第4話

 今日が3歳の誕生日だ。待ちに待った……というほどでもない。楽しい赤ちゃん時代、幼児期を過ごしている。体もかなり出来てきて走り回れるようになった。それを見た両親がピクニックに連れて行ってくれたりと充実している。

 ピクニック先は家からさほど離れていない丘の上で遠くまで見通せる。そこで驚いたのは空を飛んでいる島だ。いかにもファンタジー世界っぽい風景だ。島の大きさは距離があってよくわからないが100メートルほどはありそうだ。どうやって浮いているのだろう? パッ見建造物は見られないのだが、両親に何があるのか? と尋ねても返答は「さて、何があるのかなねぇ」だった。いずれ行ってみたいものだ。

 俺は前世の知識……というか理性を使ってトイレトレーニングも一発でクリアし、両親に喜ばれたり、言語の習得に励んでいる。

 トイレだが、汲み取り式を覚悟していたのだが、水洗だった。考え方は浄化槽式に近い。汚物は配管を通り、家の下に設けられたスペースへ落ちていく。中にはスライムがいるらしく処理してくれているとのことだ。

 タンクの水は水を生み出す魔道具があり、それで補充しているらしい。ノブを動かした人の魔力を使う仕組みになっているようで、それには触らないよう注意を受けた。家自体はログハウスのような木造住宅なのだが、ちょいちょいファンタジー要素がはいっている。

 父と母をとーちゃん、かーちゃんと呼んでいる。ちっちゃい子が舌っ足らずの発音で言うととても可愛く聞こえるのではないかというあざとい考えでそう呼んでいる。パパ、ママが恥ずかしかったというのもあるが。

 しかし、言語だが、なぜか二語以上の文で喋ることが出来ない。何でだろう? 体に引きずられて成長出来ないとかか? 例えば、「とーちゃん トイレ行きたいからドア開けて」と伝える場合、父親の前で「トイレ行く」と言うことしかできない。相手が察してくれるのを期待した喋りになってしまう。

 今のところ難しい要求をする必要がないので困ってはいないが、いつまでもこんな喋りをしているわけにもいかない。しばらく様子見だな。


 さて、3歳を迎えるにあたり女神の言葉を思いだしてみる。精神耐性は本日限りで終了だ。どんな弊害があるかわからないので、出来ればガチャで早々に入手したいスキルだ。

 肝心の”償い”についても追加で説明があった。俺がこちらでの生涯を通じて捧げたカルマ値の結果を、運ちゃんとにーちゃんの人生に平均的に幸運を割り当てることになるそうだ。3年もカルマ値を捧げられないのはまずいのではないかと思っていたがちゃんとフォローしてくれるようだ。時系列がめちゃくちゃな気がするが、そこはさすが女神ってことなのだろう。それに平均的に幸運が訪れるのも良いと思う。一発宝くじが当たって終了ってのも悪くないかもだが、それ目当てに悪い人が集まらないとも限らない。


 携帯だが、どうやら実体があるわけではないようだ。俺以外には見えないし触れない。試しに流れる水にかざしてみたが、水は透き通るだけだった。重さもない。それなのに俺には触った感触がある。


 カルマ値は特に何もしていないのに現在2,200ほども貯まっている。携帯で値を観察していると1日平均2貯まっているようなのだ。だいたい朝に増えているようだ。あれかな? 女神が人生ログインボーナスでもつけてくれているのだろうか?


 さて、誕生日は今日だが、ガチャを引くのは今晩0時を回った後だ。夜中に起きるのは今のこの体では不可能だ。気を失うように寝て、気が付いたら朝になっていることが多い。そうなると必然的に明日の朝になるわけだな。

 まだまだ時間があるのでふらふらしていよう。ドアノブに手が届かないので家の中で遊ぶしかないわけだが、何をしようか。

 そうそう、飼っているラグドールだが名前はラグというらしい。そのまんまだな。ラグさんを探して撫でさせてもらおう。以前は近くに寄ってこなかったラグさんも、最近は頼み込むと仕方なさそうに撫でさせてくれる。

 こっちの言葉を理解しているんじゃないかという節がある。とーちゃん、かーちゃんは「ラグさんは賢いなぁ」で済ませているがそんなレベルじゃないと思うんだが。ちなみにメスだ。


「ラグさん なでなでお願い」


 ラグさんを見つけて何度かお願いしていたら撫でさせてくれた。仕方ないわねぇっと言っている感じだ。ラグさんはめちゃくちゃ撫で心地が良い。するっとした手触りながら、毛の量が多いのでもこっともしている。迷惑そうな顔をされながらもしばらく撫でていると来客があった。


「シンク!遊びに行くよ!」


 そう言って部屋に入ってきたのは近所に住んでいるかーちゃんの友達の女性だ。長い髪をポニーテールにしていて、背が高く、体形はスラっとしている。目つきは鋭いのだが、口元に笑みを浮かべているので全体としては優しそうな雰囲気を受ける。

 動きは非常にキビキビとしていて素早い。名前はレンファさんだ。かーちゃんが育児に悩んでいる時に相談に乗ったり、疲れている時は俺を預かって休ませてくれている。かーちゃんはまじめなので俺が病気や怪我をするたびに必要以上に心配し、気疲れをしている。大丈夫と頭でわかっていても初めての子供で力の抜き加減がわからず、絶えず気を張っているのだ。今日もかーちゃんを休ませるために連れ出してくれるのだろう。


「シンク!行くぞ!」


 続けて入ってきたのはこの人の息子だ。歳は俺より3つ上の6歳だ。やんちゃ坊主を絵に描いたような子供であちらこちらに細かい傷がある。外でよく遊んでいるためか肌はよく焼けている。頭は坊主頭だ。目が大きく、ニカッっと笑っている。こっちの子の名前がヒロだ。


 こっちの返答を待たずして、レンファさんが俺の首根っこをつかんで外へ連れ出そうとする。首をつかまれているのにどういうわけか苦しくないし痛くもない。この人に抵抗しても無駄だと学んでいる俺は大人しくされるがままに任せている。


「ラグも行くか?」


 レンファさんがラグさんに問いかけるとやれやれって顔しながらもついてくる。村の広場に移動するとすでに何人かの子供が集まっていた。年齢はまちまちで3歳から10歳までくらいだ。

 広間にやってきたラグさんを見つけた子供たちが集まってくるが、捕まる前に近くに生えていた木の上にするりと登ってしまった。木の枝の上に優雅に寝そべってこちらを見下ろしている。見ててやるからさっさと始めなさいと言っているように感じる。


「集まったな。それでは始めるぞ。」


 レンファさんが声をかけて遊びが始まる。子供たちは一斉に棒のようなものを手に持ち始める。素材は年齢によって違う。3歳から6歳くらいまでの子はウレタンのような素材で、7歳からは木製だ。棒の形状も剣を模していたり、槍を模していたと様々だ。


「準備できたな。始め!」


 掛け声とともに、みんな手にしているものを振り出す。要はこれは武器の素振りだ。遊びとなっているが戦闘訓練だ。

 レンファさんは細かく技術指導をするようなことはしない。ただ一人一人じっくり観察し、時には違う武器を薦めている。木製を持っている年長組へはアドバイスなどもしているが、ウレタンを持っている年少組は自由にやらせて良いところを褒めている。

 みんなそれぞれ様になっているのだが、俺だけは何を持ってもギクシャクとした動きになってしまう。レンファさんは俺を見て結構困った顔をしている。どうもこっちの世界の人間は、何かしら武器に適正があるらしい。きっとモンスターと戦えるためなのだろう。生まれながらに武器を扱うスキルを所持しているようだ。

 今の俺は精神耐性以外何も持っていないので、うまく出来なくて当然なのだが、そんな俺は異例中の異例なのだろう。まぁレンファさんを困らせるのも今日までだ! 何かしら武器を扱うスキルをゲットして見せる! ……急に動きが良くなった言い訳を今のうちに考えておこう。


 夕食の時間になった。誕生日を祝ってか今日の夕飯は豪華だ。お肉美味しい! 何の肉かわからないけど。異世界特有の素材だったりするのだろうか? 聞くのが怖い。父母から手製の積木をもらった。文字の練習も出来るようにと一個一個に文字と絵が彫られている。何だかまったくわからないものあるが、見知った絵柄もある。馬とかは見たことないけどいるのね。お! ラグさんの駒もあるな。似ている。


 そして一夜明け、朝食の後。とーちゃんは仕事に出かけて行き、かーちゃんは家事をしている。


 さて! 待ちに待ったガチャタイム! 携帯を出してさっそく……と思って見ると、メールが一件入っていた。「善良な光の女神」の宛名だ。


『3歳おめでとう! くたばらないでちゃんと生きているな。今日からガチャが解禁だ。しかし初期スキルが何もないお前では、そもそもカルマ値を稼ごうにも稼ぎようがないだろう。初回限定! 今回に限り11連ガチャを無償でプレゼントしてやる。ありがたく引くように。』


 カルマ値を稼げない? ちょっと待て。ログインボーナスをくれているのは女神じゃないのか? 誰だ? 疑問は尽きないがかーちゃんの家事が一段落する前にガチャを引いてしまうか。

 前世ではガチャ運だけは良かった。今生ではどうかな? ガチャのアイコンをタップして中身を見る。通常のガチャと11連ガチャの表示があって、各々、消費するカルマ値が書いてある。通常ガチャは100で、11連は1000のようだ。11連の方が一回お得になっているな。提供割合のボタンがあったのでタップして確認してみる。


 N : 50.9%

 R : 35%

 SR : 10%

 SR+ : 4%

 UR : 0.1%


 UR引かせる気がねぇだろう! なんだ0.1%って。個別提供割合がないのか。何が出てくるかわからんな。

 こうなってくると俄然URを引きたくなってくる。いっちょやってみるか!

 11連をタップすると「無償チケットを使用するか?」と聞かれたので「はい」を選択し、ガチャの演出が始まる。始めてのガチャだからどの演出がどのレアリティかさっぱりわからない。白い球が画面上から降ってきて中央で割れる演出。地味だ。1個目の地味な演出の結果


 レアリティN ”剣術”


 を取得した。武器スキルを入手できた! これでレンファさんを困らせることはなくなったぜ。一個目から狙ったものが手に入ったことから、ガチャ運は良さそうだな。

 2個目も同じ地味な演出。


 レアリティN ”言語-大陸共通語”


 うん? 言葉が上手く話せなかったのはスキルになっていたからか!! これ手に入らなかったらずーっと赤ちゃん言葉だったってことか。あぶねぇあぶねぇ。レアリティこそNだが本当に必要なスキルをゲットしているぞ。この調子でいってほしい。

 お! かなり派手な演出。虹色の玉が光輝きながらゆっくりと降りてくる。眩い光を発しながら弾けとんだ。


 レアリティSR+ ”エステティック”


 う、うん? エステティック? エステってあのエステか? どんなスキルなのかさっぱりわからない。とりあえず、全部引いてそれから考えるか。4個目、5個目、6個目とどんどん引いていく。Rは銀色、SRは金色のようだ。

 そして10個目。真っ黒な画面に真っ赤な宝石が降ってきた。今までに見たことない演出だ。も、もしかして!? 真っ赤な宝石がひび割れ、その演出とともに携帯が振動する。真っ赤な光とともに宝石が弾け飛んだ。



 レアリティUR ”極剣技 龍殺斬ドラグスレイヤー



 おぉぉおおぉ!! これはチートなんじゃないかな!? 俺TUEEE出来ちゃうんじゃないかな!? やってやったぜ、こんちくしょう! やっぱりガチャは俺の味方だな! テンションが上がりきって変な倦怠感を覚える。ふぅ。最後の11個目。真っ赤な宝石が……

 え? あれ? これは? 混乱している間に真っ赤な光がはじけ飛んだ。



 レアリティUR ”地術極 メテオスウォーム”



 め、メテオ?

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