第43話
翌日になった。まずは全員を集めて打ち合わせだ。昨日ラグさんに教えてもらった各々の適性と、それを基に、チームとしての役割を説明する。しかし、説明を終えても皆、半信半疑といった表情だ。まあ、昨日ちょっと武器の訓練を相手しただけの奴にいきなり「お前は火術に適性がある」とか言われたら、そうなるか。俺も正直、本当かどうか分からんしな。
ルイスは説明中からずっと緊張している様子だった。昨晩、最後に言った脅しが効いているようだ。素直な奴である。そんなレベルまで追い込むと脱落者もあり得るので、実際はしない。基本は昨日と同様、褒めて伸ばす作戦だ。細かい欠点はこの際すべて後回しにして、長所を伸ばしながら必要最低限のスキル習得を急がせる。
早速、訓練に入る。とりあえず、スキルの発現からだ。”教授”スキルを駆使し、重要度の高いものから教えていく。各々にやり方を説明し、課題を割り振り、俺は全体の監督をする。そうこうして1時間ほど経った頃だろうか。”神聖術”に適性があるとされた者が、見事に使えるようになった。そこからは立て続けにスキルを発現する者が出てきて、間もなく全員、1つずつ覚えることができた。
これには俺も驚いたが、何より本人達がびっくりしている。
「神聖術が使える!」「気配が分かる!」「こんなに簡単にスキルが発現するとは!」
「適性があるとはいえ、これほど簡単にスキルが発現するとは! さすが英雄の子供達だな!」
せっかくなので利用する。俺の言うことを聞いていれば確実に強くなれる、と思ってくれれば、今後の指導がとてもしやすい。この次はサクッと実戦形式だ。全員にある程度、モンスターへの対処法を覚えてもらう必要がある。そのために使うのは、暗黒術だ。暗黒術はバッドステータスを与えることに特化している。毒、マヒ、各種能力ダウン等々あるのだが、ここで使うのは幻影を見せる魔術だ。俺の攻撃を、あたかもフォレストウルフが襲ってくるかのように見せかける。俺自身が”行動観察”にてフォレストウルフの攻撃の軌道を覚えているので、それをトレースし、目の前でやって見せるのだ。
「行くぞ。バン」
「お、おう」
お互いに木刀を持って構える。切っ先が震えているな……緊張している方が状態異常にかかりやすいので、好都合である。さっそく幻影を見せていく。
「”幻影”」
「うわ!」
どうやら、きっちりかかったようだ。今、バンの目の前には1匹のフォレストウルフがいるように見えている筈だ。フォレストウルフの動きを俺が剣先でトレースし、バンの首元を狙う。
「ッ!」
体勢を崩しながらも、何とか防げたようだ。因みにだが、実際のフォレストウルフよりも、やや早い動きをしている。実戦では、練習時にできた事の7割出せたら良いほうだろう。よりしんどい状況でやる必要があるのだ。きっちり攻撃を受けられるようになるまで続ける。自警団連中の実力なら、慣れさえすれば余裕で対処可能だろう。
「言い忘れていたが、夕方には実際にフォレストウルフと戦ってもらうからな。」
「「「え!?」」」
全員から驚きの声が上がる。
「だから、しっかり集中して動きを覚えろよ? 受けることは当たり前、動きをしっかり覚えるんだ。」
ここからは、バンも集中力を増した。実際に戦うとなれば、それはもう必死になるというものだ。何せ命が懸かっているんだからな。
「お前たちの実力なら、これくらいの攻撃を避けながら立ち向かうことは十分できる。モンスターの出す殺気や、独特の動きに惑わされないように。奴らは体当たりと牙での攻撃が主体で、パターンとしては単調だ。しかも連続攻撃をしてこない。体勢を崩さず避けられれば、ガラ空きの胴体に攻撃し放題だぞ。」
俺のアドバイスでコツが分かったのか、バンは体勢を崩さずに避けることを意識し、何とか反撃することができた。
「そうだ! もう見えるようになったのか、流石だな!」
すかさず、褒めて伸ばす! どんどん繰り返し、安定するまで続ける。これを他全員分行う。何とか対処できるようになった。
「よーし、いいぞ! 次は2匹だ!」
「「「え!?」」」
君らその反応好きだね。
「あいつらは集団で現れるから、複数相手に対処できないといけないんだ。大丈夫、やることは1匹の時と同じだ。2匹になったからと慌てないこと。体勢さえ崩さなければ何とでもなる。無理に仕留めに行かず、自分で攻撃に転じられるタイミングを計るように。」
実力的には十分可能な範疇だ。本当に、これは慣れの問題なのだ。2匹、3匹と増やしていったところで、昼休憩となった。
お昼ご飯は全員で、村長さんの奥さんが作ってくれたサンドイッチを食べる。
「シンクはよくそんなにMP続くよね。凄いなぁ」
ルイスが尊敬を込めたまなざしで、そんなことを言ってきた。自警団の連中も、その言葉で初めて気づいたようで、しきりに感心してくる。
「俺のレベルは20だしな。それに”消費MP削減”ってスキルがあるんだよ。」
俺の言葉に、自警団の連中がこそこそと話し始める。
「そういえば、さっきお手本で神聖術も使えてたよな?」「訓練で使っているのは暗黒術だぞ?」「あれ? 風術が天級なんだよな?」「レベル20……」「ひょっとして、名のある達人なんじゃないのか?」
「俺の実力はともかく、午前中だけでだいぶ動きが良くなっただろ? スキルも覚えたしね。午後には十分モンスターと戦えるようになるさ。まぁ俺がやっているのは、鍛えるというよりも、元から備わっている力を存分に生かすための訓練だからな。皆、もっと自分の実力に自信を持つんだ。」
午後は集団での移動、索敵、戦闘の訓練だ。今度は集団に”幻影”を見せる。俺による動きのトレースは無いので、失敗してもダメージが無い。若干緊張感に欠ける。……それにしても、これってVRを用いたシミュレーション訓練だよな。動きの確認だけなら十分だ。そしてこの”幻影”も、実際のモンスターより動きを早くしている。
そして夕方。今日の訓練の総まとめとして、お待ちかねの実戦訓練だ。村から離れ、モンスターを探す。全員が集中している。しかし、ちょっと緊張し過ぎな気もするな。
「いいぞ。訓練通りの動きができているぞ。その調子だ。」
これまた褒める。褒められたことで、自分の今の行動に少しは自信が持てたのか、程よく緊張が解けたように見える。しばらく進むと、索敵担当が声を上げた。
「あっちの方向から何か近づいてくる!」
その言葉を受け、全員が迎撃態勢に入る。ルイスは俺と一緒に後方で待機だが、これは自警団だけでの動きの確認を行っているからだ。
「いいぞ。良く発見したな!」
褒めるよ~。欲を言うと、距離や相手の速度なども教えて欲しいのだが、いきなり全部を要求するのは酷というものだ。スキル発現したのも今日だしね。
「来るぞ!」
索敵担当が注意を促し、茂みからモンスターが飛び出してきた。あつらえたように、フォレストウルフである。数は4匹。前衛のバンと接触する。バンはやや動きに緊張が見えるものの、モンスターの動きをキチンと捉え、多少姿勢を崩しながらも反撃を入れていた。仕留め損なったが、後衛がすかさずフォローに入り止めを刺す。連携を取りながら、着実に数を減らし、全て倒すことができた。
怪我をした者が1名出たが、その場で神聖術での応急処置が完了し、継続戦闘が可能となった。
「よし、いいぞ! 練習通り、見事に動けていた。上出来だ! もう1戦行ってみよう!」
「「「はい!」」」
自分達でもうまく倒せた手応えがあるのか、非常に前向きだ。この後、俺が”気配察知”でモンスターの位置を確認し、自警団をそこへ誘導する形をとり、効率良くモンスターと遭遇できた。自警団も回を重ねるごとに動きが良くなり、日が沈むまでに3つのグループを討伐できた。
全員の労をねぎらい、村に帰ってから軽く反省会を行うこととした。ここでも基本は褒める姿勢だ。「よくそこに気がついた!」とか、「高く目標を見据えているな。流石だな!」とか、何かしら褒める。本人がアドバイスを求めてきた時だけ、細かく説明する。しかし、やる気になった自警団は非常に前向きに教えを乞うてきた。結果、30分くらいで終わらせる筈の反省会は2時間にも及び、とても充実したものとなった。
その夜。また部屋に話しに来たルイスから、俺は絶大な賛辞を浴びていた。
「シンクは本当に凄いよ! いきなりあんなに戦えるようになるなんて! それに皆、凄く明るくなったよ!」
「どんどん結果を出せているから、そう見えるだけさ。結果にしても、自警団の奴らには元々それだけの素養があったんだ。俺はやり方を教えただけだよ。」
これは言うなればプロデュースだ。もしくはコンサルタントだな。元からある資産(能力)の有効活用法を教えただけ。しかし、これだけ手放しで褒められると、やはり悪い気はしない。
「ルイスのほうは、少しは分かったのか? どうすれば良かったのか、どうすれば良いのかが。」
「……一生懸命考えているんだけど、まだよく分からない。」
うんうん、唸りながら考え始めてしまった。いやー、こいつは本当に素直で真面目だな。そして子犬みたいな可愛げがある。何というか……理想の弟、だな。俺には兄(ヒロ)、姉(ラグさん)、妹(イーナ)がいたが、弟はいなかった。俺もおっさんの習性として、偉そうに蘊蓄を語りたくなる時があるのだが、ルイスのように何でも素直に驚いてくれると、非常に話し甲斐がある。前世にて、いつか会社の後輩を相手に焼き鳥持ちながら「この肉が仕事でネギがお前だ。そして串が会社だ。分かるか?」と謎理論をかましたい、とか思っていたのだ。付き合ってくれそうな後輩がいなくて叶わなかったが、ルイスなら打ってつけの相手だな。
……ルイスは自警団員でもないし、もし本人にやる気があるなら、一緒に冒険者をやるのはどうかと誘ってみるのもアリかもしれないな。
「ルイスは、マンティコアの問題が落ち着いたらどうするんだ?」
「どうするって?」
「自警団に入るのか、それとも畑でも耕すのか。何をして生きていくのか、ってこと。」
「えっと、その、どうしようかな? 今までは、1日1日を生きるので精一杯で、考えたこととなかった。」
「……それなら、俺と一緒に冒険者になってみないか? 俺は前衛だから、後衛の仲間が欲しかったんだよ。」
そう、確かに薀蓄を聞いて欲しいというのも大いにあるのだが、冒険者としての今後を考えると、後衛に精霊術師が加わってくれればこんなに頼もしいことはない。勿論、ルイスが嫌だと言うならスッパリ諦めるつもりだが。
「ぼ、僕が、冒険者!?」
悲鳴と言ってもいいくらいの声を上げ、ルイスは大きな目を更にまん丸にした。
「何をそんなに驚いているんだよ?」
「いやその、全然、想像したこともなかったから……。僕が、冒険者……。」
その後、ルイスは心ここに在らずといった感じで、何を話し掛けても返事は上の空だった。
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