加護の儀式 6
「それではこれより加護の儀式を行います。今回は例年とは違い、加護の宣告を大司教様でなく、エルフの奥里で神託を受けておられる、エルフ神官、クウェンディ様が十数年ぶりにお伝え下さいます」
「おぉおおお!!」
加護を宣告する人が、エルフ神官であるクウェンディ様だと司会の人が宣言すると、大聖堂にいる子供達以外の大人達からどよめきが起こった。
そう云えば、クウェンディ様と母様は知り合いだって、ババ様が言っておられたような? あ! クウェンディ様の隣にババ様が一緒におられるぞ。
すると、僕に気付いたババ様が他の人に注意しながら微笑んでくれた。
僕は小さく会釈すると、リーシェンとカーナも同じように会釈する。
ババ様と僕は呼んでいるけど、本名は、ルール・ファンデル様で、エルフ族の長老で母様に体術や剣術、精霊術、等を教えていた先生なのだ。時々遊びに来られてその時に僕や、カーナ、リーシェンも色々教えてもらっている。
なんでも、大昔の魔王討伐のメンバーだったとか。殆ど生ける伝説、武術の神様、〇仙人様みたいな人だ。
でも、見た目は僕よりちょっと身長は小さいかな? エルフ特有の鮮やかな青色の髪に整った顔立ちが、若い頃は美人だったのだろうなとは思わせる。それでも超美人の母様と並んでもそれほどお歳には見えないのは流石です。ちなみに年齢は・・・
バチーン!!
「いっ!たあい!」
今!何か頭に当たったぞ?
コローン
ん? 豆? 床に豆が一つ転がっている。これが頭に当たったのか?
僕は、何となく気になった方を見る。
そこには、鋭い目つきで僕を睨む、ババ様が指先をこちらに向けたポーズをしていた。
こんな人の多い場所で、寸分たがわず僕の頭に豆を当てられるのは、ババ様くらいだよ。
それにしても、僕がババ様の年齢を考えているのが分かったのだろうか?
やっぱり年齢といい化け物かも。
バチーン!!
「いっ!たあい!」
また、豆が飛んできた。
「すみません、レン様、さすがにルル様の攻撃は対処出来ません」
「良いよ、カーナ。ババ様と互角に戦えるのは母様くらいだから気にしないで」
僕は豆が当たった額を摩りながら、苦笑いで答える。
「それでは、これよりクウェンディ様が、子供達が持つ神の加護をお一人ずつに伝え下さります。名を呼ばれた者は、静かにこちらの壇上へと来るように」
クウェンディ様は、大聖堂の最奥にある檀上でステンドグラスの光を浴び、僕たちに背を向け神に祈りを捧げ準備をしているようだ。
それにしても、美しい方だなあ。母様も綺麗な方だけど、全然負けてないよね。
話はよく、ババ様から聞いていたけど、想像以上でした。
青くお尻くらいまで伸びた髪がステンドグラスの光に当てられてキラキラと輝いて幻想的な雰囲気を作っている、透き通る程の白い肌に切れ長の瞳とスーっと通った鼻筋が大人の女性を魅力を引き立てていた。
「それではまず、ボルトール侯爵家のカルロ様、こちらまでお越し下さい」
「は、はい!」
進行役の男性が、最初に名を呼んだのは、カルロという男の子だった。ソバカスが特徴的で赤髪で活発そうな子だ。でも緊張しているのか、手と足が一緒に出て歩いている。
緊張しながらもなんとか壇上に上がると、クウェンディ様がその子の額に手の平を当て、小声で呪文を唱えだした。
「汝に、加護を授ける神の真名を告げ、心の記憶に刻み込まん」
綺麗な声が風に乗せた歌声のように軽やかに響くと、額の部分に小さな光のサークルが現れ、一瞬光の強さが上がったと思った瞬間、サークルは音もなく消えていった。
「あなたの加護を授けてくださるのは、運気の神、シャルバラ様です」
「は、はい、ありがとうございます!」
カルロは大きくお辞儀をして壇上から勢いよく降りていった。うんやっぱり元気そうな男の子だ。
「続きまして・・・・」
その後も、名を呼ばれたものが次々と壇上に上がり、加護を授かる神の名を告げられていった。
ここでちょっと復習だ。
この加護と云うのは、神の特徴を分け与えられるものなのだ。
修業とか実戦とか経験を積めば、人は技術やスキルを体得することが出来るでも、神が授かる加護は、何の修行も経験も必要とせずに、その神の特徴を、使う事ができる、自身の固有スキルみたいなものと言えば良いのかな?
でも、いくら神から授かったからと言って、それに胡坐をかいていると、修行や経験を積んだ者に勝てなくなることだってある。
あ、あの子、神が加護を授からなかったみたいだ。
呆然としてその場に崩れる様に座り込んでしまった。それを見て、親御さんだろう。若い男女がその子を支え、壇上から降りて行った。
貴族にとって、神より加護を受けるのは必然であり、受けられないと言うのは死活問題にもなりかねない為だ。
これで腐らずに人生を歩めれば良いのだけど・・・
はあ~、僕の番の前にちょっと考えさせられる光景をみてしまったな。
自分だって神の加護を授かってない事もあり得るのだから他人事と思わずに気を引き締めよう。
そんな事を考えていたら僕の番が回って来たようだ。
というより、僕が最後じゃないのか?
並んでいた子供は全て終わったようでそれぞれの親元に戻っていた。
「最後に、レンティエンス・ブロスフォード様! 壇上へお越し下さい」
「はい!」
僕は自分が思ったよりも大きな声が出て自分でもびっくりしていた。
やっぱり緊張していたのかもしれないな。
「カーナ、リーシェン、行ってきます」
「「はい、お気を付けて!」」
僕は二人の見送りを背に、壇上へと上がって行った。
「お久しぶりです、ババ様」
「おう、レン鍛練しとるか? 今の豆攻撃くらい避けれんようじゃまだまだじゃぞ?」
「はい、申し訳ありません、精進致します」
僕は一通りの挨拶を済ますと、その隣におられるクウェンディ様の前に立ち、深くお辞儀をする。
「あなたが、レンティエンス君ね。ん~!なんて可愛らしい子なの!」
突然の第一声がこれだった。
そして僕の顔を手で撫でるように触り、妖艶な笑みを僕に向けてくる。そのうえ顔まで吐息が感じられる程近づいて来るので、流石に僕もドギマギしてしまった。
うー顔が赤くなっているのが判る。
「でも、あの獰猛なシスティーヌから、なんでこんな可愛い子が生まれるのかが不思議だわ」
そう言いながらどんどん僕の事を撫で回して来る。
でも何故か抗えない。体が固まったように動かなくなっていた。ふと横を見るとババ様は大きなため息をついてやれやれって感じで呆れた顔していた。
「「レン様!!」」
今度は、カーナとリーシェンが刀に手を掛け今にも突貫してきそうな目つきで睨んで来るし、周りの人も少し様子がおかしい事に気づき始め騒ぎだした。
グオオオオオ!!!
「ひっ!?」
一瞬だった。何か大きな殺気の様なものを感じたと思ったら、僕の固まっていた体が解け、動けるようになった。それと同時に、クウェンディ様が悲鳴を上げ、ガタガタと震え出しているのが目に映った。
僕はとっさに殺気の様な力が来た方向に顔を向けると、刀に手を掛け前傾姿勢で今にも抜刀しそうな真剣な顔で睨む母様が見えた。
母様、本気でクウェンディ様を斬ろうとしていません?
「ほほほほほほほほ! じょ、冗談よ! もう全く早とちりしないでよね」
クウェンディ様は母様に向けて冗談だったと謝罪していたが、あれは本気の目だった気がする。
エルフ神官は、エロフ神官だった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます