エピローグ
■前書き
人によっては蛇足のような話になるかもしれません。
本来なら次のシリーズ(シンクが異世界で頑張る話)を書き終わってから掲載した方が良いかもしれませんが、書き終わるのに数年かかりそうですので先に掲載します。
次のシリーズの内容によって変更があるかもしれません。ご了承ください。
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(や、やっと、帰ってこられた……!)
召喚された異世界でのあれやこれやを解決し、ついに、ようやく、こちらに帰ってこられたのだ。
カレンダー等で確認したわけではないので正確な期間は分からないが、かれこれ数年はいたんじゃないだろうか。
召喚先で数年経過したからといって、こちらでも同じように時が経ったかというと、そうではない。創造神様の話では、俺があちらに召喚された直後の時間に戻れているらしい。
なので、身体的な時間経過も無かったことになるらしく、加齢もしてなきゃ、身体的な成長もしていない、とのことだ。
うーん、召喚されていた間の記憶がはっきりしているだけに、まるで夢を見ていたかのように感じるな……。
どうして創造神様の名前が出るのかって?
何と、俺が召喚された世界を作ったのも、同じ創造神様だったのだ。
管理を任されていた女神の不始末の後処理を手伝ったことで、創造神様に送り返してもらえた、という訳だ。とまあそんなことよりも――
(今は何より……フィーに会いたい!)
飛ばされたばかりの頃は正直、混乱や慌ただしさで思いを馳せる余裕もなかった。しかし数ヶ月も経てば、心にぽっかりと開いた穴を自覚せずにはいられなかった。
毎日一緒にいたからだろうか。心の中にあった存在の大きさに気付けなかったのは。
フィーの事は好きだ。
それは前から変わっていない。
しかし、共に生きていく、共に在る存在として、掛け替えのない人だと分かったのだ。
失って初めて気付くってやつだな。
取り返しがつかなくなる前に自覚できて、よかったと思う。
経験値1000倍だの、精神耐性だの、こんな時に役立ちそうなスキルは山ほど持っているのに、『好きな人に会えない』という現実には用をなさなかった。慣れることも、耐えることもできなかった。
向こうにいる時は極力考えないようにしていたが、戻ってきた今ならもう、会おうと思えばすぐに会えるのだ。我慢できない。
フィーは今、アイルーン家の別荘にいる筈だ。
魔王スキルを用い、フィーの部屋の前の廊下へ転移する。時刻はもう夜遅いから、廊下に人の姿は無い。
(起きているかな?)
扉を弱くノックする。
「シンク?」
懐かしい、フィーの声だ。勇者スキルで俺だと分かったのだろう。問うというよりは、確認する声音だ。嬉しくて、言葉が詰まる。
「……い、今、ちょっといいかな?」
久し振りに会えると思うと何だか緊張して、妙に固い声が出してしまった。
「うん? いいわよ、どうぞ。」
緊張を感じとったらしいフィーの訝し気な返事を待って、俺はそっと扉を開けた。
寝る直前だったのだろうか、フィーは寝間着姿で、天蓋付きのベッドに腰を掛けていた。
(――あぁ! フィーだ!)
月の明かりが大きなガラス窓から入り込み、部屋の中を照らしている。
フィーの金髪がその光で、淡くきらきらと輝いている。
少し驚いたような表情でフィーはこちらを見ていた。
「どうしたの、こんな夜更けに? ……それに、大丈夫? まるで何年も会っていなかったみたいな顔してるけど。」
俺は今、どんな顔をしているのだろうか? 口角が上がっているのは自覚できているが……。
それにしてもそのままズバリだな! 流石だ! 鋭い!
「いや、ちょっと、顔が見たくて。」
我ながら恥ずかしい理由だ。でも本当に、それだけなんだ。
俺のしょうもない理由を聞いて、フィーは微笑んだ。
「明日は忙しいから、早く寝たほうがいいんじゃない? 寝不足の顔でみんなの前に出る訳にはいかないでしょ?」
確かにそうだ。
正直に言うと、もっと一緒にいたい。しかし、男と違って女は色々な準備に時間がかかるだろうから、フィーは俺よりも早起きしなければならない筈だ。名残惜しいが退散するとしよう。
「あぁ、そうだな。おやすみ、フィー。」
「えぇ、おやすみなさい。シンク。」
フィーの部屋を出て、またも転移を用いて自室に戻り、一息つく。
フィーの顔を見たら、本当に帰ってきたんだと実感できた。
あんなにざわついていた心が、だいぶ落ち着きを取り戻したと思う。
それと同時に、ついさっきまで異世界に行っていた事実がより一層、夢であったかのような感じがしてくる。
携帯を取り出し画面を見る。
本来、ガチャとメール機能しかなかったそれには今、別の機能がある。
”電子書籍”
これこそ、異世界召喚の果てに、創造神様から頂いた報酬だ。
カルマ値を用いて、日本で販売されている電子書籍を購入できる、というものだ。実は、この報酬をぶら下げられたせいで異世界生活が長くなったともいえる。
……そう! 当初はこれで、新婚初夜のハウトゥ本をゲットする予定でいたのだ。
そのつもりで異世界で頑張り、向こうである程度まとまったカルマ値を稼いできたのだ。
しかし、今、画面を眺めながら俺は考えていた。本当に、そんなことに使って良いのだろうか?
異世界へ行く前は……その……、『失敗し嫌われる』ことに恐怖していた。
だが、もし失敗したとしても、フィーとならば笑い話にできそうな気がする。
それも含めて、夫婦としての歩みなのではないだろうか?
俺が変に、男としてのプライドをこじらせていただけだったんだな。
そんなことよりも、スキルでは得られない医療や農業、建築などの知識を得るのに使った方が良いだろう。
それに……子供ができたら、育児や教育関係の知識も欲しいからなぁ。
引きこもりに対する対応方法なんて、スキルじゃ分からないからね。
夜が明け、結婚式当日。
教会の中、最奥に安置された神像の前で、俺とフィーは列席者に向けて愛の誓いを立てていた。
こちらの世界の結婚式は、人前式が一般的である。
そのため、本来なら教会で式は挙げない。披露宴のようなものがあるだけだ。
それなのに、今、俺達は教会で挙げている。
そう”教会”である。いや勿論タリウス教の教会じゃないよ?
ここに祀られているのは何を隠そう、善良なる光の女神、そしてラグさんである。
事は結婚式の打ち合わせの際、フィーに、俺の前世での結婚式とはどんなものだったのか、と尋ねられたのが始まりだ。
どんなものかと言われても、職場関係の披露宴に何度か行ったくらいしか経験の無い俺である。聞き齧った程度の、だいぶ怪しいチャペルウエディング知識を披露してみたのだが、その話にフィーが見事に影響されてしまった。
かくして、「女神様とラグさんの像を作ってその形式で式を挙げよう!」という話になったのだ。
神像は白い艶やかな石で、女神様が猫のラグさんを腕に抱いている姿をかたどっている。
この教会と神像は俺が作った。
当初、女神様の顔は俺が見知っている通りの、目つきの悪いヤンキーっぽい感じで、ラグさんも俺の見知っている通り、ふてぶてしい感じの造形にしていた。
しかし作っている最中、当の女神様とラグさんから神託の形で、造形に対する駄目出しや注文がやたらと下ってきた。
現在、女神様は慈愛に満ちた優し気な表情をしており、ラグさんも愛らしい姿に仕上がっている。
教会の場所は、俺の故郷である村の中だ。俺はすっかり忘れていたのだが、昔、ラグさんがよく日向ぼっこをしていた小さな広場をフィーやイーナが覚えていた。村の人達に相談すると、使う予定のない場所だったようで、すぐに了解を得られたのだ。
結婚式にかこつけてはいるが、この教会や神像はフィーの、ラグさんと繋がっていたいという気持ちを大事にしたくて作ったようなものだ。信者と言えるような人はいない。せいぜい、ラグさんと繋がりのあった人が、たまーに訪れる程度である。
まあ、言い出しっぺがフィーだから、一応フィーが教祖ということになるのか?
……嫁が新興宗教の教祖になった件について。
さて、アホなこと考えてないで式に集中しよう。
来客に向けた誓いを終え、次に神像に向けて誓いを述べる。
「女神様、ラグさん。今日、俺達は夫婦になります。フィーを幸せにしてみせるから、見守っていてくれ。」
「ラグさん、元気にしている? 私たち、幸せになるからね。」
聖句とか、決まった形式の文言があるわけでもない。
それっぽく言葉を飾る必要はない。
俺はお世話になった女神様と、姉のようなラグさんに向けての誓いを。フィーはきっと、過酷な運命を辿ったラグさんを思っての誓いだろう。
俺たちが誓ったその瞬間、唐突に神像が光を放ち出した。
眩い輝きはあっという間に教会中を埋め尽くし、目を開けるのも困難なほどだ。
厳かな声が鳴り響いた。
『よう! 元気そうだな。その誓い、きっちりアタシに届いたからな? 反故にすんじゃねぇぞ!』
『シンク、フィー、結婚おめでとう。シンク、フィーを泣かせたら神罰が下るわよ。忘れるんじゃないわよ』
どこか楽しそうな声が消えると同時に輝きも消え、神像はもとの白い石像に戻っていた。
「……」
あまりの出来事に、俺も含めて誰も声を出すことができず、その場で固まってしまった。
国の重鎮である公爵にカテジナ様、フェリクスにシャルロット王女。
身内になるジョアキム卿、俺のお義母さんになるクラリッサさん、とーちゃんかーちゃん。
仲間のルイス、マリユス、ノーネット、カッツェ。
友達のレオ、村の皆にレンファさん、ギースさん、ヒロにイーナ、ステナさんと牧場のにーちゃん。
ルイスの村からはカレンさんと、最近カレンさんと結婚したベンノさん、バンや自警団のみんな。
ギョンダーからトビアス、ナタリー、オリバーに、ラキとリズ。
式に集まってくれた皆が、一様に目を丸くし驚いた顔をしている。
この後、大混乱に見舞われたのは言うまでもない。
さて。あのシャルロット王女が、こんな出来事を間近で見て、大人しく胸のうちにしまっておいてくださる筈がない。俺達の結婚式の一部始終はすぐに劇作品として脚色され、あっと言う間に国中に知れ渡ってしまった。
程なくして俺の村には、新婚カップルが神の祝福を得ようと大挙して押し寄せるようになったのである。
余談だが、イーナとステナさんはその人達をターゲットにした商売を始め、随分と大儲けしているようだ。
数えきれないほどの男女が神像の前で誓いを立てたが、結局あれ以降、神像が光り神託を授かる……なんてことは起きていない。
しかし、女神様とラグさんは『縁結びの神様』として、この国に広く、そして――永く、知られていくこととなる。
後日、神域侵入を使い、お供え物(お酒とつまみ)を持って行った際。
「アタシが恋愛の神? このアタシが? まったく、ガラじゃないってーの。」
俺は、口ではぶちぶち文句を言いながらも満更でもない顔をしている女神様と遭遇したのであった。
ちなみに、俺とフィーが夫婦喧嘩した際には女神様とラグさんも敵に回る。
それどころか日々の生活の中でさえ、『フィーを気遣っていない』だの『そこは褒めるところだったぞ?』だの、かなり細かく言われる。
……確かに見守っていてくれとは言ったし、フィーを失いたくない俺としては本当にありがたい助言ではあるのだが……ちょっと、見守り過ぎじゃないですかね?
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■あとがき
お読みくださりありがとうございます!
これにてこの作品は完結です。
次シリーズは恐らくシンクが異世界に飛ばされた時の話になる予定です。
実は「異世界転生二度目です~」的な話を最初書きたかったのですが、どうせなら一度目から書こうと思い、書き始めたのがこの作品になります。
次作は「転生魔王の異世界道中ぶらり旅(仮)」もどうぞよろしくお願いします。
(まだプロットの段階ですので掲載は当分先になりそうです^^;)
転生時に女神に呪われたが、どう考えてもそれがチートスキルな件について さっちゃー @sattya
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