レンの部屋にて、
王宮での祝賀会の翌朝、レンは自室のベッドの上で目を覚ます。
う~ん、もう朝?
昨日は色々あって大変だったから、今日くらいは普通に過ごすか。
僕は、そう思い日課の朝の鍛練をしようとベッドから下りようとしたのだが、何かに体が引っ掛かっているのか、身動きがとれなかった。
「? 何だ?」
僕は羽毛の布団をはぐりその原因を確認しようとしたが!! 再度布団をかけ直した。
「う~ん、見間違えか?」
今度はゆっくりと布団をはぐる。
う~ん、どう見てもカーナだよな?
いつもと感じが違うので一瞬戸惑いを感じてしまった。
僕の腰に手を回すように寄り添って寝ている白い寝巻き姿のカーナ。
薄での寝間着は身体に比べて大きめのワンピースタイプで、可愛らしい印象だ。
普段の格好良い頼りになる姿とのギャップが何とも言えず良いです。って何考えているんだ僕は!
「カーナ、カーナ、朝だよ」
僕はなるべく優しく揺り動かしながら声を掛けて起こそうとするけど、う~んとか言うだけでなかなか起きてくれないでいると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「コン、コン」
「失礼します。レン様おはようございます」
扉を開けて入ってきたのは、いつも物静かに僕をサポートしてくれるリーシェンだった。
「カーナさん!! 何時まで寝たふりしているのですか! とっと起きなさい!」
いつものリーシェンではありませんでした。
「フ、フ、この私のタヌキ寝入りを見破るとは、さすが先輩」
あ、いつの間にかカーナはベッドから出て横に立っていた。
「当たり前です! そ、それより、その、どうでしたか?」
リーシェンは少し頬を赤らめながら僕から視線を外してカーナに何かを聞きたいようだ。
「フ、フ、フ! それはもう心地好い一時でした。レン様の臭いを一晩中嗅いでいられて最高でした!」
「そ、そうですか。それは良かったですね」
君達、何か会話がおかしいよ?
「まあ、先輩には悪いですけど、私はレン様が小さい時から良く添い寝してさしあげていましたからね。結構手慣れたものなのですよ。でも先輩はこれに一晩耐えられるのか心配ですね」
胸を張って偉そうな態度でリーシェンを見下ろすカーナ。
その態度に鋭い視線を投げるも、言い返さないリーシェンは頬を赤くしているだけで何も反論しないでいた。
ここに来て寝起きから頭が今ひとつ回らなかった僕の頭脳がようやく活動し始めて、ようやくこの状況になっている原因を思い出した。
カーナはいつも僕が寝付くまでの間、添い寝をするのが僕が5才くらいまでの習慣だった。
ただ、それはメイド服を着ていたし、あくまで僕が寝るまでの話だ。
今日みたいに寝間着姿で朝までと云うのは無かった。
母様の一言が原因だった。
「結婚を前提にするんだから一緒に寝るのは当たり前じゃないの?」
などと言い出したのが始まりだった。
「母様、いきなり何を言い出すんです!」
「あら? おかしいかしら? 大体貴族の男子は成人に成る前に、夜の営みを近しいメイドに教わるのが習慣なのだから問題ないわよ?」
いやいやいや! それはこの世界の話で、僕は前世の記憶があるからそんな習慣を言われても、ん? でも前世の時はもう大人だったんだから、問題ないのか?
「いやいやいや! やっぱりおかしいですよ!」
「でもレンちゃん、考えてみて。今の内からレンちゃんと寝る事に慣れていないと、許婚メイド隊としては問題があるのよ。」
「許婚メイド隊って何なんですか!? それに問題って!」
「あるわよ? ハッキリ言えば身分の問題ね。私個人としては問題無いのだけど、このままファルシア姫様との婚約を発表すると、レンちゃん次期国王候補の最有力の人物になるのよ。そんなレンちゃんの側室をメイドからとかなると、貴族等が簡単には納得しないはずなの。メイドが側室に成れるのに何故貴族である私たちの娘が成れない! 等と言い出す訳よ」
確かに、それは考えられる話の様な?
「だから、その前に既成事実を作ってしまえ! と云うことなの。解りましたか?」
「う! う~ん、納得出来ないけど、理屈は確かに。でも僕はまだ10才ですよ? それにその、よ、夜の営みが、まだ出来る訳でも無いのですし・・・」
「ま! レンちゃんったら。 そっちの方も勉強済みな訳ね。ふふ」
物凄く嬉しそうな母様。
それは前世では一応それなりの年齢でしたからね。
「それについては別に本当にする必要は無いわよ。一緒に寝ているというだけで後は言い触らせば良いのよ。お手付きと云うことで既成事実を作っておけば、文句はあっても表立っては言えなくなるからね」
嬉しそうに、話す母様。
「実際、先代の王は側室や妾の中には平民の女の子も居たわけだしね」
まあ、母様が言う事も分からなくも無いけど・・・
「それに一番の問題は、レンとファルシア王女の護衛を、寝所でも出来るのが最大のメリットね!」
「ま、まぁ、リーシェンやカーナがいつも傍にいてくれたら心強いけど・・・はぁ~、分かりました。でも一緒に寝るだけですよ?」
「もちろんよ」
嬉しそうにウィンクする母様。
ちょっとこの状況を楽しんでいる気がする。
息子の大事な出来事を楽しんでどうするんです?
で、まずは、添い寝経験があるカーナが早速一緒に寝る事になったんだよね。
それを聞いてリーシェンは鼻血出して倒れたのだけどね。
「リーシェン? 大丈夫? 無理しなくても良いよ?」
僕は特に深い意味無くリーシェンの良いようにして貰うために言ったつもりだったんだけど。
「・・・・・・!」
え?え!リーシェンが涙目になっている!
「や、やっぱり私では年が離れ過ぎで駄目ですか?」
いつも物静かに仕事をきっちりとこなす、出来る女史といったイメージしか無いリーシェンが涙を溜めながら上目遣いで僕を見る仕草がとても女の子していて可愛らしくて、ドキッ!としてしまった。
そんなリーシェンを僕は無意識に抱き締めてしまっていた。
抱き締めているといっても、身長差がかなりあって、僕がリーシェンのお腹辺りに顔を埋めているといった形なのであまり格好良くないけど、こんなリーシェン見たらつい抱き締めたくなってしまった。
前世の僕からは想像もつかない対応だよな。
これが神対応の力の一旦なのか?
「ごめん、リーシェン。僕の言葉が足らなかったね。僕はリーシェンが嫌がる事はしたくなかっただけなんだ。君が望む事なら僕はいつでも聞くよ?ただ僕の言葉が間違っているなら、ちゃんと注意はしてほしいかな? それができるのはリーシェンだけだからね。」
自分でもよくこんな事言って平気だなと思うけど、つい言ってしまった。
そんな言葉を聞いたリーシェンは、膝を付き僕と同じ目線になると今度はリーシェンが僕に抱き着いて来た。
「レン様、有り難うございます。ふつつか者ですがよろしくお願いします」
丁寧に感情を込めたその言葉を聞いて、男として彼女を幸せにしなくてはと責任感を感じた。
そんな僕たちの横で、カーナがギャアギャア騒いでる。
やれ、ギャップ萌えだの年増の陰謀だのと言っているけど、真剣に怒って無いことくらい分かるからね。
なので、僕は騒いでいるカーナも抱きしめて上げたら、一瞬で人には見せられない程のにやけた顔をなっていた。
冷静に考えると、物凄く恥ずかしい事しているよなぁ僕って。
前世なら絶対してない、というより出来ないよな。
これも神対応の成せる技なのか?
「はい、はい! 三人で朝から良い雰囲気を作るのは結構だけど、さっさと朝の支度をしなさい!」
いつの間にか母様が僕の部屋に入ってきていた。
カーナもリーシェンも母様の侵入に気付いていなかったので、慌てて部屋から出ていってしまった。
僕の着替え終わって無いよ、リーシェン、カーナ。
僕はそれから朝の支度を終え、食堂で母様と朝食をいただいていた。
もちろん、僕の横にはカーナとリーシェンが立っている。
最初は一緒に食べようと言ったんだけど、流石にまだ遠慮された。
近いうちにそれは実現しよう。
因みに父様は王宮に詰めておられて今日も不在だ。
「さて、レン」
「はい、母様」
「今日これから、王宮に行ってもらいます」
「はい。それで用向きは?」
「貴方を姫様の婚約者として他の貴族に認めさせる為の計画を進める為です」
思ったより真剣な顔で母様が話してくる。
大方の事は聞いていたけど、昨日今日で動く予定では無かったはずなのに?
「何かありましたか? 予定より少し早いようですが」
「どうも、姫様に縁談話を持って来るという話が持ち上がっているの」
「え?」
またいきなりな話だ。
今まで、シアの悪い方の噂を流しつづけ印象操作で王族を陥れようとし続けてきた貴族だったはずなのに。
それがいきなり、縁談話とはね。
「母様、その縁談の相手と云うのは?」
「それがね、スバイメル帝国らしいのよね。しかも、アヒム・スバイメルだというのよね。」
「え? それってスバイメル帝国の皇子じゃないですか」
「そうなのよね。えらく大物が出て来たのよ。姫様の噂は各国にも伝わっているはずだから、滅多な事では縁談なんて持ち掛ける国なんて無いはずなのに」
母様は少し困った風に首を傾げているけど、その表情は平然としている。
おおよその見当はついているということかな?
「母様は今回の縁談の裏事情をある程度推察されているのですか?」
「あら? 分かるの? 自分の息子ながら凄いわね」
「それでも相手の出方を見てみないと対応出来ませんね。特に相手がスバイメル帝国の第二皇子ともなると下手な事は出来ません」
「そう、そこでレンには少し早いけど、姫様付きの護衛騎士に就いてもらうわよ」
ニコニコしながら話す母様。
この状況も楽しんでいるみたいだ。
母様を敵にまわす人をちょっと同情してしまうよ。
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