思いますが、こうして自分の身内を優先した結果が何の罪も無い子供が怪我をすることになったのです。運が悪ければあの子供は死んでいたかもしれません。それはどんな権力者でも許される行為ではありません。それは判っていただけますね?」

「はい。」


リーシェンの言葉にルーレシアは真剣な眼差しで聴き入っている。


「それが判るなら、どんなに偉い立場に居るか知りませんが、まず自分で出来る事は自分でしましょう。見たところ結構身体能力は高い様なので、こんな混んでいる所、馬車から降りて走れば良いのです。それに馬車から降りるのに自分でドアくらい開けましょう。そうすれば早く物事が進んだはずでし苛立つ必要も無くなりますよ?」


リーシェンは先生の様に丁寧に語り掛ける。

それを、本当の生徒の様に聴き入るルーレシア。

何だろう? ルーレシアの瞳が潤潤として輝いて尊敬の眼差しになっている様な?


「解りましたか?」

「はい! 先生!」


リーシェンはルーレシアに懐かれてしまったようだ。


それから皆もルーレシアに協力しても良いとなったので、護衛の任務をカーナに任せ僕とアクア、リーシェンとルーレシアでゲンベルンに向かう事になった。

ただ、護衛任務を誰にするかでちょっとした問題があったけど結局カーナが残る事になって決着した。


「何故ですかあ!! 私もレン様達と行きたかったです!!」

「ゴメン、リーシェンはルーレシアさんに懐かれてしまって同行せざるおえなくなったし、アクアはアクアでね?」

「主様と離れると、暴走します」

「なんて言うしね? それに今回の件ではアクアが絶対に必要なわけで、ここはカーナしかいないんだ! お願い!」


手を合わせて拝みながら、半泣き状態のカーナを説得中です。


「う~、私だってレン様と1日以上離れたら暴走するよ?」

「そこをなんとかお願い。護衛の任務をダルガンさん達だけに任せる訳にもいかないしね?」

「う~う~う~、そ、それじゃあ何かご褒美下さい。そしたら一人でもちょっとは我慢出来るかも?」


ご褒美ね? ん~、と言われてもなあ。


「あ、あのですね、も、もし良かったら、キ、キ、キキキキキキ、キ、スしてもらってもって! わああ! わああ~!!」


自分で言っておいて顔を真っ赤にして両手で顔を隠してしまう。

あまりに恥ずかしがるので僕まで恥ずかしくなって来るじゃないか!

でもまあ、それぐらいなら良いかな?


「じゃあ、ほっぺで良い?」

「へ?」

「駄目かな?」

「いいいいええええええ! 大丈夫です!!」


おお、凄い喜んでいる。


「じゃあ、いくよ?」

「は、はひぃぃ!」


顔を真っ赤にして体中が硬直したように動かなくなり、目をギュウ!っとつぶったカーナがほんの少し頬を僕に突き出してきた。


チュッ、


「!!?☆ー@≧??%%%??!##!!!!」

 ドサッ

「カ、カーナ! 大丈夫?!」


訳の判らない言葉を発したかと思ったらその場に座り込んでしまったので、心配になって覗き込むと何かブツブツと言っていた。


「ふふ、こ、これで、10日はいけますよ」


何が行けるんだろう?


そうしてようやく僕たちは、ゲンベルンの街へと向かう事ができた。

何故か、他から殺気を感じる・・・

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