帝国の闇 18
「別に僕は何もしてませんよ?」
「う、嘘をつくな! お、おまえ以外にこんな大掛かりな魔術を使える者がここにいる訳がないでしょう!」
大声で怒鳴り散らすゲルフィネス妃に、アクアがスーと手を挙げてみせた。
「私がやった。これくらいどうって事ない」
「はぁ? おまえみたいな子供がそんな高等魔術を無詠唱で出来るわけが無いわ!!」
ゲルフィネス妃の中で僕は、自分の息子を虐めた程だからそれなりの実力があるとは思っているのだろうけど、そんな力を持った者が他にもいるとは考えていないようだ。
だからアクアの自己申告も認めたく無いんだろう。
「そう思われるならそれで構いません。ただ今のを見ていただいて判ると思いますけど、あなたでは僕達には勝てませんよ?」
僕が忠告をしてみるけど、いっこうに激怒の顔は静まらない、それどころか余計に怒らせてしまったようだ。
「これで終わりではないわ! この私に忠誠を誓う全ての騎士達よ! この不埒な者共を排除なさい!!」
ゲルフィネス妃があらんばかりの大声で指示を出すと、謁見の間の設けられたいくつかの扉が一斉に開き大勢の騎士達がなだれ込んできた。
「レン様、この者達、人ではないですよ」
カーナが僕のところに寄り耳打ちするように知らせてくれた。
確かに、先ほどの騎士同様、もう身体の形が一部大きく変化し甲冑から筋肉がはみ出ていたり、部分的にはその甲冑に無理矢理抑え込まれた様になっている肉がちぎれ血が滴り始めている者もいた。
けれど、誰一人苦痛の声をあげる者は無く、逆に口元は笑っているようにも見える。
「主様、この者達、魂を変えられて、魔の者に近づいているよ。それにあのゲルフィネス妃もおかしい、人の気配じゃないよ」
アクアの言葉に僕も嫌な気を感じていて頷く。
この、まがまがしいどす黒い気だろうか? 肌に纏わり付くこの異様な感じは確かに魔の者と言うに当てはまる。
そしてその黒い気は確かに僕達に向かって突き刺さってきている。
「来ます!」
カーナの言葉に皆が一斉に自分の獲物を持って対峙ずる。
それと同時かそれよりも早く、全方位から一斉に騎士もどきが飛び掛かって来た。
そのスピードは常人とは思えないほどで普通の騎士や冒険者なら、ひとたまりもないだろう。
けど、カーナ達は違う。
彼女達ももう常人レベルでは無い、はっきり言って卑怯レベルの強さだった。
僕達の一降りで、一団が消し炭と化し、一団は氷付けとなって床に転がり、そして一団は幾重にも合わさりながら部屋の壁に叩き付けられ押し潰されていった。
もちろん僕の前にも綺麗に真っ二つに切断された物体が山の様になってはいるけどね。
それを数回繰り返したところで、先ほどまで謁見の間を埋め尽くす程いた騎士もどきは綺麗に死体となって重なりあっていた。
僕もさすがに相手が人ならもう少し手加減もするけど、アクア曰く、もう人としての魂では無いと云う事だったので、ここは遠慮なく成敗させてもらった。
後で丁重に弔ってあげなくては。
で、僕達の戦いと云うほどでも無い、どちらかというと蹂躙状態の結果に、ルーシーとゲルフィネス妃は口を大きく開けて固まっておられた。
「ルーシー、大丈夫?」
「え? は、はい!? えっと、その、皆さん強いのですね?」
ちょっと間抜けな感じで問われてもどう返したら良いか返事に戸惑う。
それでも一応頷いておいた。
「さて邪魔者はいなくなったし、証人もいっぱい確保できた。あとはあのゲルフィネス妃を捕らえ、皇帝に開戦をやめさせるようにルーシーが進言するんだ。」
「はい! 先輩!」
そしてルーシーを先頭に僕が横についてゲルフィネス妃に相対する。
ゲルフィネス妃は、あまりにも呆気なく片付けられた騎士の不様さに怒りをぶつけるも、僕が近づいて来た事でその顔は一気に恐怖へと変わっていった。
「ち、近くに来るでない!! そなた本当に人間か?! あ、あの者達をこうも簡単に、」
「ゲルフィネス様、もう観念して下さい。あなたが父皇を唆し帝国に闇をもたらし、戦争を引き起こした事は調べさせいぇいただきました。どうかここは皇族としての誇りあるままで、この場から降りていただけませんか?」
ルーシーの同じ皇族としての最後の譲歩なのだろう。
「い、嫌じゃ! われは皇帝の妻であるぞ! 次期皇帝の聖母であるぞ! 誰もわれに逆らう事は許されんのじゃ!!」
少しづつ後退り、髪を取り乱しながら首を横に振り続けるゲルフィネス妃。
その光景にルーシーは一つため息を漏らすと、手に持っていた長剣を大上段に振り上げた。
「最後の通告です。自ら退いていただきたい!」
「い、嫌じゃ!!」
「!・・・・仕方ですね」
「ちょっと待ってもらおうか?」
僕は咄嗟にルーシーの脇腹に手を廻し、本気で後ろへと飛び退いた。
ガガッガガガガガガガア!!
その瞬間だった。
今までルーシーが立っていた所に、一瞬で人の背丈はありそうな先の尖った針の様な者が無数に床に突き刺さっていた。
「!!!?」
僕はその光景に冷や汗が流れる感覚をもった。
もし判断が遅かったら今頃ルーシーは・・・
心配になった僕は手で抱えているルーシーの顔を覗き込む。
「レン様、大丈夫です。ちゃんと見れてます!」
そう、僕は今の出来事にルーシーが恐怖し我を忘れているかと思ったのだけど、その瞳は今自分が居た場所をしっかりと見つめ、そしてその現象を引き起こした張本人だろう人物にも睨みを効かせていた。
「さすがですね。わが弟を痛め付けただけの事はありますね。」
冷静で冷ややかな声の主、スバイメル帝国、皇太子アラヒダ・スバイメルがゲルフィネス妃を守る様に前に立ち僕たちを見下ろしていた。
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