エルフの里へ 3

「本当にごめんなさい」


僕は、フルエルさんと、ドワーフのダルガンさんに今日、何度目かの謝罪をしていた。


「別に、レンティエンス君が謝ることじゃないわよ」


フルエルさんは、僕と一緒に歩きながら笑顔で答えてくれた。

あの後シア達3人が、ライアスさんに謝罪したのだが、エルフのフルエルさんとドワーフのダルガンさんに、逆に喜ばれてしまったのだ。

なんでも、ライアスさんのあの独特の物言いで、あちこちでトラブルを引き起こし、その都度フルエルさん達が後始末をするという事が続いているようで、今回の事がトラウマになって話し方が直ってくれないかと期待しているとの事だった。


まあ、それでもやり過ぎだったのは確かなので、主人としては謝っておくべきだろう。


「それにしても、レンティエンス君って男の子だったのだね。そりゃライアスの言葉に彼女達が怒るのも無理ないわ」

「はい、よく女の子に間違わられるのですよ」

「あ、あまり触れて欲しくなかった事かな?」

「いえ、その事でイジメられたとかはありませんから、むしろ好まれる方が多いかもしれませんね」

「そうなの? 確かに彼女達を見ていると、レンティエンス君がどれだけ愛されているのかが判るわ」

「そうですか?」

「そうよ」


僕は、並んで歩きながらフルエルさんと話しているのだが、何故か気負いがないと云うか、初対面的な会話のぎこちなさとかが、感じられない。

凄く話しやすい雰囲気に少し驚いている。

そのおかげで、後ろの三人は僕の事を睨みつけているので、少し落ち着きません。


「坊ちゃん、本当に良かったのか?」


坊ちゃんと僕の事を呼ぶのは、今、僕達が最初の目的地である、フォレスタール王国とグローデン国との国境の街、グロアまで便乗させてもらう事になった商隊のオーナー、ディクスさんだった。

彼が荷馬車の御者台から話しかけて来てくれている。

歳は40才前後くらいかな?

身体はそう大きくないけど、しっかりとした感じのおじさんと云ったとことだろうか? 

銀色の短髪で商人というより冒険者の方が似合ってそうに見える。


「大丈夫ですよ、それより僕達こそ便乗させてもらってすみません」

「何、こっちこそ助かったよ。一つ前の村で、魔獣に襲われて、護衛の冒険者パーティーが、二組も怪我して離脱することになっての。小さな村だったので補充も出来ず、グロアへの行程を大幅に見直す必要があって困っておったのだ。そこに、まだ若いとはいえ、先程のライアスさんとの件で力を示してくれた坊ちゃん達が一緒に来てくれるのは本当に助かっておるのだよ」


嬉しそうに話す、ディクスさん。


「だが、本当に良いのかな? 護衛の報酬は要らないというのは?」

「当たり前ですよ。途中参加の上に、グロアまであと2日ほどの近距離ですよ? いただく訳にはいきません。」

「レンティエンス君といったな」


ディクスさんが急に真面目な顔になって僕の方を強い目で見てくる。


「冒険者はな、命懸けの仕事だ。だから、準備や自分の装備、情報というのはとても大事になる。しかしこれ等を揃える為には、金が必要になるのだぞ? もらえる時に貰っておかないと後悔する事になるかもしれん。特に君は、彼女達をも守らなきゃいけないリーダーなのだろ? なら自分達を守る装備や情報を得るための資金はいくら少なかろうと貰うものだぞ」


僕は、少し驚き自分がこの世界の事を理解していなかったのだと感じてしまった。

僕が特殊過ぎるのだ。

神様に簡単に力を貰ったり、剣聖である母様やルール様に稽古してもらえる環境だったり恵まれ過ぎていて、この世界で普通に生きている人達の現状を全く理解していなかった。

それに、資金についても最近大きな収入源を手に入れてしまったので、特にお金には無頓着になっていた。

というのも、ダルナン商会が絡んだ誘拐、奴隷規制の犯罪事件で、ダルナンを始め多くの幹部を取り締まる事になったのだが、フォレスタール王国としては、ダルナン商会は他国との貿易には欠かせない存在だったのだ。

そこで、この事件を解決に導いた功労者と云うことで、僕がダルナン商会を引取る事になった。

とは言っても、実質の経営に関してはダルナン本人に無償労働という刑罰を受ける事を条件に、そのまま任せ、監視役にブロスフォード家の従者やメイドを送り込んだ。

あと、セルバさんにはメイド達の統括を行ってもらい、商会全体の監視をお願いしている。

それと、魔石の加工精練の責任者として、リデリアにも就いてもらっている。


「おかげで、資金面での問題も無いのだよね」


とはいっても、普通の冒険者として活動するのに、賃金は要りませんというのは、おかしな話なのだろう。


「はい、そうですね。僕の考え方が間違っていました。それではお言葉に甘えて、護衛として契約いたします。条件は、どうしたら良いですか?」

「それが良いよ。それなら条件は、護衛はグロアの街までとして、商隊の安全確保を優先。護衛中に遭遇し討伐した魔獣の買い取りや、盗賊の賞金は、討伐した冒険者が全権利を持つ。といったところか。賃金はグロアまでの距離から、フルエルさん達の3分の1で一人当たり大銀貨7枚といったところでどうだ?」

「え? ええ、その条件で良いですけど、本当に大銀貨7枚も戴けるのですか?」

「少なかったか?」

「いえ、充分です、というより多くありません? 多分グロアまではあと2日もあれば着くと思いますよ?」


そう、大銀貨1枚は僕の感覚だけど、前世でいう1万円くらいのはず。

日本では1日の労働賃金って、契約社員で1万5千円くらいのはず。

一日7万円と考えたら、ちょっと多い気も、でも命を掛ける仕事と考えたら妥当なのか?


「それでも少ないくらいよ。今回は補充要員で、あなた達がまだ新人だと云うことを考慮しての金額だから、そんなものよ。ちゃんと貰っておきなさい」


フルエルさんが、そういうなら問題ないのか。

もう少し僕もこの世界の勉強しなきゃいけないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る