第8話
なんと! とーちゃん、かーちゃんは冒険者だったのか。レンファさんは子供たちの練習を見ているから、何となく戦闘の経験者かなーっと想像はしていたが、同じパーティで冒険していたとは驚きだ。ただの仲の良いご近所さんじゃなかったんだな。
「とーちゃんとかーちゃんが冒険者!?」
「驚くのも無理は無い。アルバはともかく、セリアは少々世間とは認識がズレた世界に生きているからな。向いているようには見えないだろう。」
なかなか遠まわしな言い方だ。確かに、かーちゃんが戦う姿は想像出来ない。
「だが、セリアはあれで非常に優秀な神聖魔術の使い手だ。感覚的に分かるのか全体がよく見えていて、補助や回復のタイミングも良い。まあ、そういった動きを計算でこなせるような人間では全くないから、動物的勘ってやつなのだろうな、あれは。」
かーちゃんの評価が容赦なく上下する。だが、嫌っているようには感じない。親しみを感じる。
「ギースさん、神聖魔術って何ですか?」
「ふむ。魔法にはいくつか種類かあるが、神聖魔術は回復や浄化、補助に特化したものだ。魔術の種類についても説明しておこう。まず4元素、火、風、土、水。そして光と闇。さらに世の理を表す天と地が存在する。その他に神聖、暗黒、精霊、悪魔、付与だな。」
魔術の種類多いな! そして”地術極 メテオスウォーム”は4元素じゃないのね。
「土と地、って違うものなのですか?」
「土は、そのまま土や砂を操作する魔術だ。地は、重力……そう、重さを操作する魔術だな。」
おぉ! そうすると……
「天は、時空……、うーむ……広さや時間の流れを操作する魔術だ。天と地以外は、努力で誰でも習得可能だ。この二つだけ、特別な才能が必要だと言われている。」
特別な才能と言われると欲しくなるなぁ。チートっぽくて素敵だ。あれ? そういえば、スキルレベルが上がることで技や魔法を習得できるのなら、”地術極 メテオスウォーム”ってのはどのくらいの位置のものなんだろう? どうやって聞こうかな? あ、そうだ。
「ギースさん、一番強い攻撃魔術って、なんて名前なんですか?」
わくわくしてるっぽい顔をして聞いてみた。実際、最強魔術とかわくわくするしかない単語だ。
「うーむ。私も全てを知っている訳では無いので答えられない。ただ、恐らくどれかの「極術」だろうな。「極術」というのは、一つの術式を極めた者が神から試練を受け、達成すると授けられると言われている魔術だ。300年ほど前に、実際に使われたという記録が残されいる。人間同士の戦争……国と国の争いだな。それで使われたらしい。記録によるとどうやら火の極術のようではあるが、詳細は不明だ。ただ、1撃で相手の軍が壊滅したらしい。」
どれくらいの規模の戦争だったのかは分からないが、軍が壊滅したと記録されているぐらいなら、100人や200人そこらってことはまず無いだろう。それだけの威力があるのか。とても使えたものじゃないな。
「術を極めるって、どうやるのですか?」
「極めるまでの道だが、火術で言えば、火術がLv10になると火術・地級のスキルを得ることが出来る。そして、火術・地級をLv10にすると、今度は火術・天級のスキルを得る。その次が火術・極級で、これをLv10にし、試練を乗り越えた暁に極術へ至る、と言われている。大抵のものが、生涯をかけて天級を会得するのがやっとだから、あまりにも遠い道のりだ。極級に届けば国の英雄に。極術を得れば、歴史に名を残すだろう。」
いろいろすっ飛ばしてガチャで手に入れてしまったとは言えない。なるほど、中級が地級で、上級が天級、さらに上が極級だな。
「天と地、神聖、暗黒、精霊、悪魔、付与にはそれらの地級・天級・極級のような位は存在しない。いや、確認できていないと言うべきか。それらの魔術は、他に比べ恐ろしく成長速度が遅い。Lv10へ至ったという話すら聞いたことがない。極術の有無も分からない。ちなみにだが、剣術などには同じように地級・天級・極級・極技が存在する。冒険者の基準としても、地級に至れば一人前といった風潮がある。」
少なくとも地術には極術があるみたいですよ。と、心の中でつぶやいてみる。
話が一段落したとき、突然、部屋のドアが大きな音を立てて勢い良く開いた。
「シンクちゃん! 気を失ったって本当!?」
かーちゃんが凸って来た。
「セリア、落ち着きなさい。ただのMP枯渇だ。すでに意識も覚醒している。大事は無い。」
ギースさんが落ち着いた声で諭すように言った。
「ギーたん! そう言っても私はママだから! 心配なの!」
ぎ、ギーたん?
「セリア、何度も言うがその呼び方はやめてほしい。」
「だってギーたんは顔も名前も可愛くないんだもの。せめて呼び方だけでも可愛くしないと。ねぇ?」
かーちゃんもギースさん本人を目の前にえらい言いようだな。
「私に可愛さは不要だと、何度も言っているだろう。君の夫であるアルバか最愛の息子をそう呼んで可愛がってあげればよいだろう。」
よっぽどイヤなのか、誰でも良いから次の獲物を与えようとしているように見える。
「パパはパパだからパパじゃない? シンクちゃんはシンクちゃんでしょ? 何を言っているの?」
いや、あんたが何を言っているの? だよ。ギースさんは深呼吸を二、三度繰り返した。俺も今朝、話の通じないかーちゃんとやりあったばかりだ。気持ちは良く分かる。
「……分かった。とりえず、シンクたんを連れて帰りなさい。もう大丈夫とは思うが、今日一日は安静にしておくのが良いだろうからな。」
しれっと擦り付けようとしてくるね。ギーたん。
「見ててくれてありがとうね! ギーたん!」
だが、失敗したようだ。
「いや、こちらの不手際だ。心配させてしまってすまなかったな。」
あまり期待してなかったのか、さほど残念そうではない。
「じゃ、シンクちゃん帰るわよ。」
そう言ってかーちゃんは俺を抱きかかえた。前抱っこだね。この状態だとかーちゃんの胸が顔に当たってとても気持ちが良い。パイ枕だ。子供の身分ってのは良いものだ。思春期にこれをやられたら恥ずかしさで悶え死にそうだが、今は精神が肉体に引きずられて幼くなっているのか、全く恥ずかしくない。安心できる。抱っこ状態で家のベッドまで運ばれ、パジャマに着替えさせられ布団をかけて寝かしつけられた。なぜか最後にラグさんを布団の上から乗せられている。ラグさんも迷惑そうだが諦め顔だ。
「ラグさんが重しになってるから、これで布団がずれないわね!」
そういうことね。かーちゃんの奇行を理解するのには骨が折れる。別に風邪をひいているわけでも無いが、今は5月なのでまだ肌寒い。ちなみに俺の誕生日は5月12日だ。
かーちゃんはベッドの横に椅子を持ってきて座り、ずーっとこちらを見ている。
「かーちゃんは神聖魔術が得意だ、ってギースさんから聞いたよ。」
「そうよ。神聖魔術は得意よ。でもね、すぐ魔法でなんとかしちゃうのは良くないの。体が弱くなっちゃうらしいのよね。だけど、もしも何かあったらすぐ治してあげるから、安心しておやすみなさいね。」
なるほど。病気になっても、ずーっと横で心配そうに見ていたのはそのためか。魔法ではなく自分で治さないと、自己治癒力が強くならないのだろうと予測される。俺はそのまま、かーちゃんに見守られながら眠りについた。
目が覚めると夕方だった。MP枯渇は身体に影響が大きいようだな、注意しよう。ふと横を見ると、ベッドに寄りかかるようにかーちゃんも寝ていた。窓から入ってくる夕焼けを、しばらくぼんやり眺めていると、かーちゃんも目が覚めたようだ。
「シンクちゃん、おはよう。」
「おはよう。かーちゃん。」
二人してぼーっと窓から見える夕焼け空を眺める。ラグさんはいつの間にかいなくなっており不在だ。
「シンクちゃん、ママはとても大事な話があるの。」
急にまじめな顔をして聞いてきた。あ、あれか? レンファさんが言っていた夢の話か?
「晩御飯できてないの。準備すらしてないの。どうしましょうか?」
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