冒険者ギルド 6

「なんだい? パルワ」

「はい、パラディオ様、臣下ってどういう事ですか?」


パルワさんが、可愛らしく質問すると、優しく微笑むパラディオ本部長。

ただ顔が厳ついので、見ようによってはちょっと怖いかも。


「それは、後で話す事にするよ。君にも関係無い話じゃなくなると思うからね」


人差し指を立てて、良いよねとウインクして見せるパラディオ本部長をうっとりとして見つめるパルワさん。


「はい、パラディオ様がそう仰るなら」


あ~あ、今にも見てられない様な抱擁をしそうな二人だったので、僕達は一端本部を出ることにした。


「パラディオ本部長、取り合えず僕達一端戻るので、冒険者証は明日取りに来るから宜しくね」

「は、はい、お構いなく」


何がお構いなくなのか?

二人を置いて、僕達は本部を出た。


「良かったですね。お二人幸せそうで」


ギルド本部の建物を出て、取り合えずブロスフォードの屋敷に戻る事になった僕達は、大通りを一本外れ住宅街の路地を歩いていた。


「まあ、幸せになって欲しいとは思うけど、あそこまで二人の世界に入られると、見ているこっちが恥ずかしくなるよ」

「でも、私もあそこまでとは言いませんけど、少しは憧れます。レン様は駄目ですか?」


シアが可愛らしいく言って来ると、後ろに付いて歩いているカーナやリーシェンも頷きながら真剣に聞いている。


「は、恥ずかしいと言えばそうだけど、別に嫌じゃないかな?」

「よかったあー、これで堂々とレン様に甘える事ができますね。リーシェンさん、カーナさん、一緒にレン様に甘えましょうね?」


「シ、シア様! べ、別に私どもは・・・」


シアの言葉にリーシェンが焦るが、お構いなしにシアは笑顔だ。


「あら、あなた達がもっとレン様とイチャイチャして貰わないと、私が出来ないではないですか」

「そんな、姫様を差し置いてそのような事」

「それは私が困ります。レン様が幼少の頃から私達は良くお互いを知ってますが、一番初めからレン様をお守りしお慕いしているお二人をそれこそ差し置いて私がレン様に手を出すわけにはいけません!」


サラっと大胆発言されるシア。

君ってそういう性格だったの?


「何を言ってるんです! この場合シア様が正妻であるわけですから、私たちが先とかおかしいですよ?」


うん、普通はリーシェンの言う事が正しいんだよね。

と、言うより僕まだ10歳なんだよ?

一応成人する13歳までは結婚出来ない訳だし、今からそこまでの話をしなくてもとは思うんだけど。


「そんな事はありません! 王家や貴族では10歳くらいで他家へ嫁ぐと云うのも珍しくありませんわ」


僕? 独り言、口に出していたのか?

僕がまだ成人していない事を考えていたらいつのまにか口に出していたのだろう。

シアが反論を言ってきた。

まあ、そういう意味では、シアは13歳だしカーナも17歳だし問題ないのか? リーシェンもあれ?いくつだっけ?


「た、確かに、こ、子作りとかは、体が成長しないと、だ、駄目でしょうからしょうがありませんけど・・」


シア、あまりそういう事は公衆の面前で言うべき話じゃないぞう。

ほらリーシェンなんか顔真っ赤にしてるぞ。


「でも、私なんか良くレン様が寝付けないといって、一緒に添い寝してあげた事何回もあるし、そんな時はたいてい私、裸だったから今更な気もしないでもないよ?」


「カカカカ、カーナさん! な、な、なな何を言ってるんです! それ本当なんですか!?」


カーナの爆弾発言にリーシェンが物凄い勢いで詰めよって衿元を締め上げ始めてる。


「ちょ、ちょっとリーシェン先輩、く、首絞まる! し、仕方ないんですよ。私、裸でないと寝れない質なんで!」

「と、言う事ですので、別に年齢関係なく、レン様を愛する事は問題ないと思います!」

「問題ないという訳では無いと思いますけど」


「「「問題ありません!」」」


「はい!」


三人がいつのまにか僕に迫って言い切るので、つい、返事してしまった。

最初結婚をどうとかの話だったのに、今の話では一緒に寝ても良いかどうかみたいな話になってないか?

取り合えず三人が結構仲が良い事が解っただけでも良しとするけど、帰ったらその辺をもう一度ちゃんと話しておこう。


そんな端から見たら仲良さそうにしながら帰り道を急いでいると、建物の影の小さい路地からこちらを見る視線が次第に多くなって来ているのに気づいた。


「おい、そこの坊主、ちょっと話があるんだがな」


そう言って冒険者っぽい男が10人くらい、路地の影から姿を現した。


その男達は、一応に防具や武器を携えている。

身なりからすると冒険者かな?

防具も武器も人それぞれで統一性が無いし、嫌らしい目つきや、下卑た笑い顔なんかして底辺の冒険者丸だしですって感じだもんなあ。


「何かご用ですか?」


僕は特に警戒してますよって感じを出さない為に、わざと自然に返事をしてみた。


「ああ、今さっき冒険者ギルドの建物から出てきただろ? 見かけない顔だしな、新人だろ?」

「はい、そうですが、それが何か?」


僕と、その集団の中の一人の男と話し合っていると、リーシェンが僕の前に少し出て防御態勢に入っていた。

そしてカーナは僕の後ろにいるシアの前に出て後ろに回ろうとする男達を牽制していた。

二人とも、さすが手早いね。


「見たところ女性しかいない新人パーティーだろ? 俺達は新人のあんたらに先輩として冒険者の何たるかを教えてやろうかと思って、声をかけてみたんだ」


女性だけと云うのはちょっと気になるけど余り関わりになる必要もないから無視して僕は丁寧に断ることにした。


「それはご苦労様です。ただ、僕達はそれなりに訓練していますので、駆け出しという程でもありませんので丁重にお断りいたします」


そう言って一礼すると僕達はそのまま歩きだそうとしたが、その前を2、3人の男が塞ぐように立ちはだかった。


「おい、おい、そんな連れないこと言わなくても、俺らが親身に教えてやるから遠慮すんなよ」


僕の態度に少しいらついたのか、早口になりながらも、まだ理性的に話そうとする男性。


「そう言われましても、あなた達に教えを乞うような事は無いと思いますので」

「はあ~? 何だとこらあ! 目上の者に対して言葉が過ぎやしねえか?!」


ああ、だんだんと口調が荒くなってきたな。

とは言ってもこればっかりはねえ。


「おい!嬢ちゃん!お前まだ10歳にもなって無いだろ? それに女ばっかだし、どう見たって森で魔獣と遭遇してすぐにあの世行きが目に見えんだよ! 俺達と仲良くなっとけば嬢ちゃん達が受けられないCクラス依頼だって受けれるし身の安全だって保障してやれるんだぜ」


Cクラス依頼と云う事で彼らの実力が僕達より下だと解る。

ちょっと強くなったからといって、こうも自信過剰になるもの何だろうか?

まあ、確かにこれだけの美少女達を見たら誰だってお近づきになりたいと思うかも知れないが、その中にどうも僕も入っているのが気に掛かる。

そんな事を考えていた為少し黙っていたら、どうも向こうの申し出に僕が乗る気じゃないかと勘違いしたようだ。


「良く考えたら、結構良い話だろ? 俺達が絶対に守ってやるからよ安心しな。なんなら報酬を山分けにしたって良いんだぜ? ただその代わり、ちょっと俺達と良いことしてもらうだけで十分なんだがな。命の保障があって、金も手に入り、冒険者としての評価も上がる上に、毎晩気持ち良くなるんだぜ? これ以上良いことないだろう?」


僕は、その下品な言い回しにカチン!と何かのスイッチが入った様な気がした。


「生憎、彼女達は僕の大切な女性達なんで、君達みたいな何処の馬の骨ともわからん男にお願いする気はありませんから。それに何か勘違いされているようですが、僕は男ですよ?」


僕ははっきりと言い切る。

すると僕が男だという事に少し同様が男たちの中に出たが、それはすぐに収まった。


「本当に男? なのか? どう見たって女にしか見えんが?」

「本当に男ですよ?」

「まあ、それならそれでも良いぜ? こう見えて俺は両刀なんでな。特にお前ほどの美少年なら問題ないぜ」


う! そう来たか! と、鳥肌が全身を一気に駆け巡った。

さっきまでカーナ達の事で頭にきていたのに一気に醒めてしまった気がする。

それにしてもこの世界の男共は、皆こんな感じなのか?


「お前みたいな子供じゃまだ冒険者は無理だぜ? この俺が色々教えてやるからよ楽しみにしてな」


駄目だ!これ以上こいつらの言葉を聞くのは堪えられない!

ここは力づくで、と思ったんだけど、僕は物凄い圧力を感じて刀に手を掛けるのを収めた。


「この外道共! 今、なんて言いました!!」

「私達の大切なお方をそんな下品な目で見やがる糞虫共! 生きて帰れると思うなよ!!」


その圧力の主、リーシェンとカーナが、今までに見せた事が無いような形相で男達を睨み付けていた。


「まずい! あんたら早く此処から逃げろ!!」


そんな僕の温情を汲み取れる奴は、初めから此処には居なかったようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る