旅の前に 5

池の畔に建つこの屋敷は、別荘用に建てられ来客なども考えられて幾つかの部屋とか、大きな食堂、浴場も10人くらいが一度に入っても十分に広い作りになっていた。

今はこの屋敷を数人の男女が分かれて清掃等を行っている。

その使用人と同じメイド服を着た一人の女性は、特に清掃する訳ではなくただ、屋敷の中を何かを探すように歩いていた。


「魔力探知では、使用人以外に反応が13人か、うちこの4人の動き方から、この屋敷専属の使用人かな?」


眉間に皺を寄せ、考え込んでいるのはカーナだった。


「リーシェン先輩の情報から、今回のイベントが判ったからここに潜り込んでみたけど、捕まっている娘の数が合わないな?」


カーナはリーシェンの情報から、今回奴隷として捕まっている娘が10人である事を確認していたが、今カーナの探査魔法に反応する人数が合わない事を考えていた。


「多分この9人は元々捕まっている娘で、リデリアと言う娘が居ないのか? でも・・」


カーナは考えながら、探査の魔力濃度を上げて行く。

慎重に魔力を制御し探査濃度を上げると、屋敷内でも地下になる部分いくつかの区画に分かれている所の一角だけ魔力が通らない場所をカーナは発見した。


「ここかな、?」


一瞬考えたカーナだったが、方向を再度確認すると、少し身体が沈んだ様に見えた。


フッ!


風の音がしたと思った瞬間カーナの身体が今居た場所から忽然と消えていた。



カチャ、カチャ


金属が重なり合う音が、光の入らない石作りの部屋にこだまする。

蝋燭の光が微かに照らすその下に金属の手枷、足枷を鎖で壁と繋ぎとめられた一人の少女が力無く顔を俯かせていた。

少女は、もうあまり思考が回らなくなった頭で、何度も何度も繰り返し同じ事を思い出し悔やむのを繰り返していた。


「どうして私は奴隷になんかになってしまったの?」


この疑問を何度考えても、答えは変わらなかった。


「私が子供だったからよ。」


そう、彼女は自分の浅はかさを悔やんでいた。

世間知らずの自分が甘い言葉に乗せられてしまったのが現状の結果だと。

もっと慎重に考えるべきだった。あの時人の忠告を素直に聞いていれば良かった。自分の力を技術を自慢し過ぎた。と。


幾度目かの後悔の記憶が頭を過ぎり始めた。

自分が奴隷になる事を告げられたあの日を。


「どうしてです!! 何故私が奴隷になんかにならないと、いけないのですか!!!」

「そんなの簡単な事ですよ。この契約書にそう書かれているからに決まっているでしょ?」


ダルナン商会の会長、ダルナン本人が言い聞かす。


「この契約書の中身を良く見ましたよね? それでサインされたはずではないのですか?」


判っていてわざとに、馬鹿にした口調で問いただすと、リデリアは何も言えず黙るしかなかった。

それでも自分が奴隷になるなんて到底受け入れる事など出来ようもなく、反論するしかないリデリアだった。


「そんなの確認しようがしまいが、常識的に考えておかしいじゃない! どこの世界に、たった3ヶ月で投資金額の半分の返却の義務なんて喚く商人が居るって言うのよ!」


「ですから契約書の内容を良くお読み下さいと、言ったではありませんか。ほらここに契約条件が書かれてありますでしょ?」


そう言ってダルナンは数枚の紙を懐から取りだし、彼女の顔の前でちらつかせる。

二日前、自分が加工した魔宝石が全く売れず、投資してもらった金の返済がこの3ヶ月全く出来ていない事を告げられ、契約違反として奴隷にさせられてしまったのだ。

確かに、その時見せてもらった契約書の中には、奴隷の項目があった。

自分の目を疑った。

まさか、そんな契約内容になっているなんて夢にも思わず、細かい部分に目を通していなかった事を後悔して自分を恨んだ。

後悔と反省が次々と浮かんで来る。けれど今の自分にはどうすることも出来なかった。

このまま奴隷として売られて行くのを待つしかない。

ただ、一縷の望みに、あの魔石を使った魔宝石を誰かが買ってくれ、その中身に写した伝言を知る人が現れることを期待するしかなかった。


「そういう事です。自分のふまじめさを呪うことです。ただ、良い方に巡り会えば今より良い生活もあるかもしれませんから、それ程悪い事でもないですよ?」


ダルナンの厭味な笑顔を憎らしく思うリデリアだった。


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