帝国へ 1
それから僕たちの旅は順調に進んで、フォレスタール王国の国境を無事に越え、今はグローデン王国内を進み国境近くの街、クロアまであと半日程の所にいた。
「レン様、もうすぐグローデン王国の国境の街クロアですね」
「そうだね」
「その後は予定通り、街について装備を整えた後、エルフの里へと向かうと云うことで宜しいでしょうか?」
リーシェンが今後の予定を商隊の護衛として先頭の馬車の横を歩いている僕に話しかけてきた。
「それなんだけどね、当初の目的はシアの加護の力の制御や戦闘能力の向上の為に、ルル師匠やクウェンディ様に再度の修業お願いする予定だったんだけどね」
僕がそこで難しい顔をしたので、リーシェンはなるほどと頷いて先頭の馬車の上で監視をしているシアの方を向いた。
「何故なんだろうね? シアの加護の力の制御力が著しく向上してるんだよね?」
「はい、シア様ご本人も言っておられました。魔装具無しでも思念の流入はほぼ無いそうです。しかも強弱や範囲の調整も可能らしく、著しく急激な成長をされておられますし、昨日も私、相手に加護の力の制御の練習をしていただいておりますが、完璧に制御されておられました」
昨日? ああ、野営地でリーシェン相手に何かしていると思ったけど練習していたんだ?
「そうだね、でもその後シアが顔を赤くしてたような?」
僕が昨日の事を思い出し、話をするとリーシェンの表情が一瞬にして変わった。
「な!! 何でも!ありません!! 私がレン様にあんな事や、こんな事をしていただいている事を想像しているなんて、してませんから!!」
リーシェン、自分で暴露しないの。僕まで恥ずかしくなるからね?
普段は、冷静なんだけどな。
僕の事となると時々慌てるというか、子供っぽくなるというか、まあ可愛らしいから良いけどね。
それより、シアの能力はやっぱり上がっているようだ。
それにシアだけじゃ無くて、カーナやリーシェンも何か体の中の魔力循環が凄く綺麗に動く様になったと言っていたし・・・・
試しにカーナが昨日、街道の近くにそこそこ大きい池があったんで、そこに向けて爆炎を撃ち込んでみたんだけど。
大爆発と共に一瞬で池の水が干上がったんだよね。
これにはカーナ自信もびっくりしてた。
その後はアクアが水の精霊だけあって池に水を戻してくれたんで大事にはならなかった のだけど。
リーシェンもそれを見てそそくさと森に入って色々練習していたな。
そういえばフル姉も、風使いのはずなのに水も出た、なんて言って驚いてたし・・・
これってもう修業する必要無くない?
そんな風に考えながら歩みを進めること半時、そろそろ街の外周防壁が見えてくる頃かなと思っていた。
ドーーーーーンンンン!!!
急に上空から物凄い音が鳴り、空気を響かせてきた。
その振動に僕らは皮膚がピリピリする感じを覚え、咄嗟にその音の方向へ目を向けた。
いや、違うこの力真上?
「アクア! 上空に水結界張って!!」
「!!」
アクアは僕の言葉を聞くと、確認などせずにいきなり上空に水の膜を張り巡らす。
そしてこの水結界を僕がさらに強化し水流を作り高速で回転させる。
その直後、水結界を通してその遥か上空に忽然と現れた光の球体バチバチと音をたて、急激に落下してきたのが見えた!
「なんじゃ! あれは?!」
ダルガンさんが上空の異変を感じ騒ぎ出す。
商隊の皆さんも異様な光景に戸惑うばかりだった。
「リーシェン、カーナ皆を極力結界の外苑近くに移動させて!」
「了解!」
「わかりました!」
「フル姉! 水結界の下に風の結界を張って! 二重で防ぐ!」
「判った!」
フル姉の結界が具現化した直後、その光の球体が水結界とぶつかった。
光の球体は水を押し込もうとするがあまりに高速で流れる水に弾かれ、そのままえぐり取られるように小さくなっていく。
そして光の球体が無くなり水の中でバチバチと凄まじい音を響かせると、一気に輝きだし当たりを白一色の世界の陥れた。
ガアアアアアアアガガアアアアンン!!!
さすがに目を開けていることが出来なくて、閉ざしてしまった。
それでも、爆風や水滴が飛んでこなかったので特に慌てないでいられた。
光が徐々に薄れて行き視界がもとに戻ると、僕達の上にはまだ、風の結界が半球体の状態で存在していた。
「いやぁ、びっくりだよ。まさか私の渾身の一撃を防ぐなんて考えもしなかったわ」
上空から聞こえた聞き覚えのある透き通る声は弱まる風結界を関係なく通し、その声を追うように一人の女性が結界をぶち抜いて舞い降りてきた。
純白の着物に袴を履き、透き通って見えるほどの薄い布を羽織るその女性は、その特徴ある耳とどこかフル姉に似ている顔立ち。
彼女こそエルフの里の神官、クウェンディ様・・・・
「って! なんて事をするのですか!! 危うく怪我するところだったじゃないですか!」
「あはは! 普通なら死ぬところ! とか言うのに、レン達は怪我で済むんだ。成長したね」
カラカラと笑うクウェンディ様。僕達の成長を喜んでいるんだよね?
「成長を測るのに殺戮攻撃をしないで下さい」
「見て下さい! 商隊の皆さんが怖がっているじゃないですか!」
僕が指挿す方向には、みんなで寄り添ってガタガタと震え上がるディクスさん達の商隊の皆さん。
「あら、ゴメンなさい。ちょっと頑張りすぎて大神エグラシル様の力も借りてしまったから、驚きました?」
「あ、ああ、いえ、ちょっとこの世の出来事とは思えなかったもので、と、とり、みだしました」
なんとか立ち上がり、話し出すディクスさん。
さすが、ディクスさん。他の人たちがまだ立てないでいたり、身体を奮わせているのに、もうクウェンディ様相手に話し合う事ができる胆力は素晴らしいです。
ダルガンさんも、なんとか立ち上がってこっち見てやれやれって顔している。
ライアスさんは・・・と、あ、ダメだなあれは、あのまま寝かせて置いてあげよう。
「それで、そちらのお方はどなたなのですか? レン様。」
「ああ、紹介します。こちらエルフの里の神官を務めておられる、クウェンディ様です」
「え?」
あれ?ディクスさんとダルガンさん、ライアスさんまで身体が奮えだしたぞ?
あ! ライアスさんはもともとか。
「あ、あの大神エグラシル様の御言をお聞きできる唯一の神官である、エルフの里の大神官のクウェンディ様なのですか?!」
はあ、少し大袈裟な気がしますが、別段間違っていないので、うんと頷く。
「はあ!! お初にお目にかかります! グローデン王国を拠点に商いをさせてもらっております、バルアン・ディクスと申します!」
「そうですか、お噂はかねがね、わたくしの耳にも届いておりますよ。なかなかにご活躍だとか。これからも頑張って下さいね」
10人中9人の男が心を奪われそうな程の笑顔を張り付かせているクウェンディ様に、うっとり表情のディクスさん。
さすがにディクスさんといえど、クウェンディ様の色香にはかないませんでした。
「レンちゃん、今、失礼な言考えてなかった?」
なかなかに鋭いです。シアと同じく心奥の覗く事が出来るのでは?
迂闊に考えることも出来ないな。
「お姉様、一体どうしたんです、こんな所まで?」
フル姉がアクア様と手を繋いで僕のところに寄ってきた。
シアやリーシェン、カーナも僕の所にあつまると、フル姉とアクア、そして僕以外の人は膝をつき一斉に頭を下げていった。
その光景に苦笑いしながらも、手をあげて応えるあたり、神に近しい美人神官として有名なクウェンディ様の手慣れた振る舞いだなと感心してしまう。
「それで話は戻しますが、どうしてクウェンディ様が?」
「そうね。単刀直入に言うわよ? あなた達に、スバイメル帝国に行って、姫を助けてあげて欲しいのよ。」
考えてもみなかったクウェンディ様のお願いに、皆一同時を止めてしまっていたようだ。
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