帝国の闇 2
「ラバス、早く開けなさい。」
「し、しかし、ひめ! お、お嬢様、この様な群集の前でしかも、汚い街道の途中でございますよ?」
酷い言われようだな。
この道が汚いなら、一体どこの道なら綺麗なんだ?
「何を馬鹿な事を言っているのです。良いから早く開けなさい!」
「は、はい・・」
御者の男は、渋々といった感じの返事で了承すると、御者台を飛び降り馬車の横へと移動して扉を開ける。
この男、ただの御者という身のこなしじゃないな。
服装は一般民のズボンにシャツと革製のベストを着ているけど仕立ての良さがどうにもね?
それにあの腰に携行してる2本の中尺の剣、使い込まれた感じがする。
ガチャ
僕が御者の男の観察をしていると、馬車の扉が開き、中から一人の女性と云うより少女が姿を現した。
これは凄いな。
僕は少女を一瞬見て、その雰囲気に驚いた。
膝まで伸ばした銀色の髪がなびくと、夕暮れの赤い日に照らされて何とも言えない不思議な色合いで輝いていた。
そして、瞳も銀色に近い灰色で、肌も白い事もあって儚い印象があるけど、その瞳の見る力は、上に立つものの独特の雰囲気を持っていた。
ただ、服装はふわりとした短めのスカートにスパッツを履いて動きやすくし、革と薄緑色に光る金属で出来た肩当てや胸当て、等を装着した冒険者風に寄せている。
この服も防具も目茶苦茶高価そうだ。
あまり貴族として立ち居振る舞いたくは無いと思いつつ、その仕立ての良さや、使われている物が、庶民が使う物とは異常に高価云うことが分かっていない感じか?
この馬車も、目立たないようにしているもの、どう見たって普通の馬車じゃないのは素人目に見ても歴然なんだけどな。
そんな事を思いながら、少女を見ていると、何故か僕の方を睨んできた。
あれ? 僕そんなに凝視してたかな?
その少女は一旦僕の視線から外しカバスと呼ばれた御者の男に手を添えられ、馬車専用の階段を使って降りてきた。
う~ん、突っ込んでおいた方が良いのかな?
たぶん、身分を隠したいのと、実際の行動が伴ってないよ、てね。
お! 僕の事物凄く睨んでるよね? 僕、何かした?
と、思ったらクルッと踵を返して怪我をした子供の所へ向かったぞ?
少女は、子供とその横に座るアクアの前で片膝を地面に付き頭を下げた。
「ひ、め! お、お嬢様!? 何ということを! 下賎の者に傅く等、お止め下さい!」
カバスと呼ばれる御者の男は相当に慌て必死にその少女を立たせようとするけど、全く動こうとせず頭を下げたまま動こうとしなかった。
「すまない。急ぎの用でゲンベルンに行かなくてはならず、無理をこのラバスに命令してしまった。そのせいで多くの民衆に迷惑をかけた上に、こんな子供に怪我までさせてしまっ・・・ん? そなた怪我はしておらんのか?」
その少女は、倒れ込んでいた子供の足を見て怪我の痕跡が無い事を不思議に思っているようだ。
「ありがとうございます! 本当になんて言ってお礼すればよろしいのでしょう! 本当にありがとうございます!」
娘さんの親御さんだろう、アクアに物凄い勢いでお礼を言っていた。
謝罪している何処かのお嬢様は眼中にないようだ。
まぁ、仕方ないけどね。あのままだったら、命に別状はなくても女の子には耐えがたい傷が残ったかもしれないからね。
その事がきにいらないのだろうか?
頭を下げていたお嬢さんの表情が曇り出していた。
そこに、先程から失礼なもの言いをしていたラバスと呼ばれていた男が、女の子とアクアの前にたった。
「お前達! その子が怪我をしたなどと嘘をついたのか!?」
ラバスは、その子の怪我は芝居だと思ったのだろうか?
「そんなこと、あるわけ無いだろう! 見ろよそこの土を。血の跡が結構な量で残ってるだろ?」
群集の中の一人が、子供の近くの地面に色黒く残る血の跡があることを指して怒鳴ってくれた。
「では、本当にそなたが怪我を治したというのか?」
疑いとも驚きともとれる困惑した顔のままアクアを見つめるお嬢様。
「血の痕の量からして、かすり傷とは思えないが、それをこの短時間で治したのか?!」
完全に疑っている目だ。
僕はアクアをそんな風な疑う目で見られるのが嫌だったので、アクアを庇うように前に出た。
それを見た、リーシェンとカーナが僕の両側を固め警戒してくれる。
「そなた達は、この女の子の仲間なのか?」
「そうです。アクアを疑う様な目で見られるのは止めてもらえますでしょうか?」
「あ! いやすまない。そんなつもりでは無かったのだが、常識的に考えて老齢の治癒魔導士でさえ、短時間での完全回復は困難だと聞くのに、これ程完璧に回復させられるとは、しかもこんな幼子がだぞ? 驚いてしまっても仕方がないだろう?」
そう言われてしまうと、その通りなんだけどね。
それにしても見た目僕よりちょっと年上だとは思うけど、この喋り方は女の子というより男の子っぽい感じだ。しかもかなり成人を意識した喋り方だな?
見た目とのギャップというならこの少女も大概なんだけどな。
あれ? 何か悩み出したぞ? 考え事か? それにしても仕種が女の子っぽくないな。
「もし、これが本当なら・・・・・・・」
小声で呟いているけどなんだろ?
「貴殿は観光でこの街に来られたのか?」
「え? いいえ。このディクス商会の護衛として随行しています冒険者ですけど?」
「へ?」
お! マヌケな返答だな?
「ですから、護衛としてこの商隊と、この街に来ました」
「いや! まさか貴殿は本当に冒険者なのか? こんな子供が?」
むっ、子供で悪かったですね。
ぼくももうじき10才になるし、ちょっとは身長も伸びたんだぞ。
「あなた、つくづく失礼ですね? 子供に怪我さえておいてレン様に喧嘩でも売りに来たのですか!?」
「そこの女! お嬢様に対して無礼ではないか! 一般民がそのような口答え不敬罪で打ち首にしてくれるぞ!!」
いきなりラバスが、怒りの表情と共に腰の剣を抜き、カーナに剣先を突き付けてきた・・・・
でも、それはほんの瞬間の出来事で逆にラバスの鼻つらに、二つの剣が突き付けられていた。
「な!?」
ラバスは、息を吸い込み悲鳴にならない声を飲み込む。
本当なら尻餅でもついて転んでしまいたいのだろうが、あまりにも剣先が鼻に密着寸前だったので身動きが取れなくなっていた。
「あなた、レン様に剣を向けましたね? 死にたいと言うことですね?」
「私たちのご主人様を傷付けようとした者の末路を聞きたいですか?」
「主様に、悪意向けた。殺す」
いや君達、目が座ってるよ?
冗談に見えないからね。
アクアもいつの間にか、ラバスに向かって消滅の魔術紋を展開している。
そんなもの人に向けちゃいけません!
「こ、こんな、事、し、てただで、すま、なくなる、ぞ、」
案外、このラバスって人頑張るな。
この状況でまだ言い返せることが出来るんだから。
案外、正規な訓練を受けた者かもしれない。
なら、この少女は? もしかしたら?
「す! すまない! ラバス剣を引け! 元々こちらに非がある事なのだ。何を言われても受け入れなければならないのだ!」
慌てて、前に出てきた少女は、片手でラバスを退かせると再び大きく頭を下げて謝りだした。
この少女、貴族、もしかするとそれ以上? まあどちらにしても傲慢な感じは無く、自らに非があれば素直に謝る事が出来るのは、好感が持てるしその人の器の大きさを感じられる。
ただ。
「こちらこそすみません。この子等は僕のためにいつも一生懸命になりすぎて時々暴走してしまうのですけど、けっして間違った事はしませんよ? それに比べこのラバスって人は少し問題がありますね」
僕は、少女にラバスの言動、行動について指摘すると、少女は唇を噛み締め僕と相対する。
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