王国の暗部 2
「さて、僕は今回の件で、あなたたちを野放しにする気はまったく無くなりました。カーナとフル姉への辱めは、僕にとっては到底許せる範疇を逸脱していますからね」
それ以前にもシアに対しての策略の事もあるからね、もう見逃してあげるつもりはない。
真っ直ぐにジルデバル辺境伯を見つめる。
蛇に睨まれた蛙のように身動きを一切しない。
代わりに、ゴルード伯爵が僕に説明を求めてきた。
「一体、どの様なご用向きであれば、このような暴挙に出られるのか説明はしていただけるのでしょうな?」
何か、から、と云うより僕の視線から耐えるようにして僕を睨み返し必死に対抗しようとしている。
案外、このゴルード伯爵、ジルデバル辺境伯より胆力があるのかもしれないな。
「それを説明しようとしましたが、こちらの屋敷を警護をする騎士の方が聞いて下さらないので、仕方なく」
僕はわざとらしく肩をすぼめポーズを取ると、いっそう不快な表情に変わった。
それを無視して、僕は手に持っている丸められた一枚の紙を二人の前に翳した。
「それは?」
ゴルード伯爵が僕の手にある物に気がついたようだ。
「これがその暴挙の理由ですよ・・・勅令!」
僕の声でジルデバル辺境伯は意識を戻し、ゴルード伯爵は身構える。
「「勅令、だ、と?!」」
ジルデバル辺境伯が小さく僕に聞こえるかどうかの小さい声で呟いていた。
しっかり僕は聞いていますよ。
「どうしました? 勅令ですよ? 傅きなさい!」
「「・・・・は、はっ!!」」
勅令は、王の言葉、王が直々に命令する事。
それを掲げられた相手は、王を前にしているのと同じなのだ。
僕の手に勅令と王の印がある書類は、王そのものであり、何人もその令に従う必要があるのだ。
実際は国王はあまりこういう命令とかするのが苦手らしく、こういう時は王妃が代わりに手配するらしい。
それって実質この国は王妃が管理していると言うことになるのでは?
国王様、もう少し頑張りましょうね?
それはさておいて、僕の前に跪く二人に国王からの命令書を開き読みはじめる。
「グライス・ジルデバル辺境伯に告げる。貴殿は、フォレスタール王国国王、ディルエ・ラル・フォレスタールの名代としてスバイメル帝国へ赴き、第二皇子を騙った犯罪者を引き渡す役目と王国への賠償等に関する協議の代表の任に命ずる。早急に王宮へと登城し手続きに入ること。以上。」
「ば、馬鹿な!! 王妃は、いや、国王陛下は何をお考えなのですか!?」
ゴールド伯爵が怒鳴り散らす横で、スバイメル辺境伯は、うなだれたまま動こうとしない。
さすがに事の重大さが判ったのだろう。
「これは勅令です。断る事は許されません。それとも職務を真っ当出来ない御事情でもお有りなのですか? それでしたら僕が、王家にお伝えしますけどいかがなさいますか?」
スバイメル辺境伯に問うが、返答が帰って来ない。
「レンティエンス殿はこの事をお判りの上で伝えておられるのか?」
ゴールド伯が恨めしそうに聞いてくるけど、僕としては答える義務はない、のだけど。
「別に僕が知っていようがなんて関係ありません。僕はこの勅令を名代として伝えに来たまでですから。」
そう言って突き放すつもりだったが、そこへジルデバル辺境伯が僕を睨みつけているのに気づいた。
「その様なシラをきられるおつもりか。全ては貴方の母上のさしがねなのだろう?」
静かな声で僕に問い掛けて来るジルデバル辺境伯。
「そこまで言われるのなら、あえて言いますが、強いて言えば、僕の提案です。ジルデバル辺境伯殿もアヒム殿下と偽る輩に騙された被害者の一人でありますし、その犯罪者を見極める事が出来なかった責務も感じておられるでしょうから、その責任を全うしていただくためにも、あなたに帝国へ偽アヒムの引き渡しと交渉をお任せしてみてはと、お願いしてみたのです」
僕は少し口の端を上げ彼を威圧しながら語った。当然表向きだけどね。
大切な人を傷付ける事になってしまった原因のジルデバル辺境伯。だけど彼が実行した証拠となるものが有るかと言われれば状況ばかりで、どうせまた逃げおおせてしまうでしょう。
だからと言って見逃すほど僕は甘くはありませんよ?
そうとう驚くゴルード伯爵とジルデバル辺境伯。
自分で言うのも変だけど、一応見た目は子供なのだけど、そんな子供が言う言葉じゃないのだろう。二人の視線は僕に恐怖と怒りを感じているのがわかった。
「それと、アヒム殿下を騙った犯罪者と一緒に、この方々も届けて欲しいのです。」
そう言って僕は、ジルデバル達と僕との間に魔術による紋章を起動させた。
その紋章は徐々に強く光だし、円筒形の光の筒を作り出しその中に人影を映し出した。
やがて光の幕が消えた後には、縄や鎖で縛られ、口も布で覆われた一人の男性が現れた。
「な、なんだこれは!? 貴様何をした!」
ジルデバル卿が青い顔をして驚いている。
まあ、こんな魔術式見たこと無いだろうね。
だってこれ水の上位精霊のアクレリアから教えてもらった転移術だからね。
あ、アクレリアは僕が名付けてあげたのだけど、物凄く気に入ってもらってその時色々教えてもらった内の一つで精霊術の中でも上位術みたい。
二人にとっては急に男が現れたので信じられなかったようだ。
「あまり深く考えたらおかしくなりますよ? それよりこの男ですが、国境近くのレンダールの街にあるジルデバル卿の私邸で、不信に出入りしていましたので、失礼とは思いましたが、僕が捕らえさせてもらいました。」
「き、貴様! わしの私邸に無断で侵入したのか!?」
「いえ、不審者を捕らえる為にやむなくです。これは現地の警備隊の方に確認してもらえればわかります。」
「そ、それで、その男は何なのだ?」
「この男、調べましたらなんとスバイメル帝国の密偵で、わが国周辺を色々嗅ぎ回っていたり、内通者との情報交換をしていたようですよ? ただですねこの男を捕らえる時に、僕の知り合いが被害にあいまして、かなりの屈辱を負わされましたので、僕が少し罰を与えた結果このような姿になってしまいました。大事な人をイジメられたのでムキになってしまい僕も反省するところです」
少し、はにかむ様に笑うと、ジルデバル卿とゴルード伯爵は引きつったような顔をしていた。
まあ、顔が腫れあがり、元がどんなふうだったかも判らない様になっていれば引き攣るのかもね。
「で、申し訳ないのですが、尋問も全て終わりましたのでこの男も一緒にスバイメル帝国に引き渡してもらえればと思いまして」
「ふざけているのか?」
「いえ、さすがにスバイメル帝国の者を勝手に処刑にするわけにも出来ませんので、お願いできませんか?」
僕がお願いすると、ジルデバル卿の身体がワナワナと震え出しは始めた。
「き、貴様! わざとだろ! 今、スバイメル帝国にアヒム殿下を連れて向かえば、わしがどうなるか判って言っているのだろう?!」
「さて、なんの事でしょうか? それにアヒム殿下ではなくて、その偽物ですよ? お間違いなく」
僕がわざとらしく注意すると、二人は僕を睨みつけていた。
それはそうだろう。
もし、ジルデバル卿がアヒム殿下(偽物?)を連れて赴けば、ただでは済まない可能性は高いでしょうからね。
スバイメル帝国と繋がりがあり、魔工師の奴隷化しスバイメルへ提供する黒幕であったが、その事がばれそうになった時、そのアヒム殿下(偽物?)を捨てて逃げてしまった事は、帝国にとっては信用していた人間に裏切られたと思うでしょう。
かと言って、もし、この勅令を断れば、それは王の命令に従う事が出来ない理由が必要となる。例えば、公務を遂行する事が出来ない程、体調が悪いとか・・・その場合、現役貴族として表舞台から退く事を意味している。
「ふん、どちらに転んでもわしの命運はここまでと言うことか」
ジルデバル卿は肩を落とし身体から力が抜けていくのがわかるほど気落ちしていた。
「レンティエンス殿、宜しいか?」
「はい、何でしょう?」
「わしは体調面が著しく崩しており、公務を今後、全うする事は叶わぬようじゃ。その様な者では国の重役としての責務は果たせぬのでな、勅命は丁重にお断りを申し上げると共に、わしは、現役を引退し、当主変更を願いたい・・・」
「そうですか。それは残念な事です。確かに承りました。長年お疲れ様でした」
「わざとらしいな」
ジルデバル卿が呟いた。
「貴様、一体何物なのだ? そもそも人なのか? その容姿が偽りなものと思えてしまう程、恐怖を感じるがどうなのだ?」
失敬な、今のところは人間のようだと思います。
でも、それを答える事は出来ないと、自分でも最近感じる事がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます