みんなでバカンス! 2

なんとか目的の海水浴場にたどり着きました。

ようやく落ち着いて休めそうです。


「あ、あのうレン様、本当にこんな事をして下さっていいのでしょうか?」


リーシェンが、おずおずとしながら聞いてきた。


「ん? 良いんじゃないかな? アクアもさっきの事は反省したみたいだし、公衆の面前でちょっと恥ずかしい思いをさせてしまったって、気にしていたから」

「そうですか?」

「リーシェンは嫌なの?」

「そ! そんな事ありません! このまま時が止まっても良いと思っているくらいですから!」


力一杯に答えるリーシェン。

そんなに喜んでもらえるのは嬉しいけど・・・


「アクア、カーナ、シア、そんなに羨ましそうに凝視しないの」


ちょっとみんなの視線が集まっている上に、周りにいる海水浴に来た人たち、特に男性陣からの呪いでも掛けようかと思えるほどの怪しい視線が僕に集中しているのは、さすがに勘弁してほしいところだけど、リーシェンが喜んでくれているんだから、もう少しこのままでいてあげよう。


「リーシェン先輩、良いなあ。私も後で代わって下さいね?」

「ん~・・・まだ、ダメよカーナ」

「え~! いつまでですか!」

「私が飽きるまで・・・」

「そんなの一生こないじゃないですか!」


ちょっと、カーナがごね出したから、そろそろ泳ごうかな?


「リーシェン、そろそろ休憩、終わりにしようか?」

「まだ、ダメです」

「うわ!」


リーシェンの腕に力が入る。

ただでさえ、最強の護衛メイドで僕の婚約者の一人だから、その力もとんでもなく強い。

その強さで離さないと、僕の頭をリーシェンのふくよかな水着一枚だけの胸に埋没させてくる。

簡単に言えば、今の状況は、リーシェンに完璧なまでの羽交い締めをされて身動きが取れない状態、つまり僕はリーシェンの抱き枕状態なわけです。

流石に恥ずかしくなってきた。


「リーシェン、さすがにこれは恥ずかしいんだけど?」


屋内ならともかく、海水浴で多くの人で賑わう場所で、この体勢は流石の僕でも結構恥ずかしいし、それより先程より周りの男性陣の視線から殺意がこみ上げているのを肌がヒリヒリ感じている。


「そうですね。私もさすがに公衆の面前だという事を失念しておりました」


いや、かなり前から周囲の視線が痛いんだけど?

リーシェン気付かなかったのか?

それでもリーシェンがようやく僕を解放してくれたのは良いけど、今度はカーナ達の視線が痛いよ。


「・・・・う~ん、お宿に帰ってから順番だよ?」

「レン様! 言質取りましたからね!」

「主様、二言は無い?」

「今晩が楽しみです」


カーナが飛び上がって喜んで、アクアが無表情に圧力をかけてくる。

シア、その目、怪しく光って見えるのは僕の錯覚だろうか?

・・・何だか、さっきより視線が痛いような・・・あ、


周囲の殆どの男性が僕に、殺意ある視線を投げつけていた。

ちょっとはしゃぎ過ぎしたかな?


「あ~君達」


そんな群衆を掻き分けて、色鮮やかなシャツに短パンの上から軽装の防具とミドルソードを腰に下げた男性が3人程僕達の前までやって来た。


「はい? 僕達の事ですか?」

「たぶん、そうだろう」

「はあ? たぶんですか?」

「ああ、通報があったんでな。公衆の面前で如何わしい行為をしている少年と複数の女性がいるとな」


え? 僕達、通報されたの?


「それは何かの間違いですわ!」


シアが前面に出てその男性たちに向かってビシッと人差し指を向けて怒り出す。


「私達はただ、バカンスを楽しんでいただけですわ。海岸警備の者ともあろう者がそんな嘘な通報を真に受けるのですか!」


あ、この人達、警備隊の人達だったのか。

それにしてもリゾート雰囲気そのものな恰好だな。


「そう言われてもなあ。今もそんな面積の少ない水着でその少年にびったりくっついてるしなあ。説得力がないんだよお嬢ちゃん」


この人達、シアが王女様だって事しらないのか?


「なによ! 旦那様にくっついていけない奥さんがいるの?」


今度は、カーナが僕の腕を掴みながら警備隊の人を睨みだした。


「は? 旦那? 奥さん? 誰がだ?」

「何を言ってるんですか! この可愛らしくも凛々しいお方、レン様が旦那様で私達全員が奥さんですよ!」

「「「「はあああああああああ???」」」」


今度は、警備隊に人もそれを見ていた周囲の男性陣からも怒声が巻き起こった。


「そんな、いやらしさ満載の女性から幼そうな美少女まで全員が奥さんだって?!」

「なんて羨ましい!」

「これは犯罪ですよ! 警備隊の人!」

「絶対、怪しい薬でこの女の子達を服従させているんだ!」

「そうだ! そうだ! 絶対怪しい!!」


なんだか変な話になってきてないか?


「ふむ、なんだかそんな気がしてきた。ちょっと警備隊の詰め所まで来てもらおうか」


そう言って、3人の警備隊の男達は腰に下げていたミドルソードを抜き出し僕に向かって構えだした。


「は?! 何言ってるのですか! そんな根拠のない言葉を鵜呑みにするのですか?!」


リーシェンが、向こうの訳の分からない言い分に、声を荒げた。

でも本当におかしいぞ。

こんな事で剣まで抜い構えるなんて・・・


「主様、ちょっとおかしい」

「アクア、どうした?」

「変な魔力の流れを感じる」


変な魔力? そう言えば微妙だけど、何かが漂っているような・・・


「レン様! 群衆が増えてませんか?」


シアの声に僕も辺りを改めて見渡すと、確かに人の影が多くなっていた。


「これは誰かが操作してるのか?」

「分からない。でも視線がとってもいやらしい。特にリーシェンへの視線が一番多い」


アクアの冷静に分析してくれるって、それ僕でも判る。


「リーシェンが一番スタイルが良いし、それに水着の布の面積が小さすぎるんだもん」

「!? レン様!」


あ、リーシェンの顔が真っ赤だ。

両手で胸や前を隠そうとモジモジするリーシェンに、何故か群衆が色めき立ちだした。


「お、女だああ~、もっと、見せろ~」

「ひいいい!」

「レン様、ちょっとおかしいよ! ここは逃げよう! 私も自分に向けられる視線が気持ち悪いよ」


カーナも、顔を赤らめながら恥ずかしそうに胸を隠しながら、周囲をけん制していた。


「そうだね。ちょっと異様な感じしかしない。ここは逃げよう。アクア頼める?」

「もちろん」


そう言っている間にも人の数が増え、僕達を囲みながらその感覚をどんどん縮めてきている。


「精霊にも力を借りた。行く!!」


アクアの叫び声と共に僕に全員がしがみ付く。

それと同時に、近寄っていた男性が飛びかかってきた。


その瞬間、僕の目の前に水と風が一気にわき起こり、空に向かって立ち上る。

その勢いに跳びかかって来た男性陣は吹き飛び、はるか後方に飛ばされてしまう。

僕達は、その大量の水に一気に飲みこまれた。


「・・・・・・・・・・・は!?」

「み、みんな無事?」

「はい」

「大丈夫!」

「問題ありませんわ」


ほ、良かった。無事にあの場から逃れたみたい。

それにしても、いきなり水に飲み込まれるとは、ちょっと強引な脱出方法だったな。


「でも、アクアありがとう」

「ん、これくらいなんでもない。でもこれからが大変」


大変? 何がだろ・・お?!


「レン様あ! 私達、空飛んでます!!?」


カーナが叫ぶ。

こ、この、ふ、浮遊感?!


「し、下! う、海!?」


リーシェンも叫ぶ。


下? 下には遥かに広がる海が見える。

かなり先に海岸が、あ、あんなに人が小さく? 小さすぎて黒い点にしか見えないけど動いてるから人かな?

・・・うん、完全にかなり上空に僕達いるね。


「・・・・って! 空? やっぱり飛んでる?!」

「主様、精霊の力が届かない。後は下に落ちるだけ」

「「「「はい?」」」」

「大丈夫。みんな鍛えているからここから海に落ちてもたぶん問題ない」


無表情の中に小さな微笑みを入れて言わないで。

た、確かにたぶん大丈夫だとは思うけど・・


「ただし、今着ている水着は魔法力は宿ってないから、衝撃に耐えられない」

「つまりそれは・・・?」


リーシェンが恐る恐るアクアに聞き直す。


「みんな素っ裸になる」


アクアの一言を最後に、浮いていた体から抵抗がなくなり、一瞬で落下体勢にはいる。


「「「きゃああああああああああ」」」


・・・・・その後、無事に落ちた僕達は、魔力強化を最大限にフル活用して、目にも止まらぬ速さで、宿に戻る事に成功した・・・のかな?

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