エルフの里へ 13

薄暗い、とても嫌な臭いが漂う部屋に、私達は連れて来られていた。

ここに来るまで私は目隠しをされていたので、ここが何処なのか全く検討が付かないけど、時間から考えてもレンダールの街から出た訳ではないと思う。


「さて、ここなら君達がどれだけ騒ごうが気付く者は誰もいないから安心してくれ」


周囲を見渡すと、床も壁も石で作られた部屋で窓等は一切無いようだ。

ただ所々に換気用の穴が天井付近に設けられているけど、ネズミが入れる程度の大きさしかない。

唯一の入り口は厚い鉄で囲われた扉で塞がれ、抜け出す事は出来そうにもない。

しかし、何が安心してくれだ。

自分が優位に立つと傲慢さが増す奴がいるけどこいつはその典型だね。


「先ずは自己紹介をしておこうか。私はスバイメル帝国辺境調査団のレダスだ。簡単に言えば密偵だな。」


笑みを浮かべながら私と対峙し椅子に座るレダスと名乗る男。

そのレダスの視線の先に、私は鉄の首輪と足枷が壁と鎖で繋がれ身動きが出来ない状態で立たされている。

例のエルフの少女は、男の直ぐ横に立たされ俯いている。

良く見ると、あの首輪、革製だが紋章が刻まれている。

あれは、犯罪者用の強力な奴隷の首輪だ。


「なんて物を彼女にしているの」

「ん? ああ、この首輪か? これは私が買った奴隷で最初から付いていたぞ? しかし泥棒猫を捕まえるのに、高い買い物しちまったからな、まあおかげでこうやって捕まえる事が出来て、俺の待遇良くなるかもな?」


嬉しそうに話すレダス。

その笑顔ははっきり言って見たくないけど視線を外すと負けた気がするから。


「さて、そろそろ君の名前を教えてもらえるかな?」


そう言いながらレダスは少女の首筋に短剣を押し当てる。

ゲスなやり方に怒りが込み上げるが今はどうにもならない。


「話すから止めろ! 私はフルエルと言う冒険者だ」

「フルエル? はてどこかで聞いた事があるような・・・ああ! そうか、風使いのフルエルか! どうりで捕まえるのに苦労する訳だ」


レダスは、私の事を知っているようだ。

確かに、一応私も二つ名持ちの冒険者で、自慢ではないけど、そこそこには有名みたいだ。


「すると、お前はエルフの里の出身だな? しかも神官の妹、これは良い!」


一層高笑いをするレダス。

嫌な笑い方だ。

それにこいつ私の事を良く知っている。

その名の通り辺境周辺の調査を結構しているかもしれない。


「一つ聞いて言いい?」

「あ? まあ今は機嫌が良いから答えてやってもいいぞ?」


一つ一つ気に食わないが、少しでも時間を稼ぎ情報を聞き出してやる。


「何故、私が機密を持っていると判ったの?」


少し驚いた顔をしたが直ぐにまた嫌らしく笑う顔に戻る。


「まあ、知ってもどうにもならんが教えてやるよ。まあ犯人がエルフだって言うのは、帝都政府から持ち出された時点で映像記録魔装具で判っていたからな、後は国境や、帝国に敵対している諸国への街道に我々みたいな密偵を送り込んで見張っていたのさ。で、エルフを見かけたら片っ端から接触して、機密情報を書き込んである魔石に反応するか確認していたんだよ。ただこの反応はごく近くにないと反応しないんでな、片っ端から当たる必要があったんだ。苦労したぜ?」


そう言って、ポケットからペンダントになっている小さいけど、光っている白い魔石を取りだし私に見せ付けた。


「これは念のために持ち出された時の追跡用の魔導具なんだよ。」


そういう事か、でも?


「あんた、今、片っ端からって言っていたよね?」

「ああ? そうだぜ。片っ端から確認して、捕まえてやったよ。ま、死んでる奴はまだいないと思うぜ。俺達だけじゃないがたいてい同じ事しているはずだしな。今頃は結構みんな楽しんでんじゃないか? ヒャハハハ!!」


最低の野郎だ! あまりの怒りにどうにかなりそうだったけど、あの子もいるしこんな状況じゃどうする事も出来ない! どうすれば良いのよ!

私が心の中で葛藤していると、あいつがその追跡用の魔導具を手に垂らし私に近づいて来た。


「ふむ、反応からすると、機密の魔石はお前の胸ん中か?」


そう言ったが早いか、レダスは躊躇する事無く胸もとのシャツの襟を掴み思いっきり引き破った。


「!!?」

「はは、あった、あった。お? 大きくないけど可愛いのが二つこっちにもありやがるな」


私の服を破き現わになった胸を凝視して舌なめずりされる。

こんな奴に見られるくらいならまだ、ライアスに覗かれてる方が数万倍マシな気がする。

奴の顔がどんどん私の胸に近づいてくる、くっそ! 


「来るな! 変な事するなら!」

「するならどうなんだよ? あのエルフのガキがどうなるか? 忘れるなよ?」


くっ! もう駄目! 神様いるのなら助けてよ!! 後で覚えときなさいよ! 絶対に神界に行って化けて出てやるからな!


ドン! ドン!


私が神様に罵声を浴びせて諦めかけた時、後ろの扉を叩く大きな音がした。


「けっ! 何だってんだ!? これから楽しもうと思ってたのによ!!」


一気に不機嫌になったレダスは、扉の方にズカズカとわざと足音を大きくたて歩き、目の前に佇んでいたエルフの少女の肩にわざと当たった。

少女はよろめき床に倒れたが、それを気もしていないようだ。


「大丈夫?」


私が声をかけると、顔を上げて、少し悲しそうに微笑んだように見えた。

今まで無表情だった彼女のほんの少しの表情の変化だったが、まだ彼女は正気を保っているんだとわかる。

なんとかして助けてあげたい。

今はそれだけが願いなんだ。神様さっきの暴言は謝るからこの女の子だけでも助けてあげて!


ガチャ


「なんだ! このくそ忙しい時に!」

「仕方ないだろ! ここの旦那から緊急の連絡が入った。ここの屋敷に王国から監査師団が向かったらしい。」

「は? 何故だ? 何かしくじったのか?」

「わからん。念のため、ここを、離れる準備をする。レダスも手伝え!」

「何訳の判らん事を! これから楽しもうと思っていたんだぜ?!」

「そんなの、場所を移ってからいくらでもしやがれ! いつここに監査師団が入って来るか判らんのだぞ!?」

「は! 王都からここまでいくら距離があるってんだ! まだ大丈夫だ?」

「この連絡は監査師団が出発した後に早馬で街道を迂回して来たんだ。もう近くまで来てる可能性が高いんだよ!」

「げ! マジか? チッ! 仕方ねえ。おいフルエルその格好のまんま待ってろよ!」


バタン! ガチャ!


「あ! 鍵掛けやがったか。それほど間抜けでもなかったか」


今の騒動で鍵でも掛け忘れてくれれば、この子だけでも逃げられたかもしれなかったのに。

私はうなだれ、自分の足元に視線を送った。


「あ? あなた?」


その視線の先に、私の足元に小さなエルフの女の子がしがみついて来ていた。


「お姉ちゃん、ごめん、な、さい。わたし、の、せいで」


表情は相変わらず無かった。

けど、大きな瞳に私を写し、じっと見てくるその顔を見て私は自分が情けなく思えた。

こんな小さな子に謝らすなんて!


「ごめん! 私の方こそ。あなたを守れる力が無くて! でも諦めない! 必ず此処から脱出しよう!」

「わたしも?」

「当たり前よ! あなたを置いていったら里のルル婆にどやされるもの!」


私は精一杯強がって見せる。

でも。どうしたら・・・・


「あああ! もう!! 誰か良い方法教えてよ!!」

「うん、良いよ?」

「・・・・・・・・・・へ?」

「だから、教えてあげるよ? あ! でもその前に遅くなってごめん。フル姉」


私の目の前に、レンちゃんが立っていた。


「ええええええ!!??」

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