ファルシア王女 3

そりゃあ嫌いじゃないと思うけど、精神年齢はともかくまだ10才なんだよ。

姫様だって12才だし、今から結婚とか考えなくてもねえ。


「カーナやリーシェンはどう思う?」


僕は苦し紛れにカーナ達に意見を投げかけてみた。

本当は、主人の婚姻の事とかにメイドの二人に聞く事自体おかしいのだけど、僕にとって二人はメイドというより、赤子の時から一緒に過ごした大切な身内の様な存在だったから僕にとっては相談することは普通の事だった。


「え? 私どもですか?」

「その、御婚姻の様な事を私どもが意見するなんて、」

「そんな事はないよ。僕にとっては君達は一メイドでは無くて、母様や父様に次いでの身内だと思ってるし、これからも一緒に過ごせたら良いなっていつも思ってるんだから、意見を聞くのは当たり前だろ?」

「そんな、レン様」

「私どものことをそこまで思って下さっていたんですね」


二人は目頭の涙を浮かべながら僕の事を見つめてくる。

あれ?僕何か変な事言った?意見を聞きたいと言っただけのつもりなんだけど。


「仕方ないはねレンったら。いつの間にこんな女たらしになったのかしら?」


母様そんな真面目な顔で考え込まないで下さい。

僕はそんなつもりは毛頭無いですからね!


「レン様、リーシェンさんやカーナさんは、レン様にとってかけがえのないひとなのですね。」


今度はファルシア姫様が真面目な顔で僕に詰め寄って来た。

そして僕の手を両手で握り締めながらさらに僕に詰め寄る。

顔が間近に迫って来る。か、可愛いい!

すると、姫様の顔が急に赤くなった。

そうか、僕の考えがそのまま伝わったんだ。


「私の事、お嫌いですか?」


僕は反射敵に首を横に振っていた。


「でも、カーナさんやリーシェンさんほどの信頼はないのですよね?」


その言葉に僕はちょっとのぼせていた頭が少し覚めた気がした。


「ファルシア姫様、二人とご自分を比べるのは無意味です。信頼というのは時間が作り出すもので簡単にできるものじゃありません。」


僕の言葉に少し驚いた顔をするファルシア姫様。

そんな姫様に僕は言葉を続けた。


「好きか嫌いかは一瞬で成る事はあっても、信頼はそんな訳にはいかないのです。僕とリーシェンとカーナはずっと一緒に居た時間で信頼関係を築いたのです。だから僕はこの二人に心を許せるんです」


チラッと二人を見たら顔を真っ赤にして俯いていた。

そんな僕の言葉と、二人を見た姫様の目には涙を溜めはじめていた。


「そうですね。私も長い時間をレン様と過ごしたつもりでいましたが、レン様にとって私は始めて会ったのと変わらないのですね。それでは信頼なんて築く事なんか出来る訳ないですよね」


そう言って姫様は俯いてしまった。


「ファルシア姫様、何か勘違いしてませんか?」

「え?」


姫様の顔が再び僕の顔を見る。


「僕は、確かに姫様と初めてあったのと変わらないかもしれませんが、姫様は僕との長い時間を過ごして僕の事を信頼して下さっているんでしょ?」

「は、はい! それは疑いようもありません!」


姫様が大きく頷きながら声を張り上げる。


「カーナ、リーシェン、君達から見て姫様はどう思うの? 僕よりずっと長く姫様を見て来たんだよね?」


そう、二人は僕の護衛としてずっと一緒にいた人たちで姫様が僕のところにお忍びで通っていた頃からの付き合いだ。


「はい、姫様の気持ちは純粋にレン様を思うものです。」

「はい、その気持ちは、レン様の事をお慕いするもので信頼されていなければ成す事は無いと思っております。その意味ではファルシア姫様は信頼出来る方だと私どもは思っております。」


二人の言葉には嘘偽りは無い事は、姫様が一番理解している。


「そして僕が信頼する二人が姫様の事を信頼しているのですから、僕が姫様を信頼しても良いと思いません?」

「そ、それじゃあ・・・・。」

「はい、結婚どうこうは別としても、これから姫様とも仲良くしていただけたらと思っています」


取り合えず落としどころはこんなところかな?

いきなり結婚だのなんだのってまだ早いからね。

とにかく最初は友達からでいいでしょ。

僕がそんなふうに思っていたのだけど。


「解りました!」


突然王妃様が大声を上げられびっくりした。


「レン君がそこまで、この二人のメイドの事を愛しているのでは仕方ありません! 姫とはレン君の成人する13才までは婚約者とし、無事に成人となった暁にはファルシア姫を正室として後の二人は側室としてフォルスタール王家に迎え入れます!」


「お妃様、それはいいお考えですね。私もメイドとはいえ、レンにこれだけ尽くしてくれる二人には幸せになってほしかったんです。これならレンとも離れる必要もないし、最強の側室としても王家にとっても十分価値がありますものね!」


おい! 二人で何か変な事言い出してるぞ!


「姫様! カーナ! リーシェン! こんな事君達だって嫌だよね!?」

「え? 私はいいですわよ? カーナさんやリーシェンさんとも付き合いは長いですし、信用出来る方達ですし、なによりレン様もいずれは側室をお持ちになるのは必然でその方が私が信頼出来るお二人なら申し分ありませんわ」


姫様は嬉しそうに話してる。それでいいんですか?


「カーナ! リーシェン! 君達はどうなの?」


「レ、レン様のお嫁さん・・・私が・・えへ、えへへへへ」


カーナ舞い上がって顔が変なふうに引き攣ってるよ。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


あ、リーシェン鼻血出して気絶してる。


「レン様、不束者ですがよろしくお願い致します」


両手を前で重ね、深々とお辞儀するファルシア姫様。


「ファルシア姫様、そんな・・」


僕が言いかけると、人差し指を僕の唇にあててくる姫様。

うっ、この動作は狡い!


「シアとお呼び下さいと申しました」


じいいいと見つめてくる姫様の強い意思に逆らえない気がしてきた。


「シ、シア様?」

「シア!」

「は、はい! シア」

「うふふふ」


最初に会った、おどおどしたシアはそこには居なかった。

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