帝国の闇 10
「ギルド長にお会いしたいのですが、おられますでしょうか?」
僕は今、帝都ベルリデルンにある冒険者ギルドの帝国本部に訪れていた。
ここには帝国の今の状況を確認するための情報を聞きに来ていた。
「はい、在席しておりますが、ご予約がおありでしょうか?」
昼前と云うこともあり、銀行の窓口によく似た冒険者ギルドの受付には僕達以外は疎らにしか冒険者達を見かけない。
その為か、石造りの建物内は声が良く響き受付嬢の事務的な言葉が増幅され良く聞こえた。
「いえ、予約はありませんが、レティ様の名代としてルーシー様が来られましたとお伝えしていただけますでしょうか?」
「はあ、でも前もっての予約がございませんと、ギルド長も暇ではありませんので」
「そうですか。ただ重要なお話で緊急性がございますので、そこをなんとかなりませんか?」
僕が顔の前で手を合わせ、拝むように懇願すると、受付の女性は少し頬を赤くしたように見えた。
お!? リーシェン腰の刀にいきなり手をかけて受付嬢を睨まないで! アクアも魔術を出そうとしない!」
ほら、受付の女の子顔を青ざめさせて震え上がってるよ。
「おい! そこの姉ちゃん達! 俺らのアイドル、マリンちゃんを脅そうったあ良い度胸じゃねぇか?!」
「君達、この狂暴なオッサンが怒ったら手がつけられないからね。覚悟しておくんだね」
あまり人が居ないと思っていたんだけど、こんな柄の悪いおじさんと、前髪掻き分けながら白い歯を見せるナルシスト兄さんがいきなり怒鳴り込んでくる。
定番といえば定番なんだけど、今回はこちらが悪いからちゃんと謝っておこう。
「あ、ごめんなさい! この子らも悪気は無いんですよ。条件反射が良すぎるというか。本当にごめんなさい。受付のお姉さんもびっくりさせてしまって本当にごめんなさい」
僕は、とにかく謝る! 悪いのはこっちなんだし、それにあまり目立つのは良くないし、とにかく穏便に済まそうと思ってとにかく謝る。
「あ、いいえ! 私は気にしてませんから。でも彼女達、相当あなたの事が大切なのですね。でも仕方ないですよ? あなたが可愛い過ぎるのですよ。こんな可愛いお嬢さんなら私でも守ってあげたいと思ってしまいますもの」
「・・・・・・お嬢さん、ですか?」
「はい! 将来は女優さんとか良いかもしれませんね」
楽しそうに話すなあ、この受付の女の子。
さっき青い顔していたのが嘘みたい。
しかも、僕を可愛いとかいって褒めちぎる? からリーシェン達までウンウン頷いてしまってるし物凄く恥ずかしいのだけど。
「あの~お姉さん、僕一応、男ですから」
「え?」
「男です」
「またまたぁ~、お姉さんを騙そうたってそうはいきませんからね」
「騙してませんよ?」
「うっそだ~」
「嘘じゃないです。」
「・・・・・・・・・嘘。こんな可愛い男の子なんて、物語の世界だけよ」
「いえ、実際、目の前にいますから」
「・・・ほんと?」
「はい。」
「ほ、本当なの?」
受付の女の子はリーシェンに向かって再々確認するので、リーシェンが大きく頷く。
「き、き、き!」
「き? どうしました?」
「き! きたあああああああ!! 僕!」
「ぼ! 僕?」
「僕! 私をあなたの下僕にして!」
「「「「はあああああ??」」」」
受付のお姉さんが、受付カウンターを乗り越えそうな勢いで僕に迫ってきた。
それをリーシェンが阻止しようと前に立ってくれるが、その異様な雰囲気にあのリーシェンが一歩たじろいだ。
そういえばマリンちゃんとか言ってたな。
そのマリンちゃんの目が異常だ。
あれはもはや変質者の目だ。
「逃がさないわよ! この日を夢見て18年! 目の前に私の理想の、お・と・こ・の・|娘が此処に降臨したんだから!」
うわ! マリンちゃんカウンターを乗り越えて来た! み、見えてるって! ギルドの制服なんだろうけど短めのタイトなスカートなのにそんな大胆なことしたら丸見えだって!
あ? さっき怒鳴り込んできたオッサン達、何! ラッキー! とか言ってるんですか!
バタン!!
突然ギルドの入口の扉が勢いよく開かれた。
「レン様! お待たせ!! カーナ言い付けを遂行し、ただいまレン様の元へ!!」
カーナが僕の言われた用事を済ませて合流をこのギルドでって言っていたのでその通りに表れました。
今の状況は、僕を守ろうとするリーシェンの周りに変態女と、変に顔を赤くして嬉しそうにしているオッサン達。
「レン様を虐めるなああああ!!!」
と、勘違い、でもないか。
でもそこで刀を抜いて炎を纏わしながら突っ込んで来ないで!!
その後、ギルドの受付フロアーが1週間閉鎖された。
理由は、地下にガス溜まりがありなんらかの原因で引火し爆発が起こったと、報告されたとか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「それでマリン、何か言いたいことはあるか?」
此処はギルドの建物内。
3階にあるギルド長の執務室。
接待用のソファーに越しかけ、膝を組む歳の頃は40代後半かな? オールバックに端正のとれた男前がここのギルドを仕切るザダスギルド長だ。
彼は、前のめり気味に座り膝に肘を付き手に顎を乗せ、うなだれるマリンちゃんを睨みつけていた。
「な、何もありません! 申し訳ございませんでした!!」
声を張り上げ腰を曲げ深々と頭を下げるマリンちゃん。
「はあ、君は優秀な職員なんだがどうも可愛い男の子を見ると歯止めがきかないのが玉に瑕だな。」
歯止めがきかないで済まして良いものだろうか?
「まあ、今後は気をつけてくれよ」
「はい! ギルド長!」
パッと明るい顔になって、そそくさと執務室を出ていくマリンちゃんって、それでいいのか?
「いやあ、すまなかったね。ちょっとあの子は行き過ぎる感が時々あるんだよ。」
いや、時々あったらまずいんじゃないですか?
まあ、ギルド長がそれで良いなら良いのか? ちょっと不安が残るけど話を進めなくてはいけないのでさっきまでの出来事は忘れることにした。
「それで、お話なのですが」
「ああ、判ってる。この帝国の動きについてだな」
「はい、本当に帝国は戦争を起こす気なんですか?」
「それは、確実だな」
「そうですか。この間仲間の者がここの機密情報を入手出来て分析しましたが、その軍需拡大の規模が異常でした。戦争を起こすにしても、これだけの規模が必要とは思えません」
僕の話に、ギルド長は深く考え込む。
まず、冒険者ギルドは、各国に点在するが、あくまでも独立の組織であり、その国に干渉するのも干渉されるのも出来ない事で協定が組まれている。
なので、帝国の不穏な動きは判っていても、それを咎める事は出来ないのだ。
逆に、戦争をするからギルドも協力しろ等とは言えないのだけど。
「今回は、我々も情報を掴むのがかなり遅れた。帝国は慎重にこの事を進めていたようで、表に出たのはつい最近の話なんだ」
「同じ帝都にいるのにですか?」
「ああ、下準備を周辺領主の中で進め、それが纏まった時点で一気に帝都に持ち込み軍需拡大の生産を始めたんでな。」
ばつの悪そうな顔でギルド長が頭をかいていた。
「もっと早くに情報を掴んで、レオグスに伝えておけば、システィーヌ様に対処をお願い出来たかもしれんのにな」
「それはどうかと、母様もその時は役職を離れていましたし、直ぐには対応出来なかったかもしれません」
「ふ、そうか。システィーヌ様の御子息とは思えない優しさですな」
褒めてくれているのだろうか? 母様ってどれだけ怖かったんだ?
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