母の願い 2
「何ですか?その人嫌いの男嫌いというのは?」
「そう急かさないの。これからちゃんと話すから聞いてね、レン」
「は、はい」
「例えばレンは、貴族や王族が集まる社交界ってどんなイメージだと思う?」
10歳の子供に問う内容なのか? と思いつつも、記憶は21歳の成人なので答えられるはず 。
・・・と思っていたが、よくよく考えてみたら貴族なんて前世で接点があるはずもなく判るわけが無かった。とりあえず、前世の記憶にある映画や小説を思い出して話して見ることにしよう。
「えーとそうですね、華やか、優雅、洗練、知的・・・・牽制、謀略、裏社会、賄賂、政略、結婚相談所、みたいな?」
「あー! もういい! もういいわよ! ・・・・良く知ってるわね。そんな言葉?」
少し呆れ気味な笑みの母様。ちょっと言い過ぎたかな?
「ま、まあ良いわ。とにかくそう言うことね。それで続けるけど、社交界はレンの言う通り人の欲望が渦巻くどす黒い世界なのよ。」
「あーなるほど、王女様はそんな欲望むき出しの貴族が嫌いだということでしょうか?」
母の言葉にレンは王女の貴族嫌いの原因を言い当ててみたつもりだった。
けれど母様は僕の答えに小さく首を横に振って否定した。
「近いけどそれだけじゃないの。レンも今度、加護の啓示を受けるけど、王女様も2年前に同じように加護の啓示を受けられていてね・・」
母様は小さく溜め息をつき一時の間を取り、また話し出す。
「王女様の神様は、心意の神エリオン様と、優愛の神フォルセ様、だったの。」
母様から聞いた言葉に驚く。
加護を与えた神が2柱。複数神を頂くのは稀な存在だからだ。
さっきも話したけど、目の前にいる母様も複数持ちだから、居ない訳じゃないけど、珍しい事には変わりないのだ。
そして例外なく、複数持ちは神に愛されているが為に、より強力な力をその身に持つことになる。
「2柱神ですか、凄いですね母様。」
「確かにね。でも、問題はそこじゃないのよ」
システィーヌは溜め息混じりに呟く。
? そんなに問題のある神様なのだろうか?不思議そうに考え込んでいる僕に母様が答えてくれた。
「まず、神の加護、と言うものがどういったものかはレンなら判るわよね?」
何か授業を受けているようだなと、思いながら大きく頷く。
「神の加護とは、与えられた人の根幹の才能を表しているもの、だったですか?」
「そう! 良く勉強しているわね。レン」
嬉しそうに僕の頭を撫でてくる母様。
「つまり、その人の才能、力っていうことだね。ここでまた質問です。心意と優愛の神様とは、どういった神様だと思いますか?」
完全に先生気分で話す母様。
僕もその乗りに合わせて、首を小さく傾げ、少し考えた素振りを見せるようにする。
「心意は心の目? 人に限らず、本心を見ることが出来るとか? 優愛はその言葉通りで、人を等しく愛せる力? もしくは平和の象徴?」
「す、すごいわね、レン」
『何処で覚えてくるのかしら? 家庭教師? そんな事まで教える? 独学? つまり天才って事よね? さすが私の天使だわ』
何だか変な笑顔で僕を見つめる母様。
変な回答だっただろうか? でも、ウンウン頷いているから問題無さそうかな?
「レンの言う通りよ。つまり王女様は、そのお優しい心の持ち主は、悪意、自己欲の塊みたいな貴族の心の奥底を見る事になるのよ」
なんとなく分かった。
人の本性なんて大きく分ければ善か悪であって、どちらにより近いかで悪党か善人かに別れると僕は思っている。
善も悪も人の欲望という行動が生み出す。悲しんでいる人を助けたい、困っている人がいたら助けたい、これも欲望の他でも無い。
金持ちになりたい、出世したいも欲望。
つまりどんな人間でも行動すること自体が欲望であって、それ自体が悪い事ではないが、その欲望を達成するためにどういった行動をとるかで善悪に別れる。
で、貴族というのはその欲望の塊みたいな人種であって、達成する為には手段を選ばない、どす黒い欲望を内に秘めた社会、それが貴族社会のはずだ。
大半は前世で読んだ小説や漫画に影響はされているのだが、あながち間違っても無いだろうと思っている。
そして、そんな中に王女様が居なければいけないのだとしたら、
「王女様は、常に貴族の欲望を感じているのですか?」
システィーヌは寂しそうな首を縦に小さく降る。
自分はまだ貴族社会に出ていないから判らないが、先ほど自分が言った貴族のイメージがそのままなら、当時10歳の女の子が受けるものとしては過酷、過ぎではないか? それに、神様の加護は10歳で分かるだけで、生まれもって授かっている場合もある。
それを想像すると、僕は物凄く悲しい気持ちになった。
「そういう事情からファルシア様は貴族の人と関わり合うの極端に嫌うようになってね、特に男性貴族は見ただけで逃げ出す様になったのよ」
「どうして特に男性なんですか?」
「それは、ほら姫様ってフォレスタール王国の至宝とまで言われる美しい方だから、男共がいやらしい想像しながら迫って来るからね」
なるほど、それは気持ち悪いだろうな。
下手すれば、自分の裸とか想像しながら来るおじさん貴族もいるだろうから、そんなもの見せられて嫌悪感を持たない方が難しいか。
「それでレンには王女様の友達になってもらいたいの。」
別に友達になるのは良いのだけど、それが、どうして僕なのかが判らない。
「お母様、王女様の友達になるのは良いのですが、何故僕なんですか?」
「うーん、私の子供だから、かな?」
「はあー・・」
「あーつまりね、私は王妃様と幼馴染みで、王家に嫁がれてからも近衛隊として側に居たからね。ファルシア様が生まれてからも結構身近に居たのよ。だからかな? 王女様にとって私は家族以外で唯一安心できる存在らしいの。で、その息子なら大丈夫じゃないかなあって、感じ?」
物凄く軽い感じで言ってのけるお母さま。
「それにもし、レンがファルシア様に不義を働くなら私が絶対に許さないと言ってあるから」
か、母様、顔が真面目に怖いです。
レンなら大丈夫よね?と聞いてくる
僕は、大きく首を振って肯定した。
「友達になれるかは判りませんよ? 僕も一応男ですから。努力はしてみますけどね」
僕の返事に安堵する母様だった。
「私は、自分の息子の事を信じているし、それにどこから見ても天使の様な可愛い女の子に見えるレンなら、王女様も取っ掛かり易いと思うのよね。それに王女様の御指名でもあるからね、上手くエスコートしてあげてね」
満面の笑みでウインクしてくる母システィーヌに,我が母ながら軽いなーと思う。
ん? ご指名?
「母様、ご指名って言われましたけど、王女様は僕の事ご存じなのですか?」
「ええ、知ってるわよ? レンがまだ小さかった頃は、時々家にも遊びに来てらっしゃったからね」
そうなんだ。記憶には無いから本当に小さい頃なのかな? そう言えば赤ん坊の時一度だけ、前世の俺の意識が覚醒した時があった様な?
「あの頃から、人見知りだった王女様が唯一、遊んだ男の子がレンだったのよね。まあ幼子に人見知りもないのだろうけど。それもあっての御指名なのよ」
なるほど。ちょっとでも面識があったのなら、少しは気が楽ということか?
そんな風に思いながら、僕は2歳年上のファルティア王女様の事を考えてみた。前世の記憶だと僕は孤児で、ずっと施設で暮らしていて、それぐらいの子の面倒を良く見ていた。
入りたての子なんかは施設に馴染めなかったし、施設に来る事になった時点で何かしら家庭の事情が多かれ少なかれあるもので、色々悩みを抱え込んでいたりするものなのだ。
そういう子等をよく見てきたから王女様の気持ちは判るつもりなんだが・・・相手が神様の加護だからなぁ、どれほどの深い闇をお持ちなのだろうか?
「まあ、悩みの規模の次元がちょっとちがうかな?」
とにかく、一人の女の子のこれからの事も考えれば少しでも力になれればと誓うのだった。
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