第四章 ダンジョン!
第82話
「君達に、報奨金が出るようだ。」
ルイスの回復後、近衛騎士団のトラフィム団長の部屋を訪ねて報告を終えると、そんなことを言われた。
何でも、言語の翻訳成功で一つ、開かずの扉を開けたことで一つ。最後に、ロボットの残骸の入手が、功績として国に認められたらしい。
ロボットを破壊したことに対しては正直、怒られるんじゃないかなと予測していたのだが、どうやら褒めてもらえるようだ。ありがたや、ありがたや。
だが、トラフィム団長は幾分申し訳なさそうな表情になった。
「済まないのだが、あのゴーレムに関しては、王都の研究所へ運ばれることになった。」
「えぇ!?」
即座に反応したのはノーネットだ。俺は俺で、(ミスリル大量ゲットだぜ! とはならないようだな)なんてことを考えていた。
「せっかくマリユスが真っ二つにしてくれたのに、自分の手で調査できないなんて!」
「あぁ。あれは本当に助かる、と研究者が喜んでいたぞ。他の個体は原型を留めてないか、肝心のコア部分が自爆で消し飛んでしまっていたからな。……とまぁ、その件はさておき、この遺跡は王家の直轄だ。出土した品は大小や希少性を問わず、全て王家の所有物となる。君たちの発見は大変な功績だが、こればかりはどうしようもないな。」
「うぅ……せめて、調査結果だけでも閲覧できないでしょうかね?」
尚も食い下がるノーネットに、団長は苦笑して頷いた。
「それを褒賞として認められないか、掛け合ってみよう。だが、あまり期待しないでくれ。何せ物が物だ。転移の魔道具の可能性が高いとなると、国防にも関わってくる事案だからな。」
「まぁ……そうですよね……。」
「しかし、魔染の進んだミスリルの塊であるあれを、一体どうやって原型が留めないほど破壊したり、真っ二つにしたのかね? あれだけのことができる実力者なら、ぜひ国に仕えて欲しいものなのだがな。」
うーん、ここで正直に答えてルイスとマリユスを連れて行かれても困るな……。ていうか、マリユスがどうやって真っ二つにしたのかは、俺達も知らないんだよな。
皆同じ考えなのか、お互いに目配せしてしまった。
「……かの御仁からの紹介者を、どうこうするわけにもいかないか。分かった。その点に関しては、こちらで適当に誤魔化しておくとしよう。」
仕切り直すようにゴホンと咳払いをし、トラフィム団長は続けた
「今、ヨーシフが詳細な報告資料を作成している。それを以て評価が確定し、報奨が支払われるのだが、しばらく時間がかかるだろう。遺跡内部への立ち入りは当面禁止となったが、どうする? ここで待つかね?」
「あの、転移罠があった部屋への立ち入りは!?」
「無論、禁止だ。」
「そ、そんなぁ……。」
ノーネットはガクッと頭を落とした。エルフの技術を間近で見ることができると楽しみにしていたから、倒すだけ倒して調査に加われない、となればそりゃあ残念に違いない。しかし、ここで駄々を捏ねたところで、どうにもならないだろう。
仲間内で方針をまとめるため、一旦退室した。全員で話し合った結果、ここで待っても仕方ないという結論に達し、当初の目的地でもあったギョンダーへと旅立つことにした。その旨をトラフィム団長に伝えると、快く了解を得られた。褒賞については、確定したら冒険者ギルドを通じて教えてくれるらしい。
研究室にいるヨーシフさんにも、旅立ちの挨拶をしに行く。
「もう行ってしまうのか。とはいえ、遺跡にも入れないのだし、ここに留まっていても仕方ないか……済まないがシンク君、折り入って頼みがある。君の知っている限りのエルフ語の知識について、紙にまとめてくれないだろうか? 」
ヨーシフさんには面倒な報告書の作成をやってもらっているので、嫌とは言えない。
せっせと1人で簡易的な辞書モドキを作成していたら、マリユスが手伝ってくれた。「マリユスはどこでその言葉を知ったんだ?」と尋ねたら、「何、シンクと同じ『絵本』でだ」と、ウィンク付きで返されてしまった。自分もその方法で質問をかわした手前、突っ込んで訊くわけにもいかない。人のことは言えないが、マリユスも大概、謎が多いな……。
さて、俺は単純に文法やら単語を簡易的にまとめたものを作ろうとしたのだが、やってみるとこれが思った以上に大変だった。というのも、文法が非常に多いのだ。同じような言い回しでも、主語の位置がころころ変わったり、表現が変わったりしてくる。不思議に思っていたら、マリユスが教えてくれた。
「この言語はそもそも、魔術的な効果を最大限に高めることを目的に作られている。だから、言い回しや表現で単語や文法をとらえるのではなく、魔術の属性、体系別に考えたほうが分かりやすい。」
そう教えられて改めて辞書モドキの作成をやってみると、成る程。魔術の属性別に表現を分けると、統一性がはっきり見えてきた。マリユスは更に、こんなことも教えてくれた。
「魔術を唱える際にグラトコヴァ語を使うことで、威力を向上させたり、精度を上げることができる。また、魔法陣を作成する際にも非常に効果的だ。ぜひ、試してみて欲しい。」
マリユスは『エルフ語』ではなく『グラトコヴァ語』と明言した。つまり、マリユスはこの言語が何であるか、正確に理解しているということだな。
「それとシンク。君の魔術は、使うレベルに対しての制御があまり巧くないように感じる。もっと魔術の流れ、魔素の変換を意識して使うことを薦める。この点に関しては、ノーネットの魔術の使い方を手本にすると良いだろう。」
うん……それは俺も思っていたことだ。何せ使い慣れる前にガチャでレベルが上がったりするからな。例えば、本来なら1000回使わねばレベルが上がらないような物でも、1度も使わずにレベルが上がったりしてしまう。そのため、どうしても経験が不足する。正直、戦闘スキルは”剣術”以外、真っ当に使えている気がしないからな。
泣き言を言っても始まらない。ルイスを見習って、優先度が高いものから練習するしかないな。
と、こんな調子でどうにか2日ほどで辞書モドキをまとめ、ヨーシフさんに渡すことができた。基本的な文法と単語、熟語と例文を合わせたものだ。単語数にすれば1000個程度だろうか。
「これほどの物をこの短期間で……ありがとう、本当に助かるよ!」
翻訳の報酬ついでに、ミルクプリンのレシピについて使用する承諾を得られた。
ところで……絵本で学んだ程度で、モドキとはいえこんな辞書が作れるわけないと思うのだが、ヨーシフさんは不思議に思わないのだろうか? ……あ、うん。なんか、目の下の隈が凄いことになっている。もしかしなくとも2徹だろうか……きっと、仕事が進みさえすれば他は些細なことなんだろう。疑問に思われないうちにこの町から去ることとしよう。
俺とマリユスが辞書モドキを作っていた2日間で、他のメンバーは旅の準備を整えてくれていたようだ。これなら明日にでも出発できそうだが、その前に1度、アーラさんの店に寄っておこう。約束もしていたし、ベンノさんの情報も手に入るかもしれないからな。
教えてもらった場所へ向かうと、花々に彩られた木造の建物が目に入った。アーラさんの雰囲気そのもののような、明るく可愛らしい店だ。
「あら、いらっしゃい!」
扉を押し開け中に入るとアーラさんが出迎えてくれ、助けてもらったお礼だの何だので色々と渡されてしまった。むしろヨーシフさんの有様を見ると、こちらが手土産でも持参し謝罪すべき状況なのではと思うのだが、そう告げるとアーラさんは笑って言った。
「うちは子供も成人しているし、店は息子と2人でやっているからね。旦那がいなくても別に困ったりはしないのよ。」
ヨーシフさんには悪いが、そう言ってもらえると助かるな。
俺はベンノさんについて尋ねてみることにした。
「アムリタを探している人……ね。う~ん、アムリタ……というか、部位欠損まで治せるような薬を求める人はね、だいたい行き着く場所は決まっているのよ。まずは王都の学院で現代の技術力に期待して、次に各地のエルフの遺跡で出土するものを求めて、最後には必ず、ギョンダーへ行くことになるの。」
アーラさんは一度視線を落とし、少し暗い表情を浮かべた。
「重い病気にかかった家族のため、ケガを負った冒険者仲間のため……理由は様々だけど、多くの人が通る道なのよね。私も何度かそういう人に助けを求められたけど、……何も、できなかったわ。」
と、寂しそうに呟いた。
「王都の研究では、部位欠損を治すほどの治療薬はまだ作成できていないし、エルフの遺跡はだいたい国の管轄になっているの。残るはギョンダーで行われるオークションに期待するか、自力でダンジョンへ行って手に入れるか……とは言っても、ダンジョンで最後に発見されたのは50年も前なんだけどね。それでも今、一番可能性が高いのはダンジョンなのよ。」
アーラさんは俺の目を見て続けた。
「そうして藁にも縋る思いでギョンダーにやってきた人に偽物を掴ませる、酷い詐欺師もいると聞いたわ。くれぐれも、気を付けてね。」
アーラさんに見送られ店を出た後、冒険者ギルドへ寄って護衛依頼を探した。ちょうどタイミングよく明日出発で、急ぎ護衛を探している商人がいた。その場でさくっと条件のすり合わせを行い、雇われる運びとなった。
冒険者ギルドの配達サービスを使い、イーナ宛にミルクプリンのレシピを送る。とーちゃんとかーちゃん宛の手紙も出した。新しくできた仲間や、フィー達のことを書いた。ルイスの村の自警団連中がちゃんとやれているか不安もあったので、時間のある時にでも見に行ってもらえないか、とお願いをしておく。
翌朝町を出発し、何事もなく野営地へ到着したのだが、野営時に珍しくノーネットから意見があった。何やらくどくどと小難しい理屈を並べ立てていたが、要約すると「遺跡で遭遇したような事態は今後も十分にあり得るので、連携を強化するためにメンバーをシャッフルしてみてはどうか」とのことだった。カッツェも大いに賛同しているし、反対意見も特に出なかったので入れ替えを行った。最初がノーネットとマリユス、次がカッツェとルイス、朝方が俺とフィー、といった感じだ。
前衛と後衛の組み合わせであるので、戦力のバランスは特に問題無いのだが……急にどうしたんだろう? 俺が首を傾げていると、フィーから「鈍いわねぇ」と何故か呆れ顔で言われてしまった。……うーん?
夜明け前、交代してフィーと共に見張りについていると、フィーが唐突に何かを突き出してきた。
「これは?」
「シンク。スキル鑑定紙を使ってちょうだい。」
「え、今? 何で?」
見れば、確かにスキル鑑定紙だ。この世界では、他人のスキルの詳細について尋ねるのは、わりかしタブー視されている。親しき仲にも礼儀ありだぞ?
「だって、ルイス君のピンチに自分の所持スキル忘れてたじゃない。」
そう言われてしまうと返す言葉が見つからない……おとなしく鑑定紙を使い、フィーに差し出した。1枚に収まりきらなかったので自前で数枚補填すると、ようやく全てが記載された。
「これは……何というか、凄いわね。」
フィーが呆れながらそんな感想を口にする。
スキル鑑定紙の内容は下記の通りだ。
(作者注:NEW表記は2章1話から変化した項目に記載しています)
------------------------------
名前:シンク
Lv28
HP 417/417
MP 274/274
力 153
魔力 148
素早さ 160
器用さ 136
体力 140
精神 112
【攻撃スキル】
剣術 Lv10
剣術・地級 Lv10
剣術・天級 Lv8
剣術・極級 Lv4
体術 Lv9
体術・地級 Lv6
体術・天級 Lv4
槍術 Lv7
槍術・地級 Lv5
槍術・天級 Lv2
短剣術 Lv3
短剣術・天級 Lv1
弓術 Lv8
弓術・地級 Lv6
弓術・天級 Lv3
弓術・極級 Lv1
鞭術 Lv1 NEW!
鞭術・地級 Lv1
槌術 Lv1
盾術 Lv1
盾術・地級 Lv1 NEW!
棒術 Lv1
棒術・天級 Lv1
火術 Lv6
火術・天級 Lv1
水術 Lv3
風術 Lv10
風術・地級 Lv7
風術・天級 Lv4
風術・極級 Lv2
土術 Lv2
土術・地級 Lv1 NEW!
土術・天級 Lv2
光術 Lv3
闇術 Lv3
神聖術 Lv9
暗黒術 Lv6
付与術 Lv6
【攻撃補助スキル】
行動観察 Lv10
回避 Lv10
詠唱変換-印術 Lv10
魔力圧縮 Lv9
魔力強化 Lv9
投擲術 Lv6
行動予測 Lv8
集魔 Lv8
錬魔 Lv8
空間把握 Lv8
技応用 Lv9
消費MP軽減 Lv8
硬魔 Lv3
透魔 Lv3
早口 Lv5
捕縛 Lv6
挑発 Lv4
広域化 Lv3 NEW!
連射 Lv1 NEW!
状態異常強化 Lv3 NEW!
【耐性スキル】
火耐性 Lv3
水耐性 Lv2
風耐性 Lv3
土耐性 Lv2
光耐性 Lv1 NEW!
闇耐性 Lv1 NEW!
神聖耐性 Lv2
暗黒耐性 Lv2
地耐性 Lv3
天耐性 Lv5
精神耐性 Lv7
毒耐性 Lv7
麻痺耐性 Lv7
恐怖耐性 Lv6
魅了耐性 Lv6
混乱耐性 Lv5
乱魔耐性 Lv6
睡眠耐性 Lv5
封印耐性 Lv5
幻影耐性 Lv4
病耐性 Lv3
呪耐性 Lv5
痛覚耐性 Lv5
疲労耐性 Lv6
【探索スキル】
追跡 Lv8
隠密 Lv8
気配察知 Lv8
錠前術 Lv7
罠術 Lv8
暗視 Lv7
精霊視 Lv5
魔素視 Lv5
構造把握 Lv4
水源察知 Lv3
【極スキル】
極剣技 龍殺斬
地術極 メテオスウォーム
極・鍛冶 神具複製 NEW!
【生産スキル】
採取 Lv6
採掘 Lv1
調合 Lv6
錬金 Lv5
造船 Lv1
鍛冶 Lv7
建設 Lv2
器具作成 Lv4
魔方陣作成 Lv4
裁縫 Lv5
料理 Lv5
解体 Lv4
木工 Lv4
栽培 Lv2
転写 Lv1 NEW!
【技術スキル】
エステティック Lv9
礼儀作法 Lv3
水泳 Lv3
占い Lv3
育児 Lv2
演奏 Lv1
絵画 Lv3
天候把握 Lv6
野営 Lv5
嘘看破 Lv4
教授 Lv5
鑑定偽装 Lv3
付与固定 Lv3
騎乗 Lv1
フラワーアレンジメント Lv3
唱歌 Lv1
運搬 Lv2
曲芸 Lv2
誘導 Lv2
瞬間記憶 Lv2
釣り Lv1 NEW!
診断 Lv1 NEW!
窃盗 Lv1 NEW!
デザイン Lv1 NEW!
【身体強化スキル】
HPUP Lv5
MPUP Lv5
力UP Lv6
魔力UP Lv6
素早さUP Lv6
器用さUP Lv6
精神UP Lv4
体力UP Lv6
動体視力 Lv6
鋭敏聴覚 Lv5
鋭敏嗅覚 Lv1 NEW!
HP超回復 Lv1 NEW!
【パッシブスキル】
言語-大陸共通語
言語-グラトコヴァ語
手話-大陸共通語
幸運
激運
剣の才能
剣の鬼才
地の加護
天の寵愛
風の加護
美肌
老化遅延
【特殊】
携帯-スキルガチャ
スキル取得不可-習熟
------------------------------
昨晩宿屋にて、2700たまっていたカルマ値で11連を1回引いた。その結果、神聖術を手に入れてしまった。神聖術はLv9、これにより手に入れた術は”再生”である。以前”聖域”について教えてくれたラグさんに、”再生”についても尋ねてみた。渋りながらも教えてくれた内容を一言でいうと、部位欠損はもちろん、ありとあらゆる病気すら治療可能な術とのことだ。それってむちゃくちゃ凄いじゃないか、と声を上げた俺に、ただし、とラグさんは付け足した。
「魂に欠損のないことが条件よ。」
……魂に欠損、ってどういうことなんだろう。重ねて訊いてみたのだが、それについては何故か教えてもらえなかった。
神聖術はもしかしてラグさんが引かせてくれたのか? とも思ったのだが、これはたまたまの偶然らしい。ただ……
(神聖術を引かせたのは私じゃないけど、約束では「ルイスの命が助かれば、あなたが私の言うことを何でも聞く」だったでしょ? ルイスは助かったのだから、貸し1よ。忘れないように。)
と釘を刺された。確かにそう言ったね、俺……作らなくていい借りを作ってしまったな。
さて、ぺらぺらとスキル鑑定紙を捲っていたフィーが、ある項目を見て大きな声を出した。
「美肌!?」
無言でフィーにほっぺを突かれる。
「つるつる、もちもち……くっ!」
フィーは自身の肌と俺の肌の感触を比較し、悔しそうな顔をした。
「シンク……。」
「な、何だよ?」
「”美肌”を”教授”して。」
「……いや、それ系統は教授できないだろう?」
「”美肌”を”教授”して。」
「だから……。」
「”美肌”を”教授”して。」
「えっとね……。」
「”美肌”を”教授”して。」
フィーはこの後、俺が何を言っても壊れたレコードがごとく「”美肌”を”教授”して」を延々と繰り返したのだった。……極技が増えていることよりも、そっちのほうが重要なのね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます