騎士(ナイト) 2
それから数日が経過した。
今日は、問題のスバイメル帝国からの使者が来られるという日だった。
その使者の謁見の前に、僕の姫専属近衛騎士への就任の発表がある予定だ。
公の場で各貴族が集まるこの日に紹介されるわけだ。
変に緊張するなあ~。
今、僕は一人で部屋に居て、刻々と迫る騎士就任の公表を前にして少し緊張していた。
母様との稽古でもここまで緊張したことが無かったからちょっと新鮮ではあるけど、あまり経験したくは無いと思えた。
「コン、コン」
部屋の扉をノックする音がした。
「はい、どうぞ」
僕の返事と共に扉が開かれ、一人の男性が入って来た。
「父様?!」
それは僕の父で、王家直属の騎士で近衛師団の団長を勤めるレイナード・ブロスフォードだった。
「レン、やっぱり緊張しとるようだな。ちょっと心配になっての、来てしまったわ」
「王様の元を離れて、宜しいのですか?」
「なあに、心配せんでも、王の所には今、システィーヌが就いておる。わしなんかよりずっと安心だろう?」
「そんな事」
冗談なのか本気なのか計りかねる顔つきで話す父様だったが、それを承知で結婚したんだから、父様は凄いと僕は思っている。
「それより、覚悟はいいな。はっきり言って今回の騎士就任は、各貴族への牽制をあからさまにした王家の反攻だ。もともとファルシア姫の加護の事が無くとも、王の優しすぎる性格と、エレヌス神の加護〈影〉の影響で王家としての発言力が低下した事で貴族達が我が物顔で振る舞うようになってしまったのを制する為のものだ」
そうか、それで王様の印象が薄いのか。
もし王様が密偵や暗殺者とかだったら、凄かったのだろうか?
「そして今回のスバイメル帝国の件だ。レンには申し訳ないが姫を守ってくれ。わしは王家を守る近衛だが、それは単純に攻撃して来る者を排除するにすぎん。だがお前なら、お前の加護とその対応力で悪から王女を守れると信じておる」
父様は真面目な顔で話す。子供の僕としてでは無く、同じ王家を守る男として言ってくれているように思えた。
「父様、あんまり期待し過ぎて僕を緊張させないでくださいね」
あえて僕は、笑顔で答える。
「ふ、覚悟は出来ている様だな?」
父様も笑顔で返してきた。
どうせ、姫を守ると云うことはこの国の馬鹿貴族と正面からぶつかる事になるのは判ってる。
だから僕は気負わず頑張るのみだ!
「レン、姫様の事は好きか?」
お! 唐突だな父様。
「はっきり言ってまだ判らないというのが本当でしょうね。実際まだ会って間が無いのですから」
「正直だな」
「ええ、でもシア姫は僕の心に触れて、そのうえで僕を好きになってくれたんです。それに答えるのはナイトの勤めですよ」
「ナイトとしてだけなのか?」
「多分違うと思います。そしてその気持ちが本物か確認したいです」
「そうか、それなら問題無い。シア姫は良い子だ。お前が一生賭けて守る女性であり、将来この国にとっても必要なお方だ。近衛師団団長のレイナードとしてレンティエンスに姫様の守護を頼む」
「はい! では行って来ます!」
久しぶりの男同士の話ができて、緊張が少し解れて来た僕は父様が見送る中、皆が待つ謁見の場に向かった。
僕は壇上の傍らに、王の言葉を待ってリーシェンとカーナを従え控えていた。
今、この謁見の広間には数十人の王都に滞在している貴族が一同に集まっていた。
これは、長らく公の場に出ていなかった姫が今後公務を行う事を通達する為と、姫自身を貴族に改めて紹介するためだ。
本来なら加護の啓示を受けた時点で執り行うのが普通なのだが、姫のひきこもりなどあり延期されていたのだ。
そのお披露目には貴族以外にも大商人や、国外からも招かれているので200人位はいるだろうか?
東側のガラス板で出来た窓からは青い空と白い雲が流れる快晴の日の光が差し込み、大理石の床や、金銀で彩られた調度品が輝く謁見の間は僕の家の大広間とは比べものにならない大きさと荘厳さがあった。
こんなところでお披露目か。シア姫はともかく僕は耐えられるだろうか?
そんな事を考えていたが、ふとリーシェンとカーナの事が気になったので見てみると、どこか沈んだ顔を二人ともしている様に見えた。
「どうしたの? 二人共。お腹でも痛い?」
「レン様、子供ではないのでそれは無いです」
「ゴメン、ゴメン、で、どうしたの?」
「いえ、別に何でもありませんから」
カーナのそっけない返事にやっぱり何かあるのだろうと考えてみる。
う~ん、二人の嫌な事? 機嫌が悪くなる様な事があったかな?
う~~~~~~~ん、ん? あ! そういえば、僕との婚約の発表は一旦保留という話になった時に凄く悲しそうな顔していたような?
「もしかして、僕と婚約する話が延びたのが原因かな?」
「そ! そんな事ありませんよ」
「そ、そうです! こしてレン様の直属の部下としてずっと一緒に、い、ら、れます、し・・・うっ、ぐす」
あ、カーナ、瞳に涙を溜めて、泣き出しそうになってるよ。
そんなに婚約したかったんだろうか?
「カーナ? 泣くこと無いよ? 別に婚約が無くなったとかじゃなんだよ? それに僕みたいな子供と婚約って言われてもカーナも大変でしょ?」
「そ!そんな事ありません! レン様は私の全てです! この身を全て捧げるとお生まれになったレン様に誓ったんです! 大変なわけがありません!」
カーナが精一杯の小声で力強く語りかけてくる。
謁見の間の袖なので、大きな声を出すと表にいる人に聞こえるので小声で話すカーナはさすがだと思う。
けど、その表情は必死に訴えかけていた。
「リーシェン、カーナがああ言っているけど君もそうなの?」
「・・・・私は、レン様と歳の差が有りすぎて、本当に良いのかと思ったんですけど、凄く嬉しかった事も事実なんです。ですからちょっとそれが延びたくらい、なんだって云うんですか? 我慢できますよ、えー出来ますとも、出来るはずです、出来るかな? うぅううううう・・」
リーシェンの言葉が段々呪文めいてきたような、うっすらと涙目だし。
「ふ、二人とも大丈夫だからね。気をしっかりするのだよ! ね?!」
「それでは、ファルシア姫様の身辺を警護する部隊を新たに新設致しましたのでその隊を紹介致します! 騎士爵レンティエンス・ブロスフォード殿!」
うわー!まずい名を呼ばれてしまった!
二人の事を気にしていたらいつのまにかお披露目の式典が進行して僕の紹介になっていた。
早く出なければ!
僕は慌てて二人を宥め壇上へと上がっていく。
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