旅への準備 2

「レン様、それではギルドへ冒険者認証を取りに行きましょうか?」


シアがニコニコしている。

何がそんなに嬉しいのか良く解らないけど、まあ機嫌が良いに越した事はない。


「それじゃあ、行こうかシア」

「はい、レン様!」


僕達は、僕の家、ブロスフォードの邸宅から歩いて冒険者ギルド本部へと向かう。

今、王城にはカーナが母様と登城している。

これはシアが城を空ける事になるので、その対策の為の準備をしているようだ。

例えば影武者とかを用意するらしい。

それは僕ら三人の影武者もらしい。

ただ、これはあくまでも念の為で、実際はファルシア姫がまた引きこもってしまったと云うことにするので、特に必要は無いのだが、やはりその人の様な影が在るのと無いのとでは、カモフラージュのし易さが全然違うらしい。

そこで、影武者としての人選の為に母様とカーナが城に登城しているという訳だ。

シアの影武者は元々いるけど僕らの影武者となると母様の眼鏡に叶う者でないとね、という事らしい。

リーシェンは、僕等に先行してギルドに行って手続きとかを事前にしてもらっている。

ギルドに着いてからだと、時間をかけると要らぬ問題が色々起こりそうだったから、なるべく早く済ませたいという事からだ。

なにせ証明書の発行は等の本人に直接手渡しが原則だからだ。

と、云うことで、今、僕はシアと二人でギルドに向かっている訳だ。


「ウフフフフフ」

「楽しそうだね、シア?」

「え? えへへ、そうですか?」

「うん、違うの?」

「楽しいですよ。まさかレン様とこうして街中を二人で出歩けるなんて、思ってもみなかったですからね」


満面の笑顔のシアを見ていると僕もうれしくなる。

多分、街を歩くなんて事はシアにとって夢でしかなかった事なんだろうと思う。

いくら結界魔道具を使っても、シアの加護の力を完全に防ぐ事は出来ないんだけど、どうも僕の近くにいると、僕の加護、神対応がシアの加護の制御を肩代わりするみたいだ。

そう思うと神対応って色々な人の加護をもしかしたら制御してしまう事が出来るのかもしれない。

それって反則技?じゃないだろうか?

まあ、今はシアが喜んでいるから、その事はまた後で考えよう。


「レン様、あれは何ですか?」


僕のすぐ後ろを歩くシアの言葉に僕は振り返ると、色々な店が並ぶ中の一つを指差していた。

その店は、王都でも珍しい大きなガラスで店内を見せているちょっと高級そうな感じだった。

あれだけ大きなガラスは、ブロスフォード家の邸宅でも無いほどで、それだけでこのお店が、庶民的な店で無いことが判った。

そしてそのガラス越しには、白い光沢のある布が掛けられ、その上に綺麗に並べられた、色とりどりの宝石が、人の目に止まるように配列されていた。


「レン様、綺麗ですね。あれは宝石店でしょうか?」

「多分そうだね。ただ宝石店なんて入った事が無いからどんな感じかはよく解らないけどね」


まあ、子爵家の子がホイホイ街中に出て買い物なんて普通は無いんだろうけど、その辺はブロスフォード家は寛容というかルーズと云うか、僕はたまに買い物とかを街中でしているので、シアよりは判っていると思う。

但し、あまり高級そうな店は入った事は無い。


「ちょっと、見ても良いですか?」

「うん、良いよ。今行ってもまだリーシェンも手続き終わってないと思うしね」


僕は二つ返事で了解すると、ありがとうございますと言ってシアが店の方へと歩き出した。

僕はシアと同じように店に向かい、入口の前までくると、先に店の扉を開けてあげる。

シアはその動作が当たり前のように扉の前で佇んで待っていて、僕が扉を開けると極く自然に店の中へと入っていった。

まてよ?貴族として淑女への対応は間違ってないけど、これから冒険者として王都を離れるなら、この対応では駄目かもしれない。

今度からはシアにも自分で扉を開けるように言っといた方が良いかもしれない?

そんな風に思いながら僕達は店の中へと入っていった。


「いらっしゃいませ」


店内に入ると、その豪華さに目を奪われる。

床一面を赤い絨毯が敷かれており、ブロスフォード家の部屋の天井よりも1.5倍の高さはありそうな天井には、どれくらいの数のクリスタルで意匠されているのか解らないほどの豪奢なシャンデリアがまだ午前中だというのに、店内に陳列されている多くの宝石をキラビヤカに見せる為に光り輝いていた。

これ、魔法灯だな?

いったいどれだけの費用が掛かってるんだ?

こういった如何にも高級店は前世でも今世でも良心的な価格の宝石なんて絶対に無いような気がする。


店内に入り最初に挨拶をしてくれた店員は、僕達の姿を見ると少し眉尻が上げ、笑顔の口の端が下がったように思えた。

ああ、これは駄目な気がする。

そんな店員の態度に気付かなかったのかシアは微笑みを絶やさず、店員の前へと進んでいった。


「少し見させてもらってもいいでしょうか?」


シアの丁寧な言葉に、店員は少し考えたそぶりをしてから、小さく頷き、どうぞと奥の方へと手を指し示した。


「シア、良いの? なんか感じが良いとは言えないよ?」


僕がシアの耳元で店員に聞こえない程の小さな声で尋ねると、僕の方を笑顔で振り返り頷いていた。

まあ、シアが良いなら僕は構わないけど、一応注意しておくか。


「レン様、これ見てください。とても綺麗ですよ」


シアは店の右端の小さなショーケースの中にある、この店の中ではあまり意匠にこだわらない宝石が並べられている方の前で目を輝せ、見つめていた。


「あの店の真ん中にある、ネックレスや指輪よりは質素だけど、作りが丁寧な感じだね」


僕がショーケースを覗き込むシアの横で同じように見ながら感想を言うと、僕の方を見つめてニッコリと微笑み掛けてくれる。


「えへへ、やっぱりレン様もそう思います? それにこの宝石に使われている魔石の純度結構良いものだと思います」


シアの言葉に僕もその魔石を良く見ると、その透明度とか魔力の保持状態がとても良いものの様に見えた。


「そうだね。これ職人の腕が相当良いんだろうね」

「はい、私もそう思います」


僕達がそんな会話をしていると、後ろの方に先ほどの店員が近づいてくるのが判った。


「どうです? その指輪の3点ですがあまり品質が良いものでは無いので売れ残った品なんですよ。宜しかったらどうです?あなた達見たいな冒険者の掛けだしにはそれでも高価でしょうけど、買ってもらえるなら若干値引き致しますよ?」


僕とシアはお互いを顔を見合わせる。


「これで品質が悪いのですか?」


シアが店員に尋ねると、小馬鹿にしたように口の端を上げ、やれやれといった感じの店員が説明しだす。


「まあ、素人にはわからないでしょうが、この魔石、普通より小さいのですよ。これだとそれほどの魔素を保持していないでしょうし、それにこんな見栄えの悪い物、この店で出すような代物でもないんですが色々ありまして、仕方なく売ってるしだいなので」


両肩を竦めやれやれといった感じで話す店員に僕達は不思議に思う。

これがそんなに品質が良くないと言うのか?

確かに小さいけど、中の魔素保有は相当凄そうなんだけどな?


「そうですね、買っていただければ、3点で12万エルンのところを9万エルンで良いですよ。それぐらいがあなた達でも買えるギリギリの線ですかね?」


ん~、何かこの店員、言葉の端々に嫌味を感じるのは僕達が冒険者だと思っての事なんだろうか?

確かに、貴族とか王族とか判らないように服装も普通の冒険者っぽくはしてるけど、そこまで対応が違うものなのか?

そういえば、店の奥の方のショーケースを眺めてる如何にも貴族の御婦人といったおばさんには、店員が3名着いていてあれやこれやと次々に宝石を進めてるのが見えるが、どの店員も満面の笑顔とこれでもかって云う丁寧な言葉使いで対応している。

見た目で客を選んでるんだろうな。

まさか、この女の子がファルシア姫だなんて夢にも思わないんだろうけど、これ程差があるのもどうかと思うんだけどね。

ただ、売る気がない訳じゃなさそうだし、それにこの魔石を使った宝石、値段以上に価値があると思うんだよね。

そこでちょっと店員に聞いてみることした。

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