社交界 3

「カルロ様、本当に申し訳ないのですが、私はあなたの妻にはなれないのです。」

「何故ですか? 断る理由なんか無いはずですよ?」


いっぱいあるわ!

つい言葉に出してしまいそうになるのを必死に堪えて言葉を飲み込み。


「理由はありますよ。実は私、こう見えても男ですから。」

「は?」

「どうかしました?」

「はは、御冗談がうまいですね」

「冗談じゃないですよ?」

「・・・・・・・・・・」

「はい。男ですよ」

「いや! いやいやいや! お、男? え? 何を馬鹿な! えぇえぇえ!!??」


あ、かなり動揺している。

そんなに、女の子に見えるのかな? 服装だって男子の正装だし、ちょっと考えれば解りそうなものなんだけどな?


「ねえ、カーナ、リーシェン、僕って女の子に見える?」


僕は、二人にちょっと小首を傾げながら聞いてみた。


「も! もちろん超絶可愛い男の子にしか見えませんよ!」


カーナは必死に言ってくれているがそれってやっぱり女の子みたいと言っているんだろうな。

でもその言葉には嫌味は無く好意的な意味で言ってくれているのが解るから逆に嬉しいけど、カルロにいたっては完全に気色悪そうに見ている気がする。

あ、リーシェンまた鼻血出ているよ。


「は、は、これはとんだ失態を見せてしまったな。まさか男とは・・・・恥をかかせやがって、良くも私を謀ったな!」


これこれ、勝手に勘違いしたのはあんただろ?

親子して僕を睨んでいる。

勝手に話を進めて、勝手に恥かいて、勝手に怒っているのに、なんで僕が睨まれなければならないんだ?


「はっはっは! ボルトール家の方々は見る目がありませんな。」


突然、僕達とボルトール家との間に割って入る声がした。


「ジルデバル辺境伯・・」


ボルトール候がその名を口にして、眉が少し吊り上がるのが見えた。

この二人、反王家派ではあるが、互いもあまり良好な関係では無いことが、ここからも伺えた。


「この、ブロスフォード子爵家には似つかわしくない聡明なお顔たちのレンティエンス君が女の子だなんて、本当に見る目がありませんな!」


それこそ満面の笑みをたたえ、言い切るジルデバル辺境伯。

しかし、あなたも最初、間違っていませんでした?

それにサラっと、侮辱するような言葉が聞こえたような。まあ聞かなかった事にしときます。


「お人が悪いですな、ジルデバル辺境伯。この顔を見て男と思う方がどうかしていますよ。」

「そうですか? 私は始めて見た時から、聡明な男の子だと判っておりましたがな?」

「は! 何を言っておられる。このような男か女か解らんような者が聡明だと?」

「男か女か解らんでも、聡明であるのは変わらんだろう? ただ、武を重んじるブロスフォード家の跡取りの加護が、武人としては些か頼りないものであるのは、やはり女みたいな事と何か因果関係があるのやもしれませんがな。」

「おお、確かに。あの戦闘には不向きな加護では、今後の王家近衛を任せるのは些かと、私も思いましていな、息子に、嫁として迎えボルトール家がそのご負担を請けようと考えたしだいだったのだが、いやはやまさか男とは。」

「そうですなあ、本当にこれからのブロスフォード家の未来が案じてやみませんな。」


おい!この二人仲が悪いのかと思ったら、タッグ組んで僕をけなしに来てないか?

確かに、男の子っぽくない顔だなっては思うけど、あんたらにそこまで言われる必要はないぞ。

ただ、この茶番、周囲の貴族にも解るように大きな声で言っているのは、僕の加護が武人としてのブロスフォード家の嫡男としては頼りない事をアピールしているんだろうな。

カーナやリーシェンなんか、今にも泣きそうな顔を怒りの表情に変えて、二人に襲い掛かろうとしているし、とにかくここは抑えないと、王宮の中で先に手を出した方が理由はどうあれ罰っせられてしまうし、本当貴族って嫌な生き物だよ。


「ジルデバル辺境伯様も、ボルトール侯爵様もその辺にして下さいませんか? いくら私の息子が武人としては今ひとつの加護であっても、ちゃんとブロスフォード家の者として恥ずかしくない訓練はしておりますので余計な心配は、ご無用に願いませんか?」


冷静に、でも地の底から湧いて出るような冷たい声で、二人の男性に向けて言葉を発する母様に、さすがの二人も冷や汗を流しながら固まってしまった。

母様、王宮中の皆様が震えていますから、それ以上闘気を出さないで。


「い、いやこれは失敬。言葉が過ぎた事は謝罪いたしますぞ。 いや、本当に申し訳なかった。ただこれも王国を思う者として将来が心配であったが為の行きすぎた言葉として受け取ってくだされ。」


ジルデバル辺境伯が、母様からの闘気からいち早く抜けだし我にかえり、さらっと謝罪する当たり、ボルトール候よりも老齢な感じがする。

それに、これで僕が武人の家柄には相応しくない加護持ちで、この姿が弱々しいものだと周囲の貴族に印象付けされたのは間違いないかな。


「カーナ、リーシェン、ここは我慢だよ。」


今にも飛び出して、ジルデバル辺境伯とボルトール侯爵に切りかかろうとしている二人を小声で制しておく。


「すみません、レン様。しかしシスティーヌ様の方が・・」


え? あ! 母様。闘気に殺気が交じり始めていますよ! そのまま解放したらこの王宮にいる人間全て失神してしまいます!

僕は、咄嗟に母様の手をギュッと強く握る。


「!!」


それに母様の体がピクッ!と反応してくれると、殺気も闘気も一瞬で霧散した。


「ごめんね、レン。これも計画の内なのについ頭に血が上ってしまって。」


冷静になった母様が小声で僕に話しかけてくた。

僕は、首を横に振り母様の握る手に力を込めた。

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