帝国の闇 13

「おじ様! もう大丈夫なのですか?!」


その男性はこの前、皇帝の策略で毒殺されそうになった、ルーシーの伯父にあたり、この帝国の将軍職を務める、ロイエンダーク将軍。

ルーシーの母君、レティシア皇妃様のお兄さんだ。


「お加減はいかがですか?」


僕は奥さんのサリアさんの肩に掴まりながら立っている将軍に今の身体の状態を聞く。


「大丈夫ですよ。レンティエンス・ブロスフォード子爵殿。体を動かす事には問題ありません。」

「そうですか。とりあえずこちらの席にお座り下さい」


席を進めると、サリアさんが誘導しながら椅子になんとか腰掛ける将軍。


「おじ様、無理なさらなくても、今はお身体の事だけ考えて下さい」


ルーシーが心配そうに将軍の体を気遣う。


「そうも言っておられんよ。皇帝陛下の暴走を止めないと帝国が、いや世界中が戦争に飲み込まれるのだからな」

「でも、その身体で父皇と立ち向かうのは無謀です。今は私達に任せてお休み下さい」


ルーシーは無理をしようとする伯父を留めようと必死に訴えかける。

けど。


「そえれでは駄目だよ、ルーシー。 将軍には休んでもらっている時間はない。それはルーシーも同じだよ? この帝国を治める者の責任なのだよ。将軍にはその身体でもこの状況を止められなかった責任を取ってもらわなくては困るんだ。帝国の中枢に居る貴族としての責任だよ」


僕がルーシーの言葉を否定したのが信じられなかったのか、驚き次に険しくなるルーシーの顔。


「ど、どうしてですか? おじ様は先日まで毒によって生死を彷徨っておられたのですよ! アクア様のおかげで毒は体から消えたと言っても、まだ体力が戻っておられないのです! だからまだ安静にしていなきゃいけないのに、先輩はそんな事を言うのですか!」


少し眼に涙を浮かべ、僕に怒りの言葉をぶつけてくる。


「そんな風に人を心配出来る事は、皇女とか関係無しに、人としてとても大切なことだよ。でもね・・」

「ルーシー、いや、ルーレシア皇女殿下、レン殿は何も私が憎いから言っておられるのでは無いのだよ」


僕が言葉を続けようとした所を、将軍が口を挟まれてきた。

そうだね。

ここは親族と云うより、帝国を背負う者同士で話してもらった方がいいかな。


「どういう事ですか?」

「レン殿は、私に将軍としての仕事を真っ当してほしいと言っておられるのだよ。今、帝国は皇帝と側妃ゲルフィネスによって暴走し出しているのだ。これを止めるのは他でもない、将軍として、正室サリアの兄として、国の中枢を担う侯爵としての私。そして皇室の者としてルーシー、君の責務でもあるのだよ。」


将軍は一呼吸おかれてから、また話し出した。


「レンティエンス殿に協力してもらうのは有りがたく受けさせてもらうが、直接にこの暴走を止めるのは我々でなければいけないのだよ。でなければ帝国は、他国のレンティエンス殿が救った事になり、ルーレシア皇女、貴女方皇室の威厳を失墜してしまう事になり、もしこの戦争を止められたとしても帝国民への信頼を回復する事が難しいものになってしまう、それをレンティエンス殿は良しと思っていないのだよ。ルーシー、君のためを思っての事なのだよ?」


真剣に話を聞いていたルーシーの顔が、段々顔を赤くして恥ずかしがり始めてきたようだ。


「せんぱい、その、すみません! 理由も聞かずに怒ったりして・・・」


あ~あ、今度は落ち込んじゃったよ。

あれ? シアさん、なんで僕の方を睨むのですか? あれ、リーシェンやカーナ、あ、フル姉まで睨んでくるよ。


「主様、女の子を泣かすのは紳士としてどうかと?」


うわ、アクアにまで怒られた。

はい、反省します。


「ごめん、ルーシー。僕の言い方が悪かったかな? 君を泣かすつもりはなかったのに僕ってやっぱり子供だよね?」

「いえ、私が皇女という立場にありながら身内だけの事を考えてしまったのがいけないのです。それを先輩はちゃんと教えてくれたのに、怒ってしまった私が悪いのです!」


ルーシーの目は僕をちゃんと見てしっかりと応えてくれた。

うん、皇女として判ってくれたみたいだ。


「と言っても僕だって、もし身内の誰かが命の危険にされされるなら何よりも優先して守るけどね」


僕はシアや、カーナ達を見て、そう断言する。


「私も、その身内になれたら・・・」

「ん? ルーシー何か言った?」

「え! いえ何も言っていませんよ!」


今、ルーシー何か言った様な気がしたのだけど?


「ルーレシア様、ちょっと宜しいでしょうか?」

「あれ? シアどうしたの?」

「レン様は、これからの計画をローエンベルク将軍と話を進めて下さいね。私達はちょっとルーレシア様とお話がありますので」

「そ、そう?」

「はい。では皆さん行きますよ」

「え? ええ??」


シアが席を立ち、ルーシーの手を握ると有無を言わさず部屋を出て行く。

それに続く様にリーシェンやカーナとアクアまで部屋を出ていった。

いったい何をしに話に行くのだろう?

僕が頭に?マークをいっぱい出していると、今まで黙って見ていたフル姉が、僕にこっそり話してくれた。


「いい男は、黙って見守ってやるものだよ。後はあの子達がちゃんと結論出してくれるからね」


どいう事? 余計に? マークが増えたじゃないか?

これは考えても答えは出そうにないので、一旦、保留して置く事にした。

そのやり取りを見ていたローエンベルク将軍もなんだか苦笑いしているみたいだけど?


「レンティエンス殿、私共はこれからの事を打ち合わせしましょう。もうあまり時間がありませんぞ」

「そうですね。まずは明日の晩の事が先決ですね」

「細かいところの打ち合わせを終えたら、私も早々に動かなくてはいけないだろうしな」

「はい。それとフル姉の方は大丈夫そう?

「ああ、連中とは話を済ませてあるよ。合図が有り次第動き出してくれるさ」

「うん、ありがとう。じゃあ、細かい打ち合わせをしましょう」

「ああ、」

「はい」


今ここにいる僕と将軍、そして密かに動いてもらっていたフル姉とで、作戦実行に向けての最終打ち合わせを始めた。


さて、ちょっと頑張ってみよう。

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