第22話

「フィーリアお嬢様、お茶が入りました。」


 デザインこそ粗末だが造りは丈夫な野外用テーブルの上に、俺は紅茶の入ったカップとソーサーを、優雅な所作で置いた。俺のかしこまった物言いのせいか、フィーは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ありがとう……」


 フィーは元気なく呟いた。


「フィーリア様、そのような者に感謝の言葉は不要です。」


 そう言ったのは短い金髪の少年だ。目鼻立ちがはっきりとしており、なかなかイケメンなんじゃないだろうか? 装備は仕立ての良いプレートアーマーに、長槍を持っている。アンダーも意匠を凝らした上質なものだ。

 フィーは少年の言葉を聞いて、ハァ……とため息をついている。



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 俺は11歳になっていた。身長がにょきにょき伸びて、村の同年代の平均よりかなり高い160cm程にもなっていた。前世では残念な事に170cmにあと一歩届かない身長だったのが地味に悔しかったものだが、このぶんでは将来的に180cm台も夢じゃないのでは、と期待している。ヒョロ長いとお笑い芸人みたいになってしまったりするが、今の俺は毎日体を動かしているのでそこそこ筋肉もある。言ってみれば細マッチョといった感じだ。今まで俺の容姿について表現したこと無かったが、顔については目元がかーちゃん似で、他はとーちゃん似、といったところだろうか。下がり気味な目尻は母譲りで、軟弱そうに見えるのが欠点かな。とはいえ他のパーツは父譲りなためか精悍さがあって、全体的には結構いい線いっているんではないかと思う。ただ、俺の感覚は前世のものがかなり影響している。正直こっちの世界の美醜の基準はよく分からない。まぁ、人の好みなんてどこでも差があるよね。何しろこっちは情報伝達する媒体が無いので、アイドルのような、世間一般がちやほやしている容姿はこれだ! ってものが不明なのだ。


 高レベルモンスターの出現は、6歳のときに起きたあれ以降発生していない。ただ、地域毎に出現しているモンスターのレベルが、全体的に上がったらしい。今まで俺が住んでいる村周辺に出現していたものは1~10レベルが良いところだったが、1~13レベルのモンスターが出現するようになったそうだ。とーちゃんも以前よりは若干忙しそうにしている。

 国のお偉い学者さんの話では、月が近づいているのが原因ではないか、とのことだ。月から魔素が降り注いでいるため、という説が有力となったらしい。つまり、教団がドラゴン討伐を行った時期とタイミングが一致したのは、只の偶然だったようだ。

 また、あの事件が起きてから、村の集会所は強化され、避難所としても使えるようになった。モンスターの攻撃をしのげる程の防備を整えるにあたっては、領主の許可が必要だったのだが、それはフィーがあっさり取ってきてくれた。いざというときは村人が一箇所に集まって、大人達が子供達をまとめて面倒見たり、守れるように体制を整えたことにより、少数の戦力でも人的被害を押さえ込めるようになった。

 まぁ、あの事件以降、幸いにも危機的な事態は発生していないのだが、いざ発生したときに備えて定期的に訓練する必要があるのではないか、とは提唱してみたところ、俺の意見はすんなり通り、年に一回訓練する運びとなった。実際に避難して、モンスター役と防衛役に分けて模擬戦闘をしたり、一晩村人全員で泊まり込んでみると、水の貯蔵量が不足しているなどの問題もいくつか浮き彫りとなり、その都度改善が行われた。


 最近の俺は、”採取”スキルと”錬金”スキルを用い、この避難所の備蓄として、せっせとHP回復ポーションやMP回復ポーションやらを作成している。11歳になったのを期に、俺は午前練習、午後遊びもしくは手伝いの生活から、将来を見据えた職業訓練の日々へとシフトしていた。他の子も、11歳からは親の仕事を覚えたり、やりたいことを見つけその仕事への下準備へ移ったりしている。

 俺の場合は冒険者になるということで、備蓄作りの他の時間は、主にとーちゃんからその手ほどきを受けている。ヒロは来年成人を迎えるにあたって、レンファさんとどこぞで集中合宿中らしく、今は村にいない。


 6歳のときの戦闘を経て、考え方をちょっと修正した。いざという場で手札を増やすのは博打要素が大きすぎる。そうなると、ガチャは落ち着いて引ける時に引いたほうが良い、と考え直したのだ。相変わらずカルマ値は1000残しているが、他は11連分がたまったら引くようにしている。


 そんなわけで、現在のステータスはこうなっている。


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 名前:シンク 


 Lv13


 HP  99/99

 MP  84/84


 力   39

 魔力  36

 素早さ 46

 器用さ 30

 体力  32

 精神  20


【攻撃スキル】

 剣術 Lv10 

 剣術・天級 Lv2 NEW! 

 剣術・極級 Lv1 NEW!

 体術 Lv3 NEW! 

 体術・地級 Lv2 

 体術・天級 Lv1 NEW!

 槍術 Lv5 

 槍術・地級 Lv3 

 槍術・天級 Lv1 NEW!

 短剣術 Lv1 

 短剣術・天級 Lv1

 弓術 Lv1 NEW!

 弓術・地級 Lv1 NEW!

 弓術・天級 Lv1 NEW!

 弓術・極級 Lv1 

 鞭術・地級 Lv1 NEW!

 槌術 Lv1 NEW!

 盾術 Lv1 NEW!


 火術 Lv6

 火術・天級 Lv1 NEW!

 水術 Lv1 

 風術 Lv5 NEW!

 風術・地級 Lv2 NEW!

 土術 Lv1 

 光術 Lv2 NEW!

 暗黒術 Lv1 NEW!

 神聖術 Lv4 

 付与術 Lv2 NEW!


【攻撃補助スキル】

 行動観察 Lv5

 回避 Lv6

 詠唱変換-印術 Lv5

 魔力圧縮 Lv4

 魔力強化 Lv3 

 投擲術 Lv1 NEW!

 行動予測 Lv2 NEW!

 集魔 Lv3 NEW!

 錬魔 Lv2 NEW!

 空間把握 Lv3 NEW!

 技応用 Lv3 NEW!

 消費MP軽減 Lv2 NEW!


【耐性スキル】

 火耐性 Lv3 

 水耐性 Lv1 NEW!

 風耐性 Lv3 NEW!

 地耐性 Lv3 NEW!

 天耐性 Lv5 NEW!

 精神耐性 Lv3 

 毒耐性 Lv4 

 麻痺耐性 Lv3 

 幻影耐性 Lv3 

 痛覚耐性 Lv2 NEW!

 病耐性 Lv1 NEW!

 呪耐性 Lv1 NEW!


【探索スキル】

 追跡 Lv3 

 隠密 Lv3 

 気配察知 Lv3 

 錠前術 Lv2 

 罠術 Lv2 

 暗視 Lv3 

 精霊視 Lv2 

 構造把握 Lv1 NEW!

 水源察知 Lv1 NEW!


【極スキル】

 極剣技 龍殺斬

 地術極 メテオスウォーム


【生産スキル】

 採取 Lv4

 採掘 Lv1 

 調合 Lv3 

 錬金 Lv3 

 造船 Lv1 

 鍛冶 Lv3 

 建設 Lv1 

 器具作成 Lv3 

 魔方陣作成 Lv1 NEW!

 裁縫 Lv1 NEW!

 料理 Lv2 NEW!


【技術スキル】

 エステティック Lv6

 礼儀作法 Lv1 

 水泳 Lv1 

 占い Lv1 

 育児 Lv2 

 演奏 Lv1 

 絵画 Lv1 

 天候把握 Lv4

 野営 Lv3

 嘘看破 Lv2 

 教授 Lv3 NEW!

 鑑定偽装 Lv1 NEW!

 付与固定 Lv1 NEW!

 騎乗 Lv1 NEW!

 フラワーアレンジメント Lv1 NEW!

 唱歌 Lv1 NEW!


【身体強化スキル】

 HPUP Lv1 NEW!

 MPUP Lv1 NEW!

 力UP Lv3 

 魔力UP Lv2 NEW!

 素早さUP Lv2 NEW!

 器用さUP Lv2 NEW!

 体力UP Lv2 NEW!

 動体視力 Lv3 

 鋭敏聴覚 Lv2 


【パッシブスキル】

 言語-大陸共通語

 手話-大陸共通語

 幸運 

 剣の才能 

 剣の鬼才 NEW!

 地の加護 NEW!

 天の寵愛 NEW!

 風の加護 NEW!

 美肌 NEW!

 老化遅延 NEW!


【特殊】

 携帯-スキルガチャ

 スキル取得不可-習熟


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 剣に関しては、新たに”剣の鬼才”というスキルを得た。これは”剣の才能”より大幅に剣術スキルの上昇に補正がつくというもので、”剣術”のレベルがするすると上昇し10になった。しかし……”剣術・地級”が一向に引けていないのだ。そんな訳で、最近は武器に短槍を使っている。弓じゃないのかって? 確かに弓はコンプリートしているのだが、弓は近接武器の戦い方とあまりにも違う。なるべく今は、剣の間合いの感覚を崩したくないのだ。なので槍を短くし、剣の間合いに調整したものを使うようにしている。

 ”鍛冶”スキルは日々の武器の手入れで使っていたら、いつの間にか3レベルに上がっていた。せっかくなので試しに自分で作ってみた槍が、現在装備している短槍となっている。近くに出現する魔物で鉄をドロップする奴がいたので、それをせっせと集めて、”錬金”スキルを使い、槍頭の素となる鋼鉄を作成した。

 ”錬金”は、MPを消費して特定の素材を上位物へ変質させるスキルだ。変質させるのに必要な素材は、目的とする上位物質によって変わる。また、MPを更に消費することで、素材の純度を上げられる。ただし、失敗することもあり、その場合は手持ちの素材が半分に減ってしまう。

 ”鍛冶”スキルではMPを消費して、時間制限付の炉やハンマーや金床などを作り出すことができる。勿論、普通の鍛冶屋はこんなことはしないのだが、この方法だと道具を用意する手間は省ける。ただし、MPが持続しないので、1個作るのに何日にも分けなければいけない。最初は道具も”器具作成”スキルで全部揃えようとしたのだが、用意するべき素材があまりにも多く、時間がかかり過ぎるので諦めた。

 ”風の加護”は”風耐性”と”風術”スキルの上昇に補正がつくようだ。そのため、最近はメインの魔法を”火術”から”風術”に変更している。初めてモンスターを倒した”ファイアランス”には思い入れがあるものの、才能系スキルの有無はその後の成長度合いに酷く影響するからな。

 ”天の寵愛”は”~の加護”より一段上の上昇補正スキルのようだが、”天術”を持っていないので宝の持ち腐れだ。”天耐性”が上昇するのは嬉しいが、耐性系スキルを上げるためにはその系統の攻撃魔術を食らうしかなさそうなんだよね。因みに現在の”天耐性”がLv5なのは寵愛スキルの影響のようで、寵愛を得たと同時にレベルが5まで一気に上がった結果だ。”風の加護””地の加護”も同様で、各々耐性Lvが3まで上がっている。



 さて、それより、今年もいよいよ夏になった。ということは、近いうちにフィーがやってくる。俺はもう職業訓練へ移行しているので、去年までのように手伝いには行かないんだけど、そうするとフィーのやつはどうするのかな? イーナと剣術の稽古だろうか。そうそう、フィーとイーナはいつの間にか、本当の姉妹のように仲良しになっていた。イーナは俺に憧れて(俺が勝手にそう思っているだけで事実確認はしていない)剣をやっているので、きっとフィーから教わることも多いだろう。 

 俺はこの夏、訓練の一環として、数日間のキャンプを何度か行う予定でいる。とーちゃんに監督してもらい、準備から設営、安全の確保等々、指導を受ける予定だ。一応、フィーもくっついてくるか確認してみようかとは思っている。数日間、家を空けることになるので難しいとは思うけど、聞かないと後で機嫌を損ねそうなんだよね。女めんどくせぇ~、ってリア充発言してみちゃってもいいのかな? いや、めんどくさいなんて思ってないけどね。来てくれるなら、仲間と分担する方法についても練習になって良いだろう。


 ところで、フィーのお目付け役兼護衛のステナさんだが、実は貴族らしい。本人曰く、男爵の三女なんて威張れるようなものでもないし貧乏なもんですよ、ってことらしいけど。そのステナさん、なんと牧場のにーちゃんと婚約した。フィーが成人するのを待ってから嫁ぐらしい。身分差が問題になりそうなものだが、ステナさんが貴族の身分を捨てるそうだ。それにステナさんの両親も、あの肉の生産者と繋がりが持てるなら、と喜んでいるらしい。何でも、この村で生産されている肉は近年ますます評判が良くなっているようで、贈り物としては大変喜ばれるらしく、上司への手土産に最適なんだそうな。

 実は、この婚約にあたっては、俺も他人事ではなかったのだ。俺が冒険者になれば、マッサージされた牛の出荷は出来なくなってしまう。そこで、牧場のにーちゃんから、あのマッサージを伝授してくれないかと頼み込まれたのだ。一般人の認識として、戦闘スキル以外のスキルについて教えを請うのは、かなりタブー視される傾向にある。どうも教会がそう仕掛けているらしい。そんなもんだから、土下座せんばかりの勢いで必死に頼み込まれたのだが、ちょうど俺はその頃”教授”のスキルを手に入れたばかりで、スキルの効用を試すためにも了承した。”教授”は、自分のスキルを相手に教えることができる、というものだ。

 実に、費やされたのは、丸1年。そう、”エステティック”を教えるのにかかった時間だ。さすがSR+のレアリティは伊達じゃないと思った。もう、後半は”教授”スキルが本当に機能しているのかどうか疑い続け、結局晴れなかったぐらいだ……とはいえ、めでたくスキルをゲットした牧場のにーちゃんは、めでたいついでに勢いづいたのか元から決めていたのかは知らないが、ステナさんにプロポーズした。ステナさんは意外にもあっさり承諾した。ただ、「フィーが成人するまで待ってくれるなら」と条件を出し、にーちゃんがそれを呑んだ形で今に至る。実際フィーの成人まで待った場合、この世界……というかこの村の中ではかなりの晩婚カップルとなる。

 そして俺は、次の年から今度はステナさんに”エステティック”を教えることとなった。ステナさんは夏しか来られないし、フィーの護衛もあるので、本当に限られた時間の中での挑戦となった。俺の”教授”のスキルがにーちゃんの経験を経て上がっていたためか、ステナさんのスペックが高かったおかげなのか、3度目の夏を終える頃、ステナさんもマッサージを完璧に習得することができた。実際に俺がマンツーマンで教えた期間は夏の間だけだから、正味3ヶ月程の筈だ。それを考えると、脅威的な成長といえるだろう。あのお肉に対する情熱には脱帽するしかない。教えながら聞いた話によると、領地無しの男爵なんぞ給金での生活になるが、その給金こそ高いものの、貴族の体面を維持するのに殆ど飛んでしまい、食生活は質素なものだったらしい。「普段シンクさんが食べているものの方が、豪華で美味しいですよ」とのことだ。そう言った理由からか、食事には貪欲になってしまったそうな。

 さて、そんなわけでステナさんの婚約が決まってしまった。さよならお姉さんキャラ。グッバイ、フォーエバーである。だが、まだ俺には幼馴染キャラ(フィー)と妹キャラ(イーナ)がいる! まぁ、フィーは貴族だから結婚とかありえないし、イーナはもう血縁のような妹分なので、全くそういう目で見ていないんだけどね。


 そろそろフィーがやってくる頃だろうと踏んで、俺はここ数日、広場で子供達の面倒を見ていた。練習で相手をしたり、一緒に遊んだりしているのだが、子どもたちがわちゃわちゃ動いている環境というのは”気配察知”や”行動予測”のスキルを鍛えるのに丁度良いので、これがなかなか悪くない。

 日差しがいよいよ夏めいてきたある日、フィーがやってきた。いつものようにステナさんが後ろについて来ている。ここまでの構図は例年通りだが、今年はもう1人、知らない顔が一緒にいた。

 金髪碧眼の、高価そうな服を身にまとった少年だ。眉間にしわを寄せており、表情がちょっと険しい。ここ何年か、村に遊びに来るときのフィーは、もう少しラフで動きやすい格好をしていたのだが、今日は初めて会ったときのような綺麗な服を着ている。そして、何故か仏頂面だ。ステナさんは2人を見守る位置でニマニマ顔をしている。ステナさん的に飯ウマ展開、ってことはロクなことじゃないな……。ステナさんからしたら、俺もフィーもからかう対象なのだ。


「何とも冴えない村ではないですか。フィーリア様、こんな処にどのような用事があるというのですか?」


 近づいてきた金髪の少年が、強めの口調で言った。


「冴えない……とは言ってくれるわね。お父様の領地経営に何か思うところでもあるのかしら?」


 フィーの返しはやけに攻撃的だった。……こいつら、仲悪いのか?


「そういった意味ではありません。世間一般と比較して、豊かで平和そうです。しかし、特に見るべきこと、やるべきことがあるようには感じられません。」


 よくよく聞いてみると、フィーほど敵意剥き出しな口調でもない。まじめそうな少年だな。


「あなたには無くても私にはあるのです。何も無いと感じられたのなら、もうお帰りになってはいかがかしら?」


「そのようなわけにも参りません。私はこの夏の間、フィーリア様と行動を共にするよう、父上とジョアキム様に申し付かっております。」


 ジョアキム、ってのはたしかフィーの父親の名前だ。


「フィー姉ちゃん、久しぶりー! 元気だった?」


 軽い口論のようなやりとりをしているところに、駆け寄ってきたイーナがフィーへ向けて普通に話しかけた。レンファさんに似たのか、ヒロにしろイーナにしろ度胸あるよな……。


「フィー!? フィーリア様に向かって慣れなれしいぞ! 控えろ! 平民!」


 金髪の少年は強めの口調で、イーナに言い放った。うん、まぁ、これが普通の貴族の反応だよね。フィーは何か言いたそうにしているが、少年の手前言い出せないって感じだな。


「え……じ、じゃあ、フィー姉ちゃんのことはもう、お姉ちゃんって思っちゃいけないの? イーナのこと、妹って思ってくれないの? ……ぐすん……うぇーん」


「え? いや……、す、すまない。えーっと、な、泣き止んでくれ。」


 泣き出したイーナに対して、少年が大慌てで宥めている。悪い奴じゃなさそうだな……。因みに、イーナのこれは嘘泣きである。イーナが本気で泣く時は、もっと感情的で怒りや悲しみが前面に出てくる。フィーも何やら慌てているが、どうしたらいいのか分からん感じだ。フィーは腹芸が苦手なためか、何をすべきか分からない時は黙って様子を見てしまう傾向があるんだよな。余計なことを言わなければとりあえず失点はないと考えたんだろう。


「泣かした……」「イーナちゃんを泣かした……」「ギーたんに言ってやろう……」


 広場にいた子供達がひそひそ声で金髪少年を咎めている。その声を聞いて、金髪少年はいっそう慌て始めた。そろそろフォローに入らないと収拾がつかなくなりそうだ。俺は一歩前に出る。


「貴族様、妹が大変失礼をいたしました。フィーリア様はこの地を訪れる度に、妹へ大変良くしてくださいまして、姉とお呼びすることについても、子供のすることと寛大にお許しくださっていたのです。妹はまだ幼く、分別がつきません。どうか、お見逃しくださいませんでしょうか?」


 これまで全く使う機会の無かった”礼儀作法”を使って言ってみた。このスキル初めて使ったよ。


「む、むぅ、そ、そうだな。子供の言うことだ。私も狭量過ぎたようだ。領民に好かれるということは決してマイナスではないしな。特別に、見逃すとしよう。」


 金髪少年は明らかにほっとした様子で同意した。


「わーい、やった~! フィー姉ちゃん、久しぶり!」


 先ほどまで泣いていたのが嘘のように……まぁ嘘泣きだったわけだが、フィーに抱きついた。他の子供達もフィーの元に集まっていく。面倒見の良いフィーは子供達に人気があるのだ。

 金髪少年は非常に何か言いたそうではあるが、子供の言うことは大目に見ると宣言したばかりである手前、何も言えないようだ。


「貴族様、無学な私はあなた様のお名前を知りません。どうかお教えくださいませんでしょうか?」


 呼びかけると、金髪少年がこちらを向いた。自然、フィーやフィーの周りにいる子供達には背を向けることになる。……こらイーナ、金髪少年にあっかんべーするのやめなさい。


「うむ、そういえば名乗っていなかったな。私はホトヴィー子爵家が次男、レオポルト・ミスカ・ホトヴィーだ。フィーリア様の婚約者でもある。」

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