社交界 5
その男性こそ、このフォレスタール王国の国王、ディルエ・ラル・フォレスタール陛下その人だ。
確かに、線の細そうな体つきに猫背気味の姿勢などを見ると、優しさは感じられるけど、威厳と云うか王様らしさが無い、どちらかと云うと普通のおじさんと、いった方がしっくりくる。
「これよりフォレスタール王から神の加護を受けた子等に祝辞を戴きます。」
司会の言葉に続き、王様が壇上に設けられた演説台の前に立ち、皆に祝辞をのべ始められる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長かった。ひたすら長かった。
それは、淡々と国の成り立ちから、先人の功績、これからの国の方針まで、10才の子供に語り掛けるのには、少し? いや聴くには、かなりしんどい話しをされていた。
兎に角、王様の祝辞が終わり祝宴が始まった。
「それでは只今より、王妃様とファルシア姫様が王家を代表して、皆様に直接お話しをされに回られますので暫くの間、そのままでいていただきますようお願い致します。」
「ファルシア姫様、だと?」
「私、初めて見るかも?」
「一体、どうしたことだ?」
「心の中を覗かれたくなんかないわよ!」
ファルシア姫様の名が出たとたんに、会場中がざわめき出した。
そんな中を、王妃様を先頭にして各貴族への挨拶が始まった。
僕はそれを目で追いかける。
貴族の代表が先ず、王妃様に挨拶をし、そのあと王妃様が今回の加護の啓示を受けた子供に声を掛けていた。
その後、ファルシア姫が前に出てその子供に声を掛けようとすると、その子の母親とかが腕を引き、姫様から子供を遠ざけるような動きがよく見れた。
姫様も、それを判っているようでそれ以上何かを言う事は無くお辞儀をするだけで終えていた。
僕は違和感を覚えながら見ていた。
その違和感は直ぐに判る。
姫様の周りに人がいない事を。
王妃様の周りには近衛の騎士が二人左右を固めるように警護し、その後ろにも戦闘メイドが二人追随していた。
だけど、姫様の横には誰もおらず、その後方に一人騎士が護衛についているだけだった。
確かに、姫様の前後に警護する者がいるので問題無いのだろうが、それでも明らかに王妃の護衛達の距離と、姫様との距離は違いすぎた。
あれでは、完全に孤立しているように見える。
「母様、姫様へのあれは配慮なんでしょうか?」
僕は母様に聞いてみた。
「そうね、あれは姫様が自ら望んでの事なのよ。去年までだったらこの祝賀会にも出席することは無かったわ。」
それで、他の貴族達は噂していたのか。
「でもね、今年は出てこられた。それはレン、あなたに会う為なのよ。」
「僕にですか?」
「そう、先にも話したように姫様には友達がいないわ。それは加護のせいでもあるけど、姫様は本当にお優しいかたで、人が争うことに物凄く心を痛めておられるの。そして自分の言葉一つで人が傷つき争いの種になることを悲しんでおられるの。」
「それは解りますが、この間も聞きましたが何故、僕なんです?」
「姫様が自ら御指名されたからよ。」
僕には良く判らなかった。
御指名って、確かに王妃の幼馴染みで元近衛騎士団長であった母、システィーヌの子供と云うことで僕の事を知っていてもおかしくないけど、話したいと思ってくれる根拠が判らない。
「僕と姫様って会った事がありましたですか?」
「そうね、あまり覚えていないでしょうけど、あなたが赤ん坊の頃、良く我が家に遊びに来られていたわ。 まああくまでも王妃様とのお忍び茶会をする時に一緒に連れて来ていたと云うのが正解かしら。」
そうか、僕が赤ん坊の頃なら殆ど面識が無いのと同じだな。
「でもね、何度か我が家に遊びに来るうちに、姫様自ら加護の力の制御の為修業されると言い出してね、ここ2年間ほど、エルフの巫女クウェンディの所に行っておられたのよ。」
「そして今回この祝宴会は、その修業の成果を確認する場でもあるらしいのよ。」
「確認ですか?」
「そう、それもこれもみな、レンちゃんと話がしたいが為らしいから、ちゃんと話してあげなさいよ。もし成果が見られなかったら、一生引き篭るらしいわよ。」
え~、そんな覚悟で来られるなんて、プレッシャーを感じてしまうよ。
まあ、仕方ない。
成るように成れだ。
そんな風に母様と話し合っていたら、王妃様が僕達の方に向かって来るのが視界に入った。
「あなたが、レンティエンス・ブロスフォード君ね。」
優しそうな方だ、これが僕の王妃様の第一印象だった。
金色と云うより白金の輝く様を思い起こさせる長いストレートの髪に、決して太っているわけはないが、少し丸みのある顔と体のラインがとても柔らかそうな雰囲気を作りだし、大きな緑の瞳を持つ、まさに聖女と言って良い女性だった。
歳もさっぱりわかりません。
僕の母様と美しさではこの国の双璧をなすと言っていいかもしれないな。
あ、でも僕としては、カーナの様な可愛らしさの中に緊張感のある顔つきが好きかな? でもリーシェンみたいな優秀な秘書みたいな切れる女性も好みかな?
話はそれたけど、その美しい王妃様が僕にゆっくりと右手の甲を差し出してきた。
僕はそれに応え、膝を付き挨拶の口づけをする。
「レンティエンス君、先ずは無事に神の加護の儀式を終えた事、お祝いしますね。これからこの国の為、力を尽くして下さい。」
「はい!王妃様。」
僕は片膝を付いたまま、さらに頭を垂れ王妃様の言葉を受け入れる。
「それと、この子の事を頼みます。」
王妃は僕にそう言うと、後ろにおられたファルシア姫様を手招きし僕の正面に立たせた。
「初めてお目にかかります。レンティエンス・ブロスフォードと申します。」
僕は頭をもう一度下げ挨拶をするが、特に言葉が返って来なかった。
その状態が暫く続く。
あれ? 聞こえなかったかな?
僕の声が届いていなかったかなと心配になったけど、姫様の許しもなく顔を上げる事も出来なので、そのままの体制で待ち続けた。
「あのう、」
小さくてとても弱々しい声が聞こえた気がした。
「あ、あのう。」
ああ、やっぱり聞こえた。これは姫様だよね?
凄く綺麗な声だけど、今にも消えてしまいそうな力の無い声だった。
「あの、顔をお上げになって下さいますか?」
小さい声だけど今度は精一杯の気持ちを込めた声が聞こえた。
僕は小さく頷き、顔を上げ姫様を初めて真正面から見るた。
「!・・・・・・・・」
あ!? し、しまった! つい見とれてしまった。
さすがフォレスタール王国の至宝と言われるわけだ。
僕より二つ上なので身長も僕より少し高い。まあ僕もそんなに身長高くないから一般の子と比べるても平均くらいなのかな?
その身長と同じくらいの長さを乱れないようにリボンで巻き纏められた金色に輝く美しい髪に、夏の海の様な少し緑がかった青く大きな瞳が映える、端正のとれた顔つきの美少女。
肌も輝いている様に思えるほどの白い。ただぱっと見、温室育ちの箱入り娘かと思いきや、身体のラインは引き締まりそれなりに筋肉も出来ている、けっしてひ弱なイメージはなかった。
ただ、性格なのか、加護の力を忌避する周囲の感情に怯えているのか、少し背が丸くなり、顔を伏し目がちの為、見た目以上に小さくは感じた。
それでも、一生懸命に僕の瞳を見ようと、ちらちらと視線が送られ、若葉色のドレスの前で両の手をクロスに組んで必死に耐えている様は、とても可愛らしかった。
「わ、わた、た、私! フォ!フォレスタール王国、だ、第一王女! ファ!ファりゅしゅあ、と云い、ましゅ!」
噛み噛みの自己紹介だった。
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