第三章 冒険へ!

第61話

 さて、話は少しだけ遡る。それは、フィー達が開放される1週間ほど前のことだった。



「え? もうパーティ登録されている?」


 俺達は今、冒険者ギルドにいる。紋章院からの拘束が解け、延ばし延ばしになっていたパーティ登録を早いとこ済ませてしまおう、と3人揃ってやってきたのだ。そしたら何と、既に登録されているという。


「はい。シンク様方は3名とも、フィーリア様と同じパーティへ既に登録されております。」


 対応してくれているのは若い男性だ。俺達とそう年齢は変わらないだろう、いかにも新入社員、ってにおいがぷんぷんする。フレッシュマンだ。


「いや、あの……、パーティへの加入手続きをしたことは無い筈なのですが……。」


「そうなのですか? ですが、もう登録されておりますので、こちらとしてはそのようにしか扱えません。」


 クッ、習った通りのマニュアル対応だな! そらそうか、寧ろマニュアルと違う対応する奴のほうが、組織としては問題だ。ちょっとくらい融通を利かせて欲しいと思うのが人情ではあるが、利かせるだけの経験値が向こうに無いのだったらそれも仕方ない。だいたい、規則がそうなっているのには何かしら意味がある筈だ。そこをきちんと理解したうえで、「大本の理由に影響しないから逸脱しても大丈夫」と判断するのと、「それくらいなら、まあいいかな」と感覚で逸脱するのでは、月とスッポンほどの差がある。


「では、せめて登録された日付とか、分かりませんか?」


 こういう時は、規律に沿って引き出せる情報が他に無いか確認するのが吉だ。ここで『何でだよ! それくらい良いだろう?』とか揉めても、何もメリットは無い。向こうはまだ協力的だが、ここで俺達が無闇に事を荒立てると非協力的になってしまうどころか、最悪、敵にもなりかねない。味方を増やし、敵は作らない。これは人生をイージーモードにするための鉄則だ。……そしてこれが、ボッチにはいかに難しいことか……。


「少々お待ちください。……えっと、規約ではパーティリーダーにのみ開示できる内容となっておりますね。フィーリア様がいらっしゃれば、ご本人に情報開示を行えます。」


「……そうですか。分かりました。」


 俺達はすごすごと受付カウンターから退散した。


「どうする? どうしよう……これからしばらく3人で行動して地級の依頼を受ける予定だったけど、俺達だけのパーティは結成できなかった。理由を聞こうにも、フィーはまだ出てきていない。フィー達のパーティに加えられた経緯も一切不明だから、ここで俺達だけがパーティとして活動していいのかさえも判断つかない。」


「うーん。フィーさん、いつ戻ってこられるのかな?」


「当事者だからなぁ、俺達よりは時間がかかるだろう。前例が無いから、正直分からん。」


 俺達が1週間軟禁されたのだって、ちょっと予想外だったのだ。もう数日で済むのか、あるいはもっとかかるのか分からないが、フィーに事情を確かめるにはとにかく待つしかない。

 ルイスが心なしか肩を落とし、小さく溜息をついた。


「せっかく、全員が納得する、すごーくカッコいいパーティ名前が決まったのにね。」


「そうだよな。あれだけハイセンスな名前、他ではそうそうお目にかかれないだろう。あのパーティ名での登録ができないなんて、いやー残念だな。」


『勇猛にして美麗でありながら、繊細な感覚もしかと備えたあの名……。使えないのは、実に惜しいな。』


 一同で考えに考え抜いたパーティ名を今、使えないことについて嘆いた。マリユスなんて、食べる手を完全に止めて目を伏せてしまった。しかし、嘆いてばかりもいられない。さて、どうしたものか。


「ボーっと待ってるのもなあ。」「そうだよねぇ……。」


 ルイスと一緒に悩んでいると、マリユスからアドバイスをもらえた。


『それなら、シンクとルイスは地級昇進に備えた行動をしてはどうだろうか?』


「うん? それってどういうこと?」


『地級昇進の試験を受けるための前提条件として、パーティではなく、個人で達成しなくてはいけない依頼が幾つかあった筈だ。確か、雑務系、採取系、討伐系を、各々3回ずつ、だったか。』


「え、そんなに?」


『地級からは一人前扱いだから、基本的な依頼をひと通りこなせる能力が要求される。試験でも改めてそれらについて問われるが、事前の必須項目とすることで、試験の効率を上げているのだろう。』


 俺達はマリユスの意見を採用し、個別で依頼を受けることとした。掲示板とカウンターを行き来して、比較的容易そうなクエストをマリユスにチョイスしてもらう。採取や討伐なら、まずは安全、かつ近場でこなせるもの。モイミール周辺では、場所さえ気をつければ強いモンスターは少ないようだから、採取討伐ともルイスのソロ活動でも問題なさそうだ。雑務系については、参考にマリユスが経験したものの内容を聞いたが、とりあえず行ってみないことには分からないらしい。見出しに『掃除』とある依頼も、要求される出来栄え、範囲、拘束時間なんかは全く書かれていないのだ。基本的に詳細は現地で知らされ、そこで話を聞いて金額と釣り合うかを判断するらしい。もし問題があるなら、断ってもいいそうだ。

 とりあえず、俺とルイスが各種3回ずつこなすまでの期間、夜に宿屋で定時連絡をする以外は個別行動とした。マリユスも、ソロで行えるクエストを何かしら探すとのことだ。


 二人はクエストを受けるためギルドへ行き、俺は一人宿に残っていた。魔人討伐のボーナスとして、カルマ値を1千ほど手に入れていた。当初の話では1万じゃなかったかとラグさんに尋ねると、(倒したのはフィー達でしょ?)と素っ気なかった。うん、まぁ、そうですけどね。

 ボーナスは1千だったが、ボルテク商会を成敗した分なのか、他にもいくらか入り、マンティコア討伐分も含めると合計で3千ほどとなった。11連が2回引ける。さっそく引くことにしよう。……毎回思うが、万が一”鑑定”を引き当てたらどうしよう? ”鑑定偽装”でどこまで誤魔化すことができるだろうか?


「ガチャ引きたいけど”鑑定”引いたらなぁ、どうしようかな?」


 国の管理下に置かれて監禁生活なんて、冗談じゃないからな。今までは村に引きこもっていれば最悪何とかなったが、今は既に街にいる。ここで”鑑定”を引き当ててしまったら、どうにかして村まで帰って引きこもり生活をするしかなくなる。


(あんたが”鑑定”を引くことは無いから、安心しなさい。)


 俺が思い悩んでいると、ラグさんがキッパリと言い放った。


「引くこと無いって……まぁいいか、ラグさんがそう言うのならそうなんだろうし。ねぇ、ラグさんは女神関係者、ってことでいいんだよね?」


(女神”様”よ、不敬ね。誰のおかげで”償い”できていると思っているのよ。関係者かどうかはもう分かるでしょ? ただ、私の口からそれを明確に伝えることはできないの。)


 おっと、そこまで教えてくれるとは予想外だ。いつものように、はぐらかされると思っていた。


(だいたい、女神様はお忙しいというのに、個人がどこで何を成してどれくらいの評価に値するかなんて、いちいち見ていられるわけないでしょ? だから、カルマ値を的確に評価してほしかったら、何か行動を起こす時には必ず私を連れて行きなさい。)


 そう言われてみれば、どうやって評価しているかは謎だったな。なんとラグさんの主観だったとは。ラグさんが、俺をまっすぐ見上げる。


(……こうして明かしたのも、あなたを信頼してのことよ。15年間の積み重ねで、あなたが私から得た信頼ってこと。くれぐれも、失望させないようにね。)


 ウッ! そう言われてしまうと、信頼に応えねばと身が引き締まるな。


「あ、そうだラグさん、カルマ値ってマイナスあるの?」


(マイナス……? ……成る程ね。えぇ、あるわよ。万が一マイナスになると、とてつもなく酷いことになるから、せいぜい注意するのね。)


 若干の間が凄く気になる。しかし、マイナスはあるのか……。マイナスになって起こることについて詳しく教えてほしいが、下手に内容を伝えることで「それくらいなら」と判断されることがないよう、敢えてぼかしているのだろうな。


(ただ、シンクが心配していた盗賊についてだけど、もし盗賊の類を殺しても、カルマ値はマイナスしないわよ。それより、何故そんな疑問が出てくるのかが不思議だわ。悪人に人権は無いのよ? さくっと殺ってしまって全く問題無いわ。)


 なんと!! どこかの美少女天才魔道士みたいなことを言う。しかし、そうは言っても人殺しにはやはり抵抗がある。いつかルイスに語ったように、躊躇してやられてしまっては意味がないから、せめて圧倒できるよう鍛えておこう。そのためにも新たなスキルをゲットするかな。

 さて、”鑑定”を引く可能性については憂いが無くなったので、さっそくガチャを引くとするか。ガチャを引くときは、欲しいスキルがあったほうが張り合いがある。ルイスが持っている”MP超回復”は物凄く助かるから、手に入れられたら嬉しいな。そして、”天術”と”地術”は才能スキルも持っていることだし、そろそろ手に入れたいところだ。後は、思いがけない有用なスキルなんて手に入ったらいいなぁ。


 そのような願いをこめて、ポチッと11連ガチャのボタンをタップした。

 おぉ! 最初から虹色だ! 何のスキルかなぁ~?


 レアリティSR+ ”状態異常強化”


 おー! 字面的に暗黒術を強化してくれそうだな。一発目から有用なスキルゲットだ! 幸先が良い。次はどうかな? 次は金色だな。


 レアリティSR ”神聖術”


 バンバン使っている割にはLv7からトンと上がらなくなっていた”神聖術”が来た! これでLv8。どんな術が使えるようになったか、後でチェックだな。この後は5回ほどレアリティNとRが続き、既に持っているものや、初見だが今更な武技や魔術スキルだった。そして8回目、またも虹色の演出がでた。さてさて、何が来てくれたかな?


 レアリティSR+ ”HP超回復”


 あ、あれ? MPじゃなくてHP? 思わず俺はラグさんを見てしまった。


(別に私が選んでいるわけじゃないわよ? 運よ、運。)


 そうなのかな? 運ならば諦めるしかないか。しかし、よく考えたら運営側(ラグさん)にガン見されながらガチャを引くって、なかなか無いことだよな。

 この後はめぼしいものが無く、最初の11連は終了した。結果としては、SR+が2個出たのだから大成功だな。特に”状態異常強化”は、”魔力強化”と合わせて使えばかなりの効果を狙えそうだ。

 さて、良い流れがあるうちに続けていくかな。再度、11連をポチッとタップする。最初から金色だ。


 レアリティSR ”広域化”


 そういえば、”魔力圧縮”で範囲を狭めるというのはあったのだが、広げるものは無かった。このスキルは範囲の拡大ができそうだ。エリアヒールとかできちゃうのだろうか? 後で試してみよう。次も金色だ。良い流れだな。


 レアリティSR ”連射”


 ”連射”……? 弓を連続で、とかかな? 後でじっくり調べよう。そして……赤い? えっ? 赤? こ、これは!?


 レアリティUR ”鍛冶・極 神具複製”


 おぉぉ! って、え? ”鍛冶”に極が? これも後でじっくり確認だ!

 この後もう1個だけSRが出て、他は全てNだった。


「ふぅ……。」


 俺は肺に溜まっていた息をゆっくりと吐き出した。考えてみれば、約12年ぶりのURである。いやあ、びっくりしたぁ~。


 早速、手に入ったスキルをチェックする。特に”鍛冶・極 神具複製”は、どのような効果なのかなっと。わくわくしながら調べてみると、その気持ちはすぐ落胆へと変わった。

 ”鍛冶・極 神具複製”……神が作ったとされる武器や防具がこの世には幾つか存在しているのだが、このスキルを使えば、それと同じものを作ることができるのだという。説明だけ聞けば、伝説の武器や防具を作れる、非常に有用なスキルに思えるだろう。

 しかし、だ。用意しなければならない材料の、『神鋼』とか『賢者の石』って、一体どこにあるんだよ! どう考えてもこれって”錬金”スキルの極技的な奴で、めんどくさい素材を山ほど集めて作んなきゃいけないタイプの品だろう! そして、作成には1ヶ月とか時間を要するようだ。伝説の武器防具を一般人が作れちゃうと考えれば、ある意味短い……とも取れるが、それにしたってどれだけMP回復ポーションを用意したらいいのやら……。


 はぁ、ぬか喜びして疲れた……。

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