加護の儀式 4
「システィーヌ様!」
「な?! お、お前・・いや、あなたは
「あら、レン、もうジルデバル辺境伯と親しくしてもらっているのですか?」
母様、そんな衣装着て僕より目立っていますよ? それに周囲の女性陣から黄色い声援を受けていますけど、あ、手なんか振らないで下さい。
僕の方が恥ずかしいじゃないですか。
「レン、どうしたの? ズボンのボタンを外して?」
「システィーヌ様! 宜しいでしょうか?」
リーシェンが母様に事の詳細を告げるべく近くに寄り、耳打ちし始めた。
「へー、ほー、そうなの? あら、まあ! あ、でもそれはちょっと」
何をどう話しているのか、母様は少し大袈裟に頷いたり、首を横に振ったりしている。
それを少し離れた場所でジルデバル辺境伯と呼ばれた、おっさん貴族がダラダラと脂汗をかきながら立ち尽くしている。
何か物凄く怯えているよねあれ。
「ねえカーナ、ジルデバル辺境伯って大貴族だよね」
「はい、フォレスタール王国の中でも1、2を争う大物ですね。ただあまり良い噂は聞きませんので国民の人気はあまりありませんし、ジルデバルの領民から国が定める以上の税を徴収しているとも言われています。実際始めて見ましたけど、噂にたがわぬ、いけ好かないおじさんでしたね」
なるほど、絵に描いたような悪徳貴族だ。
でもブロスフォード家は子爵だし、相手は大物辺境伯なら立場的にはやっぱり向こうが上のはずだけど。
でも母様を見て怯えている様に見えるんだよね?
僕が不思議に思っているとカーナが気づいてくれたのか説明してくれた。
「我がシスティーヌ様は現在役職はございませんが、元近衛師団長を勤められ、軍事における王国の軍務強化を実践され、他国からも恐れられた英雄でもいらっしゃいます。その為、この国唯一の剣聖の特別称号を王より賜っておられるのです」
「剣聖? 初めて聞いたよそれ?」
「そうですか? まあシスティーヌ様は自分からそう云った事を自慢する方ではありませんからね」
「それで? その剣聖が何か関係あるの?」
「はい、剣聖は国家の安寧と秩序を守る為、国民の生活を守る為に、その力を
え?王の名の元に?
「それって、母様がこいつは国家にとって害を成すものと判断したら、斬っても良いって事?」
「はい」
カーナ、そんな平然と言わないで。それって母様最強って事だよね? だからか、ジルデバル辺境伯が怯えているのか。
「け、剣聖殿! わ、私はその、貴女のお子様だとは、知らずにですな」
「私の子だと、どうなのですか?」
母様はリーシェンから事の次第を聞き、ジルデバル辺境伯に相対していた。
完全に立場が逆転している。
「ジルデバル辺境伯」
「は、はい!」
「これからも、私の最愛の息子にご教授下さいませね」
怯えきった表情に脂汗をダラダラと流すジルデバル辺境伯に対して、母様はにこやかに微笑みながら僕の事を宜しくと挨拶されていた。
あのにこやかな顔が返って不気味に映って辺境伯なんか今にも泣き出しそうだ。
「わ、解り申した! こ、こちらこそ、宜しく頼みます、ぞ。レ、レンティエンス君と言ったかな。う、う、内の、息子、共々、よ、よろしく、頼む、よ」
声も絶え絶えに成りながらも、なんとか言いきって一例すると、そそくさと連れを引き連れ退散して行った。
僕はその後ろ姿を確認してから、母様の方に向き直る。
「母様、ずっと見ていましたでしょ?」
「あら、解っちゃった?」
てへ、なんて舌出して愛嬌出しても駄目です。
「だって、レンちゃんが、ああいう貴族に対してどう対処するか見る必要があったんだもん!」
可愛い子ぶって言っているけどそれは本当の事なんだろうな。
「それで、どうだったんです? 僕は駄目でしたか?」
僕は真剣に母様に聞いてみた。
「そうね、まさか本当に脱ごうとするとは思わなかったけど、それだけの覚悟があってリーシェンやカーナを守ろうとした事は評価出来るわ。さすが私の息子って感じかしら」
取り合え得ず合格点と云ったところなのかな? そう思っておこう。
「レン様、そろそろ加護の儀式が始まる様ですよ」
リーシェンがそっと教えてくれる。
一悶着あって長く感じられて、ようやくって感じだけど、加護の儀式が始まるというので僕達は大聖堂中央の大ホールに向かうことにした。
「・・・・・忌々しい女だ!」
大聖堂の一番端にある人が抱えても腕が回りきれない程の柱の影に、数人のメイド達を盾にするように隠れるジルデバル辺境伯がいた。
「くそ! いつか私の足元に跪かせてやるからな。覚悟しとくんだな、剣聖、男女」
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